楽園の庭/箱庭の住人
まるで死人のようだとベッドに寝かされたアンジェリカを見つめて思った。
その死人のような彼女の傍らには正体不明の男が立ち、アンジェリカにつながれた無数の機械を睨み付けながら彼女を、いや、彼女の胸に埋め込まれたホーリーローダー、ガブリエルを「修理」している。
時計もないこの地下の部屋では時間の感覚が極端に曖昧だった。焦燥に駆られたウィルが男に話しかけては、何もできないならせめて邪魔をするな、と何度も怒鳴りつけられていた。
そのうちに男は大きくため息を吐き、手にしていた見慣れない道具を置いた。
「終わったのか?」
「ああ、なんとか、な」
男はそう言うが、ウィルの目にはここに運ばれてくる前後のアンジェリカの様子に違いはないように見える。あいかわらず冷たい顔で、まぶたを閉じて静かに死んだようにして天井を見上げている。
長時間の作業で固まってしまった肩をほぐすように動かしながら、男は言う。
「その顔は、いろいろ聞きたいって顔だな。いいだろう。場所を変えよう」
そして男は一階へと続く階段を上り始めた。ウィルはしばらくアンジェリカの様子を眺めていたが、男の後を追って一階へ向かう。
一階のリビングでは、男が機械からカップにコーヒーを注いでいるところだった。
「とりあえず座りたまえよ」
自分の分とウィルの分、二杯のコーヒーを注ぎ終えた男は、テーブルにコーヒーをひとつ置いて、自分は窓際に寄りかかるようにして立ってコーヒーに口をつけた。
「ここはどこなんだ…?」
ウィルのその質問に、男はぴくり、と小さく眉根を上げる。
「ふむ…ここは『箱庭』の中だ。投げ込まれてきた黒い球が突然爆発してお前たちが出てきた。それ以外のことは私は知らん」
「箱…庭…?」
「お前たちが『楽園の庭』と呼ぶ、あの鍵で開かれる秘密の箱庭の中だ」
男の言葉を、ウィルは頭の中で繰り返しながら、ここまでの経緯を思い出す。
アンジェリカがガブリエルの何らかの力を解放し、あの世界を破壊したとき、ウィルは元の世界、つまりエデンの城のどこかに出ると考えていたが、予想に反してウィルは地平線まで続くような草原の只中に居た。
アンジェリカの方はと言えば、荒い息で縋るようにウィルを見上げた後何か言ったようだが、ウィルの耳には届かなかった。まともに声を出せなかった彼女はそのまま草原に力なく倒れこんでしまったのだ。
慌てて抱えあげたが、ウィルの手の中で硬く目を閉じ、動く気配が無い。まるで死んでいるようで、自分の頭からさっと血が引いていくのを感じていた。
そこに現れたのが、目の前でコーヒーをすするこの男だ。
二人を一瞥すると、治してやるからつれて来い、と短く言い放って歩き出してしまった。
男は小さなログハウスに入ると、壁にしつらえられたボタンを押して地下への扉を開いた。そこはアンラで見たような機械が詰め込まれた無機質な部屋で、男は中央に台を作るとそこにアンジェリカを寝かせるように言い、治療を始めたのだ。
男はここが箱庭の中だと言った。聞きなれない言葉だったが、そのあとに続いた言葉でその正体を理解した。
ここはあの鍵、つまり、ランスロットの持っているホーリーローダー『楽園の庭』で開かれる世界なのだ。近衛隊長という身分からその特性はよく知らされていたし、ランスロットに付いて何度か中に入ったことがある。言われてみれば、外の草原はその時見た楽園の庭によく似ている。
この男の言うことを信じていいものかまだ決めかねているウィルだが、それ以上の決め手を持たないのも事実。とりあえず今は男の言うことを信じる以外にない。
「ここが楽園の庭だというのなら、一刻も早く出ないとな」
ウィルはそう考えた。楽園の庭の加速特性については知っている。ここで少しもたもたするだけで外ではどれだけの時間が流れるか。正確なところは覚えていないが数分の滞在でも数日経過したはずだ。他の皆が心配だ。二人は敵の襲撃を受けてここに飛ばされてきたのだから。
「どうやって出ればいい?」
ウィルが知っている楽園の扉を開く方法はランスロットの持つ鍵を使う方法だけだ。そしてここにその鍵はない。
連絡手段もないから、外のランスロットに鍵を使ってもらうように頼むこともできない。
「楽園の扉を開くには特別な鍵が必要だ。見たところお前はそれを持っていないな?ならば黙っておとなしく待っていろ」
想定通りの回答にウィルの焦りは募る。
「なに、この娘が目を覚ませばガブリエルの力で内側から扉を開けられる。そう焦ることもあるまい」
こともなげに男は言い放った。
アンジェリカの治療ができるのだから何も不思議はないことだ。
実のところ、ウィルは男の正体についてある予測を立てていた。
楽園を我が物顔で闊歩し、その中に自由に使える高度な設備を持ち、ホーリーローダーの事情に精通し、アンジェリカの治療とガブリエルの修理が可能な人物。そんな人物がそうそう存在するはずがない。
「お前が、あれを…アンジェリカの胸のホーリーローダーを作ったのか?」
その問いに、男はピクリと眉を動かす。
「なるほど、アンジェリカと一緒にいただけあって、いろいろと知っているようだな」
にやり、と男の顔が愉快そうにゆがんだ。
「アンジェリカはあれは自分の父親が作ったと言っていた。死んだ自分を生き返らせるために、あの石を作ったのだと」
「ほう、そんなことまで話しているのか。信用しているのだな、君のことを」
男はコーヒーでのどを潤してから静かな声で語り始める。
「いかにも、私がアレを作った。そしてあの娘の父親でもある。名は、もう知っているかな?ラッツォ・メディオという。世界が一度滅びる前は魔導機関の研究をしていた」
男の告げた名はかつてスネイクから聞いたものと一致している。
「魔導機関は知っているか?」
その言葉にウィルはスネイクの屋敷で見つけたおもちゃのような銃を思い浮かべた。あとはアンラで魔術師の襲撃を受けた時にプロビが使用していたもの。ダークローダーとよく似て不思議な力を持っている、自分には扱えなかった、そんなものだ。
「そう、あれは便利だが誰にでも使えるようなものではない。使うのにコツのようなものが要るのだが、それは人が生来生まれ持つような類のもので後から訓練でどうにかなるような代物ではなかった。才能がすべてだ。結果、世界は魔導機関を使える者と使えない者に二分された。『魔女の末裔』が過剰な選民意識を持ち始めたのもよくなかった。魔女の末裔でなければ人間ではないという極論を唱える者たちすら現れた。だからこそ私には最前線の研究者として、誰にでも扱える魔導機関を創り出す義務があったのだ。そしてその研究はうまくいっていた。あの日までは」
男はぽつりぽつりと記憶を語り始めた。その声色からは男の諦観にも似た感情が読み取れれる。
「あの日、私の研究があらかた完成したころ、私と同じように大学で魔導機関の研究をしていたアッシュ、アンジェリカの幼馴染であり恋人でもあった男だが、そいつが私の研究成果を盗むために研究室に忍び込んで厳重に保管していたある魔導機関の試作品を盗み出したのだ。それこそが現在ではダークローダーアーク、あるいはルシフェルと呼ばれるものだ」
ルシフェル。
それは現存するすべてのダークローダーの基になった存在。スネイクの話に出てきた、アンジェリカの持つガブリエルと対をなすもう一つの魔石。
「警報に駆け付けた私とアンジェリカに見咎められたアッシュは不完全なルシフェルの力を使い脱出を試みた。結果起こったことは悲劇でしかなかった。アンジェリカが死んでしまったのだ」
その時の話は、アンジェリカの世界で本人から直接聞いていた。
アッシュが石を暴発させて、それに巻き込まれて自分は一度死んだのだ、と。
「不完全なルシフェルの制御は困難だったに違いない。アンジェリカを殺してしまったという後悔もあって、彼はすぐに狂ってしまったよ。彼は吹き飛んだ研究室の壁から外に飛び出すと、世界中を破壊して回った。まるでアンジェリカが死んだ責任を世界そのものに押し付けるように、彼は目につくものすべてを破壊していった」
アンラの図書館にあったスネイクの著書にもそれらしい記述があった。アッシュが見たのは童話の体で書かれたものだったので、たしかこんな内容だ。ある日、悪魔がやってきた。悪魔は三日三晩破壊の限りを尽くしたが、三日目の晩についに魔石に封じられた。その石こそが現在あるすべての魔石の生みの親である、と。
「その破壊は不完全だったルシフェルが過負荷で停止するまで続いた。時間にすると短いものだったが、巨大な町が一つ地図から消えることになった。何人死んだかなんてわからなかった。きっと今この世界に生きている人間よりも多くの人間があのとき死んだ。その後アッシュはルシフェルとともに捕らえられて軍の研究施設に送られたようだ」
ウィルは黙ってラッツォの話を聞いていた。
アンジェリカと出会い、スネイクの話を聞き、アンラでスネイクの残したものを見ていなければ、彼が何を言っているか欠片も理解できなかったかもしれない。今ですら実際の所はほとんど理解できていないのかもしれない。
そんなことはお構いなしに、ラッツォは勝手に自分が喋りたいことだけをただ喋っているのだ。自分が見てきたことをとにかく誰かに伝えたいと、ただそれだけを考えている様にウィルは思った。
「私はアンジェリカの亡骸をこの箱庭のようなところに閉じ込めて、魔導機関の力を使ってあらゆるものを遠ざけて研究に没頭した。もちろん、アンジェリカを生き返らせるためだ。大事な一人娘だからね。いや、それは言い訳か。私は単なる研究者の知的好奇心に衝き動かされていたのだ。アークの完成は目前に迫っていたし、それがあればアンジェリカを生き返らせることすら可能という確信もあった。誰にも成し遂げられなかったことが成し遂げられる、という欲望があった。しかし軍に捕まればすべてが水の泡になることもわかっていた。奴らは、兵器を開発することしか頭にない。事実、軍に協力させられていたかつての仲間たちから漏れ聞こえてくる話は魔導機関の研究などではなく、アッシュからいかに効率的に武力を取り出すかという話ばかりだった」
空になったマグカップを握りしめるラッツォの手は怒りで震えていた。
彼はふう、と小さく息をついてすぐに冷静さを取り戻す。
「アッシュが世界を破壊した力は『創世反応』という。魔導機関は魔女の末裔が持つ世界を作り変えるための力、より正しくは『世界を自分の認識に近づける力』をただ増幅していたに過ぎない。魔女の末裔とはよく言ったものだ。その力はまさに魔法。なんだってできる。私はついにその力を誰もが操るための方法を発見したに過ぎない」
それからウィルが止めるまでの数分間、ラッツォは魔導機関がどのような仕組みで動いているのか、それをどのようにルシフェルに組み込んだのかについて滔々と語ったのだが、ウィルはそのほとんどを理解できなかった。
ウィルを責めることはできない。スネイクならばあるいは相槌代わりの質問ぐらいはできたかもしれないが、ラッツォの話を理解できるほどの知識を持っている人間など今この時代には居ないのだ。
「―ついにアークは完成し、無事に娘を生き返らせることに成功した。初めは記憶に障害があったがそれもすぐに回復した。もっとも、回復した途端に娘はアッシュを探すと言って出て行ってしまったがね。行きがけの駄賃代わりにその時彼女が持ち出した八つの汎用魔導機関が今ホーリーローダーと呼ばれているものの正体さ」
そこから先のことを、ずっとこの箱庭に居たラッツォは殆ど知らないのだという。ウィルがスネイクから聞いた話とスネイクの書いた物語の話を聞かせてやると、ラッツォは嬉しそうにそれを聞いた。
「どうして、あなたはここに?」
尋ねると、気恥ずかしそうに鼻の頭を掻いてからラッツォは答えてくれた。
「娘と喧嘩したんだ。娘が出ていくときにね。それで、怒った娘にこの中に押し込められた。次に扉が開いたのはいつだったかな。私にとっては二カ月ぐらいのものだったから、だいたい二百年後か?」
「外に出ようとは思わなかったのですか?この場所へと続く扉の鍵を作ったのがあなたなら、あなたはいつでも出られたはずだ。」
「確かに、すぐにとは言わないが、数カ月かければそれも可能だろう。しかし私はこの中に残ることを選んだのだ」
あっさりとラッツォは言い放つ。
「そもそも、この箱庭は短い人の命では絶対に見ることのできない時間の先へ行くために作ったものだ。そのための準備は十分にしてある。私はこのままここで世界が滅びるまでの時間を過ごすつもりだよ」
くっくっく、とラッツォの口から笑い声が漏れた。
「大方、私が予備の鍵を持っているんじゃないかと思ってそんなことを聞いたんだろうが、当てが外れて残念だったな」
まさにその通り、図星を突かれたウィルはバツが悪そうに視線をそらす。その様子をひとしきり眺めてからラッツォがゆっくりと立ち上がった。
「さて、と。話も終わったことだし、そろそろアンジェリカを起こそうか」
「…は?」
「すまないね。実はいつでも起せたんだよ。君が急いでいるのはわかっていたんだが、どうしても君と話をしたかった。アンジェリカの傍らに立っていた君と、ね。私の知らないアンジェリカの話も聞けた。満足だよ」
すべてがこの男の掌の上だということは重々承知していたが、それでもウィルはやり場のない憤りを感じないわけにはいかない。こっちは一刻も早く外に出たいのに。この男と話し始めてからどのぐらい時間がたった?軽く二時間は経過している。治療を開始してからは半日以上だ。外でどれだけの時間が流れていたかなど考えたくもない。それが顔に出ていたのだろう。
「はは、怒らないでくれよ。とりあえずひとつ、これを聞いて君が安心するかどうかはわからないが、君たちが飛び出してきた黒い球体、あれは恐らくこの箱庭と同種で、しかし反対の特性を持つものだったに違いない。あの球体が破壊されたことでこの箱庭の中は極めて不安定な状態になってしまった。恐らく今は平時ほどの減速効果はないはずだ」
「それは、どのくらい?」
「そんなこと知るか。運が良ければ二倍、悪ければ百倍、もっと悪ければ逆に一万倍や十万倍になっておるかもしれん」
結局のところ、何も安心できないということがわかっただけだ。外に出てみないと何もわからない。祈るしかない。
二人で連れ立って地下室で眠るアンジェリカの前に立つ。最後に見た時と変わらず、死んだように眠っている。
いや、これはたぶん、死んでいるのだ。眠っているのを起こすのではなく、死んでいるものを生きているものにする、それが今から行われるのだろう。
アンジェリカのそばに道具を並べていたラッツォがウィルを見る。
「すまんが、大事なものを忘れてきてしまったようだ。私はここで準備をしておくから、君は二階の物置から道具を集めてきてくれ」
そう言って走り書きのメモを渡す。
ウィルは二階でメモに書かれているものを集めていった。何に使うのかさっぱりわからないが、平たい黒い塊だとか、細い紐のようなものだ。
絵で描かれているのでそれっぽいものを集めた。違っていればまた取りに来ればいい。メモの端には何やら文字が書かれていたが、残念ながらウィルには読めない文字だった。
「これでいいか確認してくれ」
箱一杯に雑多な部品を詰め込んで地下室に戻ったが、そこにラッツォの姿はなかった。入れ違いになったか、と箱を置いて一階に戻ろうとすると、背後で人が動く気配があった。
「ラッツォさん?」
振り返ると、ベッドの上で体を起こしたアンジェリカと目があった。
上半身は裸で、胸元のアークを触りながら、そして見るからに機嫌が悪い。
「今、とても聞きたくない名前が聞こえたんだけど?」
「あ、ああ。お前を治療してくれたんだ、ラ」
「いい、わかってるから」
言葉を遮って、治療台から降りる。
ウィルがそばにあったアンジェリカの服を投げてやると、素早く袖を通す。
「ここにはほかに誰かいた?」
「いや、だれも」
「そう…なら、そういうことなのね」
アンジェリカは一人納得したように頷いていた。
「あの男はたぶん出て行ったのよ。もう会うこともないわ」
アンジェリカが前に生き返ったとき、最後は喧嘩して別れたと言っていた。そんなに顔を合わせたくないものなのだろうか。六百年以上も前の話だというのに。
ウィルはふと、手にしているメモのことを思い出した。
ラッツォはウィルがこの文字を読めないことを知っていた。だからこれは、アンジェリカに向けたメッセージに違いない。
「あの男は、最後にこれを書いていた」
メモを見せる。アンジェリカはそれを一瞥すると、さらに不機嫌になってそのメモを破り捨ててしまった。
「後のことは任せた、じゃないわよあのくそ親父!!」
破り捨てただけでは飽き足らないのか、散り散りになったメモを執拗に踵で踏みつけている。
メモがすっかりヨレヨレになってしまった頃、アンジェリカは飽きたのかその行為をやめた。
「ここって、『箱庭』で合ってるのよね?」
「あ、ああ。確かにそう言っていた」
「じゃあ、さっさと帰りましょう」
アンジェリカが胸元に手をかざし、アークの力を引き出す。
「勇者スキル発動!カギよ、開け!!」
言葉とともに、何もなかった地下室の壁に質素な扉が現れた。ウィルが昔見た、ランスロットが開いた扉が正面玄関だとすると、こちらは勝手口だろうか。
アンジェリカが扉を押すと、それは音もなく開いていく。二人そろって外に出ると、扉は再び静かに閉ざされた。
扉の外は、真っ暗な部屋だった。カーテンが閉ざされていて夜だか昼だかもはっきりしない。ただ、その部屋の中心に、腕を組んで椅子に腰かける男がいた。ランスロットだ。
「っ…!」
ランスロットは二人に気付くと、あわてて駆け寄ってくる。
とりあえず、ランスロットが爺さんになっていなくてよかった。
何年何十年もたっている、ということは無さそうだ。
「どのぐらい経った?」
「三か月ちょっと、かな」
「みんなは?」
「無事だ。ウロボロスは不気味なほど静かだ。前の襲撃で脅威は取り除けたと思っているのだろう」
「そうか」
無事が確認できて一安心だ。
「あの人に会ったのか?」
唐突に、ランスロットが言った。
あの人、とは、一人しかいない。ウィルは首肯する。
「よかった。ウロボロスから正体不明の攻撃を受けてね。時間稼ぎのためにとっさに君たちを向こう側に送り込んだのだが、こちらからではどうすることもできなかった。八方ふさがりでね。あの人だけが頼りだったんだ」
ランスロットは毎夜、鍵を握りしめて祈っていた。
すぐにでも中に入って状況を確認すべきだとも考えたが、何もできない自分が行くよりはウロボロスを警戒しなければならない中で少しでも時間を稼ぐことを優先して扉を開かないことを選んだのだ。
「…あの人の話はしないで」
低く鋭い声でアンジェリカが言った。その声にランスロットは驚きを隠せない。
「彼女は何をあんなに怒っているんだ?」
「……さあね」
ウィルはとぼけておく。わざわざこいつに話すようなことでもあるまい。
「まあいい。とにかく、これでようやく役者はそろった。反撃開始といこうじゃないか!!」
真っ暗な部屋の中、ランスロットは高らかに宣言した。




