2.3(解説)
ここではこの短編と本編とのつながりを説明しています。
少女編である計五巻のどの部分と繋がっているのかをまとめています。
興味がありましたら該当部分を再読してみてください。
この短編では本編では一切触れてこなかった李清照と袁仁威の関係について記しました。
楊武襲撃事変の直後に二人が一時期肉体関係があったことは一巻に記しています。しかし、事変の約一か月後、仁威は楊珪己と再会し、少女との会話の中で自分の不甲斐なさを自覚し、武官として再生するためにその夜を清照との最後の逢瀬としました(一巻第六章13)。
実は一巻執筆時からこの短編のイメージは頭の中にありました。
清照は少女編では二十六歳です。それなりに良い家の娘らしき美しい彼女が、この時代においてなぜいまだ独身で、かつ生家を離れて弟と二人で開陽に住んでいるのか。なぜ袁仁威というこの時代には恋愛対象になりにくい武官の男に報われそうもない愛を持ち続けるのか。そこにはこの短編で示したような背景があったからでした。
この短編で記したように、清照は望まれるところに嫁ぐものだと素直に思うような少女でした。本編で記した当初の楊珪己のような少女でした。珪己に比べれば常識人であり恋も愛も理解はしていましたが、それを前提にしても、決められたところに嫁げばいい、そう割り切っていました。
いえ、本当は割り切っているというよりもあきらめていただけです。武芸一筋で満ち足りていた珪己とは異なり、清照は自分自身に自信を持ちきれず、本当にこういう生き方でいいのだろうかという漠然とした悩みを持っていました。
だけと父親がそうしろというし、自分には家名と美貌しかない。
他に生きる道はない。
そう思い、だから清照は結婚したのでした。
李清照と袁仁威には大きな共通点があります。
それは二人が世間一般でいうモテるタイプだということです。
短編中、そして上のほうで記したように、清照は己の美貌に自信を持ちつつもそれしかない自分にジレンマを感じています。それは四巻第六章3でも彼女自身が語っているとおりです。
袁仁威もまた、外見だけで近寄ってくる女性には昔から辟易していました(たとえば四巻第二章2)。
そんな二人が、外見を理由とせずにこの短編では急接近しました。
そのことに二人はある種の喜びを感じました(というように表現したつもりですが、どうでしたか?)
だからこそ、清照は仁威を愛したのだし、仁威は事変直後に清照を頼ったのです。
また、この短編でも詳しくは語らなかったことについて。
清照は婚姻前に開陽にやってきて、手習いのために馬祥歌の親がひらく詩歌の教室へと通っていました。それは強制でした。が、離婚し、愛をモチーフにした詩を書きたくなり、清照は自発的に再度教室へと戻ります。このあたりのことは二巻での祥歌の語りに記載したとおりで、教室の誰もが清照の詩の世界を理解してくれなかったので、教室をやめ、今は独学で詩を制作しています(二巻第三章3)。




