目の前にある危機
「さ、ここがわが国の領土最後の町で、明日には国境を越えてリンデルに入るよ。今日で最後だから、面割れている連中はきちんと変装の仕度をしておいてね。」
昼過ぎに今日の宿に着くと開口一番、レイモンド様がおっしゃった。本当は宿にも泊まらず、直接野宿をしながら向かった方が早かったのだろうけれど、旅に出るのが初めてのレオンや私に気を遣って、道中何度か宿にも立ち寄ってくれた。
最後の町、ブルーグは山に囲まれ何も無い田舎の町だった。その分のんびりしていて、人も優しい気がする。
お店も点々としていたから、買い出しにも時間がかかりそうだ。私は既に男の子の服装だから、変装しなくても良いだろう。後から食料調達に行ってみよう!食べ物さえ充実していれば、旅は楽しい。
ロバート様は先行してリンデルに入国し、内情を探っているらしい。だから今日は5人だけ。
宿も、初日の酒場付きの豪華なものではなくて、民宿のようなアットホームな感じ。だから今日は旅一座の幌馬車も外に停めているし、厩も我々の馬だけでいっぱいになった。
する事が無さそうだしみんなも疲れているだろうから、宿の人に伝言を残して、早速買い物に出かけることにする。
宿を出てしばらく行った農場で、卵とハチミツを買った。麦の粉はまだあったから、これでパンケーキが焼ける。
親切な老夫婦は、「遠回りになるけどここから山の近くに行けば、ブルリ(ブルーベリーのような甘い実)がある」と教えてくれた。
今から行けば夕方までには戻れるはずなので、早速ブルーベリー(仮)の実を摘みに行く事にする。
そのまま農場に荷物を預け、借りたカゴを持ってテクテクと教えられた道を歩いて行く。男の子が買い物をしてエライと思われたのか、
「今、鶏の燻製を作っているところだから、帰りに少し分けてあげる」
と言われたので、とても楽しみだ。
農場から1時間ほど歩くと、言われた通り山の近くの藪のような所が見えてきた。
私は喜び勇んで目的地に向かった。
「ブルリ(ブルーベリーのことだ)の実は入って直ぐの所にあるから、奥まで行かないように気をつけてね。」と言われていたのに、何がどうしてこうなった???
気がつくと、森の奥に入ってしまっている。
宿に伝言を残して来たものの、農場で卵を買ってくるとだけしか言っていないので、ここで迷うと帰れなくなる可能性がある。
藪の所にあったものより、奥の方が大粒だからと、どんどん摘んで奥まで来てしまった。
焦れば焦るほど、元来た道がわからない。
山で迷子になるなんて、小学校の遠足の時以来だ。あの時はイジメられていたから、わざとグループから外され、一番後ろを歩かされていた。
先生が一番後ろを歩く場合が多いけれど、けが人が出た場合はその子に付き添いをしなければならないため、私が一番最後だった。
その時の、迷って心細い気持ちが蘇る。
あの時は、誰が迎えに来てくれたんだっけ?
遠い記憶で、よく思い出せない。というより、今をどう切り抜けるか考えなくちゃ。
切り株があれば方位がわかるんだけれど、あいにくそんな気の利いたものは、無いみたい。
どんどん日が暮れていく。夕方になって、そのうち真っ暗になったらどうしよう?
焦る気持ちとは裏腹に、来た道がなかなか見つからない。
ガサガサ、と近くで音がする。
鳥?それとも動物?
振り向こうとした瞬間、後ろから口を塞がれ、喉に光るモノが当てられる。
「おとなしくしろ。金と食い物さえ寄越せば、悪いようにゃーしねぇ。」
ガラガラの声がする。
臭いがするから、何日も山を彷徨っていた人なのかもしれない。
「何だ、ガキか。エラいキレーな面だが、この国はみんなこんななのか?だとしたら、楽しめそうだ。」
ボサボサの髪のその男は、私の顎を掴んで顔をグイっと無理やり自分の方に向けさせると、ニヤリと笑った。
怖い………。
ここに来て初めて、私は自分の軽率な行動を呪った。
ここは、国境近くの町だった。国境を越えるために山抜けがあったとしてもおかしく無い。それなのに、私は油断して迂闊にも自分から危険に飛び込んだのだ。
怖い………怖くて堪らない。
食べる物がさっき摘んだブルリの実しか無いとわかると、今度はお金を欲したのか、勝手に私のポケットを探りだした。
あ、そういえば!
懐には護身用の短剣が入っている。
思い出して取り出そうとした瞬間!
男のナイフが再び首すじに当たる。
「おっと〜。変な気を起こすんじゃねーよ。何だ、お前、震えているのか?これだけの上玉だ、傷付ける気はねえよ。ただちょっとだけ、確認させてもらおうか?」
そう言うと男は、私の襟に手をかけると下に引っ張り、ビリっと一気に服を引き裂いた!!カランと剣が落ちる。
「!!!!!」
男と私、どちらがより驚いたのかはわからない。
けれど、サラシに巻いた胸を、明らかに女性とわかるそれを、私は男の目の前に晒してしまった。




