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5話 <春・4月16日> 

――◇――◇――◇――◇――◇――


 遠くのほうで朝日が昇る。

 ぼくがこの家に引き取られてから、二度目の春が来た。

 まだ、空気は少しだけ肌寒い。

 だけど昼になるころには、ぽかぽかとした陽気になって、とても気持ちがいい。最近は、昼寝をするためだけに小屋から出てくるくらいだ。温かい陽の下で横になっていると、別に眠くなくても、うとうとと瞼が重くなっていく。こみ上げてくる眠気に身をまかせて、お腹が減るまで眠り続けるんだ。

 あぁ、ぼくは幸せものだなぁ。

 

 榮倉家の話をしようと思う。

 榮倉家とは、ぼくの新しい飼い主さんのことだ。この家に来てからそれなりに経っているので、ぼくは彼らのことを家族だと思っている。彼らもぼくを家族として迎え入れてくれた。それがすごく嬉しい。


 家族のなかで一番の早起きさんは、間違いなく、……ぼくだ。

 朝日が昇ると一緒に目を覚まして、運動がてら軽く前足を伸ばす。次に後ろ足。本当は軽く散歩にでも行きたいけど、首に繋がれた鎖のせいで一人では遠くに行けない。

 最初こそはずいぶんと不自由に思ったけど、数カ月もすれば、そんな生活にも慣れた。

 そもそも、ぼくはインドア派だ。小屋のなかをこよなく愛している。散歩か昼寝か、と問われたら、迷うことなく昼寝を選ぶだろう。好き勝手に散歩ができないからって、大きな問題ではない。


 ぼくの次に早起きなのが、三太さんた兄ちゃんだ。

 三太兄ちゃんとは、榮倉家の四人兄弟の三男坊で、とても頑張り屋さんな十五歳の男の子だ。ちなみに四人兄弟の末っ子は、ぼくのことだ。

 家の玄関から出てきた三太兄ちゃんは、『シナイ』と呼ばれる棒切れをもって、庭へとやってくる。朝ごはんまで、このシナイを振り回すのが兄ちゃんの日課だった。その棒切れを振り回すことがどれだけ楽しいことなのか、ぼくには理解できなかったけど、きっととても大切なことに違いない。

「面っ! 胴っ!」

 シナイを振りながら、三太兄ちゃんが大きな声をあげる。物知りの友達によれば、あれは『剣道』と呼ばれる戦いの稽古らしい。

 なるほど。三太兄ちゃんは喧嘩の稽古をしているのか。その話を聞いた時、ぼくは心の底から納得していた。

 きっと、好きな女の子でもできたんだろう。

 犬でも、人間でも。好きな女の子は力尽くで奪うことには変わりないらしい。

 がんばれ、三太兄ちゃん!

 応援しているよ!

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