剣の舞
レイモンド様改め、座長のレイの言っていた出し物とは、『剣舞』の事だった。
「旅一座なのに何もできないといけないからね?怪しまれないように練習しておこう」
そんなことを言っていたけど、模擬戦のような騎士団特有の剣の形に、踊りを組み合わせて舞のように見せるらしい。
舞の指導はもちろん、ロバート改めローザ。どこかからムチまで調達してきていて、それがまた妙に似合っているから恐ろしい。
全員元々基礎は出来ているから、あとはそれっぽく見せるだけ。最初は嫌がっていたヴォルフもレオンも、だんだんノリノリになってきたようだ。
うちのメンバーはイケメン揃いだけれど、「剣を合わせる時に視線を交わして互いに微笑む!目線こっち!流し目増量!!」などの細かい指導をローザがしているせいか、ヴォルとガイ、レイとレオの組み合わせがあまりにも麗し過ぎて美しく、眼福、眼福、と私は一人ほくそ笑んでいる。
あとは、それっぽい衣装を着れば完璧だ!!帰りに綺麗な布や帯、鈴などを買ってそれっぽく衣装をアレンジしてみよう。
が、しかし、このまま見ているだけで良いのかしら?と思いながら私がくつろいでいた所、
「身体が鈍っているから剣の稽古をしよう」
と、練習を終えたレイに誘われてしまった。
彼は元々がとても器用なのか、剣のソロパートもレオンとのパートもあっさり覚えて終わらせてしまっていた。お陰でレオン…レオは今やローザの餌食となっている。
頑張れ、レオ。骨は拾うわ!
今私達は朝食の後、宿から少し離れた野原で練習をしている。人気がないのを良い事にずっと汗を流しているが、私はレイモンド様…レイと対峙するのは初めてなので、怖くて変な汗が流れてしまう。
渡されたのは練習用の剣だから、安全だとはわかっていてもとても不安だ。
「アロ、どこからでもかかっておいで?」
全く構えず一見丸腰に見える彼は、どこを探しても隙が無い。お兄様…ヴォルやレオより剣の腕前は上なので、それも仕方がないことなのかもしれない。
どうしよう。とりあえず打ち込んで様子を見てみる?
一昨日は山で人相書きの男に遅れを取ってしまったので、何とかここで挽回しておきたい。剣術は嫌いではないから、慣れれば自分の身ぐらいは自分で守れるようになるだろう。
様子を見るためにも、レイの方へと走り間合いを詰める。
ギンッッ
剣を垂直に振り下ろすが、あっさり止められる。後方へ飛び退って構え直す。どうやら攻撃してくるつもりは無いようなので、連続技で何度も剣を振り下ろす。
ギンッ ガギン ガキッッ
悔しいことに、全く無駄の無い最小限の動きで止められる。
どうせ当たらないとわかっているから、時々突きも繰り出すが、こちらもやはり最小限の動きで避けられた。
ならば……
一旦退いて上がった息を整えて、本気で構え直す。
剣を左側から斜めに振り下ろす…と見せかけて、身体を回して右脚で蹴りを繰り出す!
けれど、ニヤリと笑われて剣を弾き飛ばされたばかりか、あっさり脚を左の肘で止められた。
「う〜ん、蹴りが来るとはねぇ。女の子らしくないよ?
さ、もう一度、剣を取って稽古をしようか。大振りだし、無駄な動きが多いから気をつけてね。」
やはりこの人には全く歯が立たないようだ。
レイことレイモンド様は、あろうことか剣を合わせながら雑談をしようとする。
「ねぇ、本当はヴォルフと何があったの?とうとう何か言われちゃった?」
「え??」
ゆっくりした剣先なのに、動揺したせいでうまく避けきれず、あと少しで頰を切る所だった。無駄に焦ったせいか、それとも動きが変だったのか、レイモンド様には気づかれてしまったらしい。
「そう。いいよ、何となくわかったから。あんな事があった後だったから、ヴォルフも感情を抑えきれなかったんだろうね。ま、気にすることは無いよ。襲われかけた事も、ヴォルフの事も。早く忘れた方が良い。実害は無かったんだし…。」
「!!!」
「それとこれとは違う!襲われた事も無いくせに」と言い返そうとして、レイモンド様の顔を見て手が止まる。
「うん?どうしたの?」
「なぜ?」
キンッと剣が軽く触れ合う。
「なあに?」
「なぜ、貴方の方が辛そうな顔をしていらっしゃるんですか?」
私は言った。
碧のタレ目はいつも通りなのに、彼の瞳はなぜか傷ついたような色をしている。私を心配して、というわけでも無さそうだ。
「そお?いつも通りだと思うけど。」
笑って言いながら、軽く剣を振ってくる。
我に返って剣を受け止めながら、私は疑問を口にした。
「レイモンド様、貴方も、まさか……。」
キィーーン
と、音を立てて私の剣は弾かれ、遠くに飛ばされた。
「張り合いが無くてつまらないな。剣の練習は、当分、他の誰かとするといいよ。もう少し上手くなったら、また手合わせしてあげる。」
肩をすくめ、一方的にそう言い放ち剣を鞘に戻すと、彼は背中を向けてみんなの方へと戻っていった。
何も言う事が出来なかった。
レイモンド様なりに心配してくれたにも関わらず、私は無遠慮に発言してしまった。
それはきっと、彼の痛み。
彼の触れられたく無い過去に、私は触れてしまったのだ——。




