レイモンドver.
取り敢えず三人分です。
分岐はあと二人で終了。
次話からまた、元に戻ります。
私は、王弟のレイモンド様に同行をお願いする事にした。
「レイモンド様、一緒に行っていただいてよろしいでしょうか?」
「もちろん。君の頼みなら喜んで聞くよ?」
レイモンド様は私を真っ直ぐに見て、ふっと笑った。
何といっても彼はリーダーで一番の年長者だ。しかも頭も、恐ろしくキレる。
「ありがとうございます。モートン伯爵は一体何を隠していらっしゃるのでしょう? 父に関する手掛かりがあると良いのですが……」
「さあ? でも隠しごとがあるのは彼だけでは無いよね。君も私も、他人には話したくないことならあるはずだ。無理に話さなくても良いよ。ただ、事件に関係があるのならそうも言っていられないけどね?」
「そうですね。誰にだって触れられたく無い心の部分はあるはず。大切な人にだって話せるかどうか……」
前世でのイジメを思い出しシュンとしてしまう。
「アリィが私の大切な人になってくれるなら私は全てを話してもいいよ?」
まったくもう、この人は……。私が緊張しないよう、冗談で紛らわせてくれる。
「ふふ、レイモンド様、緊張をほぐして下さってありがとうございます。私は大丈夫です。何を聞いても驚きませんから」
「本気だったんだけどね」
寂しそうに呟く。この顔とこの声のギャップに世の女性達はノックアウトされてしまうのだろう。
執事に案内されて、二人だけでモートン伯爵の部屋へと向かう。
「ああ、よく来たね。アイリ、トーマスの愛子よ」
怪訝そうな顔をするレイモンド様に代わって、まず私が口火を切る。
「あの……モートン伯爵。もしかして貴方は私の父をよくご存知なのでしょうか?」
「ああ。君はトーマス=リンデルの娘だろう? 私と彼とは研究所の同僚だったからね。君はトーマスの若い頃に、とても良く似ている」
彼は答えた。
私の知らない意外な事実。
でも、確かに伯爵は先ほどいとも簡単に『火の魔法』を使って火をつけていた。
「父の事を教えて下さい」
彼ならこの国での父の様子を良く知っているに違いない。
そう考えて私は彼に、聞いてみた。
「君は、ゲランでアドルフに育てられたんだろう? アドルフがあちらでのトーマスの親友なら、母国リンデルでの一番の親友は私だったと思う。なのに彼は、私には何も言わずに消えてしまったんだ——」
「失礼ですが、貴方様はトーマスとは年齢がだいぶ違うように思うのですが……」
レイモンド様が言い難いことを代わりに聞いて下さった。
「ああ、そう見えるのか。無理もなかろう。研究所の爆発事故以来、皆が消息不明の中、陣頭指揮を執ったのは私だったから——。亡くなった職員達に代わって贖罪の日々を過ごすうちに、気付けばこんな姿になってしまった……」モートン伯爵が自嘲するように呟く。
「父のせい、なんですね?」
なぜか確証があった。私の知らない父の事を話すこの人の目が、懐かしそうな悲しそうな色を映していたから。
「今となってはもう、誰のせいかもわからない。研究所が跡形も無く吹き飛んだあの悪夢の日、私は久々に熱を出して休んでいた。私は彼の二歳上で肩書きは所長、トーマスが副所長を務めていた」
「父が勝手に暴走したんですね?」
彼から聞くまでも無く、結末がわかったような気がする。父は、研究所の副所長という肩書きを利用して所長が休みの時を見計らい、最大の研究対象である『時空魔法』を試したのだ。
けれど彼は、予想とは違う答えをした。
「そうとも言えるし、違うとも言える。研究者の常でね。未知の領域には畏怖を抱く反面、解明したいとも思う。トーマスが圧倒的な魔力量を誇っているのは既知の事ながら、私達はその兆候を見逃していた。彼がここでは無い何処かの世界へ行きたがっていると知りながら、深くは考えずに彼に研究所の責務を任せていたんだ」
「そして父は、己の好奇心を満たすためだけに暴走したと?」
「トーマスだけでは無い。『時空魔法』の完成は、私達魔導研究者の悲願だった。いざという時、ここでは無いどこかの世界へ身体ごと転移できるのだから……」
そう。そして現代日本に転移して来た父が母と知り合い、双子の姉妹を設けた。
「その実験は結局、成功したんですか?」
事情を知らないレイモンド様が尋ねる。
モートン伯は私の目を捉えたまま、次のように答えた。
「成功したとも言えるし、失敗したとも言える。圧倒的な魔力量を誇るトーマスでさえ、『時空魔法』を成功させるには、研究所全体と職員全員のエネルギーを必要とした」
彼はそう言って、遠い目をした。
「それなら彼は、どうやって未知の世界からこの世界へと戻って来たんですか?」
レイモンド様が再び質問する。
「それは私にもわからない。おそらく、当人にしかわからない。いや、当人ですら理解しているかどうか……」
まさか私が、父が戻る時の黒い陰に吸い込まれる状況を夢に視た、とも言えない。ここは黙っている方が良いだろう。
「それでは、貴方が先ほどから口にしている『アイリ』という名は? ここに居るアリィのことで間違いないのですか?」
「ああ。彼自身がそう呼んでいたから。アドルフ公爵には、間違って伝えられたのだろう。アリィではなく、アイリが本当の名前のはずだ」
それは予想通りの答えだった。ああ、やっぱり。父は私とカイリとを、また呼び間違えていたんだ。
「帰ってきた父に会った、とおっしゃるのですか?」
「ああ。君がまだ赤ん坊の頃に。その茶色い髪と彼に良く似た金色の瞳は、忘れるはずがない。彼はその子は……おっと、ここに居るのは君だけではなかったね」
「いえ、構いません。彼は私の上司ですから」
レイモンド様の方をチラッと伺う。
ここからは、彼の知らない事柄だ。私がこの世界と異世界とのダブル(ハーフ)だとバレてしまう。
「そう。君は自分の出自を知っているようだね? とにかく彼は、残りの家族を取り戻す為にあらゆる手を尽くすと言っていた」
「彼の残りの家族はどこに? それと『時空魔法』と何の関連が……って、まさか!!」
レイモンド様は発言すると同時に気がついたようで、碧い目を見開いて私の方を見た。
彼の考えは間違ってはいない。私は頷くと、モートン伯爵に再び質問をした。
「私がトーマスの娘と知りながら先ほど危険な芸を強要したのは、父の代わりに私を罰するためですか? それとも何かお考えがあっての事でしょうか」
伯爵はふっと笑うと言葉を続けた。
「君はどう思う? 確かに彼が研究所を犠牲にして忽然と消えた時、私は彼をひどく恨んだ。なぜ危険な行為を相談してくれなかったのか、残された者はどうなる、とね? でも、幼な子を抱いて途方にくれる彼を見て、考えが変わった。『これで彼にも守るべき者ができた。命の尊さがわかったんだ』と。困り果てる彼を見て、優越感に浸ったのも事実だ。だからもう、彼を恨んではいない。可哀想には思うけど……」
「それならなぜ!!」
「さあ? 君と君の仲間達の覚悟が見たかったのかもしれないね。トーマスの魔力は物凄い。彼が自分で産み出した闇に、自身の心まで囚われていないと良いが……。もしもう手遅れなら、自身の命を犠牲にする位の気概がなければ君達は彼に、太刀打ちできない」
やはり、事件の陰には父の存在があったのか。予想していた事とはいえ、その罪の大きさにショックを受ける。
「さあ、もう遅い。後は明日、朝食の席でみんなに話すとしよう」
モートン伯爵はそう言うと、私達を追い出すしぐさをした。
レイモンド様と私は、仕方なくそれに従った。
部屋の前まで送って下さったレイモンド様は、一言だけ私に言った。
「今のが君の、隠しておきたかった真実? それともまだあるの? 無理にとは言わないけれど、もし私を信頼してくれたなら、そのうち詳しく話してくれると嬉しい」
この方は気付いている。今の話で、私がダブル(ハーフ)なだけでなく、いろいろと父の秘密を隠している事にも気がついたハズだ。
咄嗟に何も言えなくて、私はただ頷くと自分の部屋へと戻った。




