奇跡になった恋の花
キッチンにただよう、ふんわりとした水蒸気。交ざる甘い香りは、ミルクに溶けたカカオ豆だ。渡したい人への憧れが、ブランデーと共に入っていく。
私はいわゆる、生チョコレートを作っていた。ひと混ぜする度に想い浮かぶのは、初めて握った白い手、はにかんだような笑み、抱きしめられた時のやわらかい感触。
こほん。さて、私の頬がちょっとだけ緩んできたところで、生チョコレートは出来上がった。今、せり上がって来る感情に似ている、ひし型に流していった。
「『いつもありがとう』んー、いや、これはバレンタインデーとしてどうなのかな……」
順調に進んだチョコレートとは対照的に、添える手紙に難航していた。私の気持ちは、どうしても素直に書けない。
そうだ、花を添えよう。華道部だから、きっと不自然じゃないと思う。この気持ちがちゃんと伝わればいいなって、そんな淡い期待が私の心に膨らんだ。
手紙の端に、ついでに描いた青い花。でもその輪郭は、矛盾をたたえるように歪んでしまっていた。
翌日。授業が終わった私は部室に着くと、すぐに目的の相手を見つけた。
「これ、チョコ」
はやる気持ちとは裏腹に、そっけなくチョコを渡す。自分でも嫌になるくらい、自然に渡せたと思う。相手は目をしばたかせて、少ししてから、はにかんだ笑みをこぼした。「ありがとう」とだけ、嬉しそうに返してくれた。
二月十五日。ある女の子の部屋に、赤と黄のチューリップが生けられている。チョコレートの残り香のする二つの花。それを割るように高く主張する主枝は、絵に描かれたような青い薔薇だった。
明言しない形でオチをGLっぽくしてみました。
青い花はブルーローズ。絵にしか描けない不可能な花が、奇跡的に実現する物語が書きたくて衝動的に書きました。