13話
そんなことがあって、ぼくはいつも通りに昼寝を満喫した。
昼過ぎにママさんと散歩をして、晩御飯をたくさん食べて。そして、昨日と同じように小屋から顔だけ出す。もうそろそろ、三太兄ちゃんが帰ってくる時間だ。
だけど、いつになっても帰ってこない。
あれ、どうしたんだろう?
いつもと違うことに、ぼくは奇妙な感覚になる。胸の奥がざわざわとした、落ち着かない気持ちだ。
そうこうしていると、健二兄ちゃんのほうが先に帰ってきた。
家の前に自転車を止めて、眠そうにあくびをしている。そういえば、健二兄ちゃんがすっきりと目を覚ましているところなんて、見たことないや。
「え? 三太、帰ってきてないの?」
ママさんが玄関から顔を出して、健二兄ちゃんにいった。。
「ふわぁ。大丈夫だよ。三太だって、もう中学生だよ。友達とどこか寄り道しているんだよ」
健二兄ちゃんが緊張感のない声で答える。
だけど、ママさんはどこか心配そうな顔であたふたとしている。
「まだ中学生じゃない。どこかで事故にあったりしてないかしら」
「大丈夫だって。母さんは心配性だなぁ」
健二兄ちゃんが家のなかに入っていく。
ママさんたちの会話が聞こえなくなったけど、ぼくのなかにある、このざわざわした気持ちはなくならない。どうしたんだろう。三太兄ちゃんに何かあったのかな?
ぼくはいてもたってもいられず、自分の小屋の上に飛び上がった。こんなことをすると怒られるのだけれども、そんなこと気にしてはいられない。小屋の上から、三太兄ちゃんの通っている中学校のほうを見る。だけど、兄ちゃんの姿は見えなかった。
代わりに、見覚えのある灰色の大型犬が見えた。遠くのほうを悠然と気ままに歩いている。間違いない。あれは、ゲンタ君だ。
……わんわんわんっ!
ぼくはできる限り大きな声で、ぼくの兄ちゃんを見なかったかい、と吠えた。すると遠くから、見てねぇよ、と返事があった。それだけいってゲンタ君はどこかにいってしまう。もっと聞きたいことがあったのに、と不満に鼻を鳴らした。ぼくの不安は大きくなっていくばかりだ。
それから、一時間くらいしても。
三太兄ちゃんは帰ってこなかった。
家の中から、ママさんの心配そうな声が零れてくる。その気持ちはよくわかるよ、と思いながら、ぼくも小屋の前でぐるぐると回る。できることなら、いますぐにでも三太兄ちゃんを探しにいきたい。でも、首輪があるせいで自由に動けない。ぼくは生まれて初めて、首輪と鎖を煩わしいと思った。
そんな時だった。
榮倉家の玄関が、かちゃと開いた。音を立てたくないのか、ゆっくりゆっくりと開いていく。そして、そろりと家から出てきたのは。なんと、健二兄ちゃんだった。手には散歩用のリードを持っている。
「ねぇ、タロ。散歩に行きたくないかい?」
健二兄ちゃんは静かにいった。
すぐにぼくは、兄ちゃんのいいたいことがわかった。
……わん。
そうだね、とぼくは小さな声で答えた。
健二兄ちゃんは、ぼくの首輪にリードをつけると、すたすたと歩き出す。
「僕ね。三太の中学校のほうに行きたい気分なんだ」
……わんわん。
奇遇だね。ぼくもそう思っていたよ、と答えた。




