4話
「おぉ、随分と仲良しになったのぉ」
飼い主さんが嬉しそうに近づいてきた。
ぼくはというと、遊び疲れてしまって、一番小さい男の子の腕に丸くなっている。
「よかったのぉ。この黒いチビは、家族にも馴染めていないようでな。飯もろくに食わんのだ」
それは誤解だ、といいたかった、
でも、疲れ切ったぼくは何もいうことができなかった。
「そうなんだ」
「家族でも、そんなことがあるのかな?」
「あると思うよ。一匹だけ色が違うと、群れの中で孤立してもおかしくない」
一番年上の男の子が、ぼくの黒い毛を見ながらいった。
ぼくは何となく居心地が悪かった。また、この黒い毛のせいで、みんなに迷惑をかけているんじゃないか。そう思うと心配でたまらなくなった。
だけど、飼い主さんの一言で、ぼくの悩みなど遠くへ吹き飛んでしまった。
「のぉ。よかったら、このチビを引き取ってはくれんか?」
その声は、とても穏やかなものだった。
「こいつが楽しそうに走っているところなんて、初めて見たんだ。ウチで飼っていても、飯も食わずに死んでしまうかもしれん」
飼い主さんは、ぼくの襟首をつかむと、そのまま宙へぶらりと持ち上げる。ぼくは疲れているので、されるがまま手足をぶらぶらさせた。
「このチビにも、家族が必要なんだ。お互いのことを想ってやれる、本当の家族がのぉ」
それは、どこか寂しそうな顔だった。
そういえば、この家で飼い主さん以外の人間を見たことがない。もしかしたら、飼い主さんも家族がいなくなって寂しいのかもしれない。そんなことを思うと、ぼくの心の奥が少し苦しくなった。
数日後。
ぼくはガタガタ揺れる乗り物のなかにいた。自動車と呼ばれる乗り物で、そこで三人の男の子たちが熱心に話し合っている。
「太郎でいいんじゃないか?」
「平凡すぎるよ。一兄ちゃん、もっとマジメに考えて」
「タロー、でどうだい?」
「健二兄ちゃんも。言い方を変えただけじゃない」
どうやら、ぼくの名前を考えているようだった。自分の名前だから少しは興味があるけど、本当はどうでもよかった。
この人たちの声に耳を傾けているだけで、なんだか落ち着いた気分になってくる。
お母さんと離ればなれになるのは、少し寂しかった。兄弟と別れるのも、ちょっとだけ辛かった。
だけど不思議なことに、今のぼくはとても落ち着いていた。もしかしたら、家族から自分を連れ出してくれたことに、ほっとしているのかもしれない。
あの優しい家族にはいらない黒色が、こうやって連れ出された。きっと、みんな幸せになれるだろう。
あるいは、この人たちがぼくと同じ黒色の毛をしていたからかもしれない。今日からこの人たちが。ぼくの家族だ。
ぼくの名前は、タロ。
大好きな家族がくれた、たいせつな名前だ。