あなたに逢えたから
幼なじみのリオンは……私の敬愛する王太子様は、少し見ない間に随分立派になっていた。陽光にキラキラ輝く金の髪はあの頃のまま。民衆にみせる笑顔も、歓声に応えて大きく手を振る様子も、とても素敵だった。王太子になってからも気さくな態度と彼の優しさは全く変わっていなかった。
けれど、以前は感じられなかった自信あふれる堂々とした態度に、感動で胸がつまる。彼が自分の幼なじみであることが、誇らしく思えてくる。
こんなに早くリオンの姿がまた見られるとは思っていなかった。活躍する元気な姿を見ることができて嬉しい。彼は王太子の責任を負うことで少年の殻を脱ぎ捨てて、急速に大人の男性へと成長しているようだった。
リオン、あなたはあなたの道を進んでいるのね? 私だけでなく、みんなが誇れる王太子様になって頑張っているのね?
あなたに逢えたから、私もまた前を向ける。
目的のために進んで行くことができる。
いつだって、一生懸命な自分で在りたい。
私はそう決意すると両手を胸に当て、遠ざかる祖国の馬車をいつまでも眺めていた——。
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「で、結局、リオンと接触できたの?」
「いえ、レイモンド様。あの人数では近寄るのも無理かと……。王太子ご自身もこちらには目を向けたようですが、気付かれたかどうかはわかりません。ただ、随行している兵の中に顔見知りがおりましたので、彼らが滞在中町に下りてくれば、話を通す事は可能かと」
今日、アリィと二人で町を散策していたガイウスが答えた。
ここは、彼らが宿泊している旅館の一室。首都で繁盛しているだけあって、各部屋に防音と魔法を遮る壁のようなものが完備されている。
「そう。ヴォルフとレオンは上手く立ち回れたかな? 魔法の障壁で入城が制限されているから、ここは正規ルート以外での登城は厳しいんだよね」
「だからって、城内出入りの侍女や使用人を誑かして情報を聞き出し、リオネル様に話をつけて来い、だなんて……。色仕掛けはあの二人に一番似合わない任務ですから」
「そうかな? 我々はそのための情報局だよ? 仕事は嫌でもやり遂げなきゃね。
まあ、アリィを城壁にぶら下げたらリオンはホイホイ出てくるだろうが、何せ彼女はトーマスにソックリだからねぇ。城に近付くと顔バレする危険があるから、ここで待機してもらうしかないけれど」
「その割には、本日外出許可を出されましたが?」
「たまには息抜きもしてもらわないとね。まあ、バレたらバレたでその時は城内に入り易くなるだろうし……。
それにしても、リオンは健気だね。『表敬訪問』なんて理由を付けてでも、この国でアリィの父親の事を聞き出そうとしているんだから」
茶化しているけれど貴方もではないか? と、ガイウスは言いそうになるのを我慢した。何だかんだ言ってレイモンドも、任務の為というよりはアリィを喜ばせるために、彼女の父親の事を詳しく調べようとしているような気がする。
「さて、と。じゃあ後は夜になったら酒場に繰り出すとするか。君が言うように、もしリオンが君達に目を向けたとしたら、アリィに気づかないわけは無いだろうからね? 自分の護衛にでも探させるだろう。あの子はああ見えて片思いに年季が入っているし、とっても一途だから……」
だからこそ、甥のリオネルが旅立ちの前にアレキサンドラを引き止めるのでは無いかと思っていた。自分の隣にいて欲しい、行かないでこの国のために力を貸して欲しい、と彼女に頼みこむのではないかと。
けれど、予想に反してリオンはアレキサンドラを引き止めなかった。ヴォルフの策略のせいで、彼女が国に居づらくなったことは確かだけれど……。
「ま、あの子も相手の事を考えられるぐらいには大人になったってことだね」
レイモンドは甥の成長を喜ばしく思う一方で、少し寂しく思った。
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「……機密に近いから、私もそこまで詳しく知らないの」
「ゴメンね、長く時間を取らせて。ただ、隣国からの訪問者のせいで、君とゆっくり話せないのが辛い……」
言いながらレオンは、自分にこの仕事は向いていないな、と考えていた。
半刻前、リンデルの王宮横、使用人用の通用門近くで待ち伏せた。城は丘の上にあるといっても、なだらかな丘陵地帯には大貴族の邸宅が建ち並び多くの人が住んでいるから、従僕の格好をした自分のような者が城に使いに出たとしてもおかしくは無い。
待っていると、城からの使いの帰りだろうか? 身綺麗にしている黒髪で三つ編みの少女と出くわした。
自分と同じか少し上くらいのその女性と不自然にならないように挨拶を交わし、天候の話からようやく城の話題にまで持ち込み、隣国……自分にとっては本国であるゲランの王太子の滞在日程までは聞き出すことができた。ただ、王族の詳しいスケジュールは上級職員が管理しているため、行動予定までは知らされていないそうだ。
確かにそうだろう。襲撃や暗殺に加えて、わけのわからない『黒い陰』の事件まであるのだ。要人の予定を城の職員であるからという理由で、末端にまで事細かに伝える必要は無い。
それなのに「侍女か使用人に渡りをつけてリオネルと話をして来い」だなんて、どんだけ無茶な仕事をさせようとしているのか、あの人は。
「ありがとう、君と話せて楽しかった。僕も用事の途中だった。じゃあ、また」
最後にそれだけ言うと、レオンはその場を離れた。再び会うことなんてあるのかな? と思いながら……。自分は大した情報は得られなかったが、ヴォルフの方はどうだっただろうか?
待ち合わせ場所に来たヴォルフは、「首尾良くいった」と言った。城の正面で待ち、顔馴染みのリオネル付きの護衛が出てきた所で捕まえて、上手く話ができたそうだ。今日はこの後、酒場で会う約束を取り付けたという。
なんだ、別に女性にこだわらなくても良かったのか。自分はまだまだだ。義兄に勝てるようになるのは、いつのことだろう?
レオンは苦々しく思いながら、ヴォルフと一緒に宿に戻った。
不定期更新ですf^_^;
APで別の話を書いています。そちらが完結次第、更新頻度を上げますので……。
m(_ _)m




