3.2(解説)
ここではこの短編と本編とのつながりを説明しています。
少女編である計五巻のどの部分と繋がっているのかをまとめています。
興味がありましたら該当部分を再読してみてください。
湖国の現皇帝・趙英龍には菊花という一人娘がいます。
菊花は一巻登場時から五巻まで七歳という設定の非常に幼い姫です。が、彼女は生まれの複雑さと特殊な環境での生活ゆえに、気性激しく一本気で、かつやや変わった考えを持つ姫になりました(たとえば一巻第一章3)。そんな菊花を楊珪己が救った経緯は少女編第一巻の縦糸となっています。
菊花は珪己によって父母との交流を始めることができるようになりました。しかし、次に、彼女は姫である自分の不自由さに気づき嘆きました。それはたとえば、宮城を出て旅行をするとか、そういった自由がないことです。それもまた珪己のアドバイスによって菊花は消化することができました(三巻第三章)。
このように、楊珪己は菊花にとって救世主のごとき人物なのです。
そして菊花の父である趙英龍にとっても、楊珪己は特別な存在となりました。
まずは娘やその母であり現側妃との断絶関係を珪己の一助で解決できたことが始まりでした。その際、珪己は文字通り命を懸け、それに英龍は深い恩義を抱きます(一巻第七章7)。ですがこの時点ではまだそこまでの感情しか珪己に対して抱いてはいませんでした。
珪己への感情に変化が生じたのは一巻で示した後宮以来での再会。三巻第六章6のとおり、二人は奇跡のような偶然によって再会しました。二人はその次の日(四巻第一章)も含めて深く語り合う機会を得て、また英龍の女性への肉体的な欲求の目覚め、楊武襲撃事変という重い過去を共有できたこと、それらが自然と二人の間にほのかな恋心を芽生えさせました。
この二人の淡い恋に趙龍崇はすぐに気づきました(四巻第五章2)。それ以前から龍崇は珪己に自ら近づき英龍の妃にすることを画策していましたが(たとえば三巻第二章4から8)、二人の親密さに気づき、龍崇は一気に行動にでます(たとえば四巻第五章5や6)。
しかし珪己は運悪く異国の王子・イムルに見初められてしまい、後宮に入る当日、誘拐されてしまいます。そして詳しくはもうここでは書きませんが、これがきっかけで最終的に英龍は珪己を抱き(五巻第七章7)、龍崇は英龍に「楊珪己は妃にはできない」と嘘をつき二人の縁を絶ったのでした(五巻第九章3,4)。
それから半年が過ぎた冬のひとときが本短編の舞台となっています。
なお、菊花の愛馬は英龍が贈ったもので、二巻第六章3,4に記載されています。




