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地味に転生できました♪  作者: きゃる
第2章 私の人生地味じゃない!
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私の護衛

 それから数日後、私はレイモンド様に呼び出された。「身分がわからないように軽装で」という指示があったから、私はレオンの服を借りて男の子の格好で行くことにした。途中怪訝な顔をされたけど、レイモンド様の名前を出すと慌てて通された。

 城内の彼専用の執務室に入ると、兄やガイウス様までいらっしゃる。大きな窓を背にした机の前に座るレイモンド様。その横で書類を手にしているのは兄のヴォルフ。腕組みしながら机の端に寄りかかっているのはガイウス様だ。いるだけで絵になる美形の三人は、私の髪形を見ると声を上げた。


「これは、また……偉くバッサリ切ったものだね」

「アリィ、私が城に泊まり込んでいる間に何があった?」

「短い髪も似合うけど、それにしてもよくもまあ……」


 穏やかなガイウス様まで絶句している。

 あ、やっぱりダメだった?

 この世界の貴族の女性は、長い髪がスタンダード。

 庶民でも短い髪はあまりいない。

 いたとしても、変わり者か旅芸人くらい……ってことは、私って変わり者!? 自分で切っておきながら、今になってちょっとだけ後悔したりして。

 いち早く気を取り直したレイモンド様が私に言った。


「まあ、旅に出るにはいいかもしれないね。女性だとわかれば危険も多いし。メンバーはもう一人いるけれど、用事があって後で来るから先に始めておこう」


 何を始めるんだろう?

 私が首を傾げていると、レイモンド様が続けた。



「【黒い陰】とトーマスの行方の調査に出かける前に、聞いておきたいことがある。アレキサンドラ、双月亭(トゥムーン)はどうだった?」


 ああ、やっぱり。

 この方があの場所を私に教えてくれたのは、わざとだったのね? 私が必ず動くとわかっていて、口にしたのだろう。親切心からだと思っていたのに、彼の計算通りに動く私はさぞかし面白い「駒」の一つに違いない。

 でも大丈夫。人に裏表があるというのは、前世でガッツリ学んでいる。落胆を表に出さず、私は冷静におかみさんとの話を告げることにした。


「先日レイモンド様に教えていただいた双月亭ですが、去年か一昨年父が立ち寄っていたそうです。宿のおかみさんが、覚えていたことを親切に教えて下さいました。私によく似た顔で、頬がこけていたとか」


 柱のキズの事は伏せておく。

 もし話したら、前世も全て明かさないといけなくなる。この人が私を利用しているように、私もまだ、レイモンド様を全面的に信用しているわけではないから。


「それで、君は何を見つけたの?」

「何のことでしょうか。他はどなたにも会っておりませんが」

「違うよ。何のことだかわかっているくせに」


 碧の目が細まって鋭くなったから、これ以上ごまかしてはいけないんだとわかる。私が訪れたことや中での様子を知っていることから、彼は彼で密偵を張り込ませていたのだと考えられる。


「ええっと、実の父に関する物や手がかりがないかと探していましたら、たまたま見た事があるような模様がありまして……」


 カタカナを発明した人ゴメンなさい。

 取りあえず、今は模様ってことにさせといて!


「見た事がある、とは?」


 矢継ぎ早に質問される。

 やはりそう来たか。

 呼び出されたのは、取り調べのためだ。

 兄とガイウス様は何も言わず、動く気配もない。


「16の誕生日を迎えた後、預けられた時に身に纏(まと)っていたおくるみを、公爵家の今の両親から見せられました。そこに、同じような模様がありました」


 嘘は言っていない。

 ただ、そこに書かれていたのはカタカナで書かれた『アイリ』という名前だけだったけれど。前世の父、トーマが名前を書いのだと思われる。双子だから海梨と共用していたのだろう。だって、こちらの世界に父と来たのは、妹のカイリの方だったんだもの。


「ふーん。それなら、後で公爵に確認してみないとね」


 どうぞ、どうぞ。

 本当のことも全部は言っていませんが、嘘も言ってません。レイモンド様は探るように私を見ると、横を向いた。


「ヴォルフ、君の意見は?」


 不安そうに兄を見たら、心配するなというようにニッコリ微笑まれた。


「おくるみの模様は、私も見たと思うのですが記憶には残っておりません。ですが、重要なことで妹が嘘を言うとは思えません。信用できるかと」


 お兄様、ありがとう。

 やっぱり優しいな。


「ヴォルフは相変わらず義妹には甘いねぇ。そうい……ああ、丁度良いところに彼が来たようだ」




 ノックの後、扉の開く音がした。

 後ろを振り向いた私の目に飛び込んで来た人は、何と義弟のレオンだった。


「遅くなって申し訳ありません」


 低い声で言うレオン。

 近衛騎士の制服を短期間で見事に着こなしている。姉バカな感想だけど。レオンは一礼すると、ツカツカと正面のレイモンド様の近くに歩み寄った。通り過ぎる時に私の顔をチラリと見て……あ、固まった。

 義弟は、レイモンド様そっちのけで私を凝視している。


「まさか……アリィ?」


 そっか。

 思いきって髪の毛切ったの言ってないもんね。レオンはずっと寮にいるから会えないし。

 クスクス笑うレイモンド様。

 レオンの反応を見て楽しんでいるのかな?


「やあ、レオン。今ちょうど、アリィちゃんの話を聞いていたところなんだよね」


 あ、レオンったらスゴく変な顔をしている。

 私の短い髪が似合ってないと思ってる? 

 褒めなくてもいいからもう少しマシな表情をして欲しい。それとも、私に会いたくなかった?

 

「ところでレオン。共に旅するにあたり、アリィちゃんの護衛役は誰に任せればいいと思う?」

「さあ。貴方が決定すれば良いことでしょう。俺には関係ありませんから」


 うわー、かなりくるなコレは。

 レイモンド様に惑わされない上手なかわし方だったけれど。「関係ない」とはっきり言われるのは、姉としてはちょっと辛い。

 だけど、もう泣かないって決めたから。

 そのために髪だってバッサリ切ったんだし。


「そう。じゃあ護衛役の選出は私に一任するということだね? だったらこれから、調査のための人事を発表しようかな」


 今までの話は前座でした。

 ここからが本題、ということらしい。




 トーマス=リンデル及び【黒い陰】調査団の主な役割は、以下の通り。


 リーダー 兼 座長 レイモンド

 諜報活動 兼 副座長 ヴォルフ

 破壊工作 兼 ベテラン役者 ガイウス

 護衛 兼 新人役者 レオン

 従僕 アレキサンドラ



「いや~、旅の一座っていいよね? 人数が揃ったら是非一度やってみたかったんだよね~」


 楽しそうなレイモンド様。ここにいるイケメンと私が、どうやら調査のメンバーらしい。情報集めて回るのに、そんなに目立っていいんですか?

 っていうか、ちょーっと待ったぁ。

 異議アリ!

 役に立たないのは十分わかっているんですが、従(・)僕(・)って何?

 役者ですら無いんですけど……

 女優じゃないってことは、やはり色気か? 

 私に色気が無いことが原因なのか?


 みんなが盛大にため息をついている。

 レオンなんか、目に手を当てて上を向いている。

 後半、声に出てたかもしれない。


「あのね、アリィちゃん。一応男だけの旅一座ってことにしたいから、君は目立たないようにおとなしくしておいてね? そんなわけで女優はまたの機会に。慣れてきたらその内、色仕掛けでも何でも好きなことをしてもらうから」


 いや、別に。

 色仕掛けは望んでおりませんが。

 ここは頷くしかないのかな?

 兄の諜報活動は何となくわかる。

 だけど、ガイウス様が爽やかなのに破壊工作だとか、レオンが嫌いな私の護衛でいいのかとか、ツッコミ所は満載だ。まさかレイモンド様、レオンが嫌がっているからわざと私の護衛に任命したの?


「その他反論は受け付けない。出発は1週間後。リオンの立太子の式典直後に、帰る国賓の護衛を装い街を出る。調査期間は未定だが、1~2年は覚悟しておいて欲しい。各自、出発まで準備を整えておくように」


 全員がレイモンド様の言葉に首肯した。




 ――そっか。

 リオネル様は王太子になるんだ。

 もうそんな時期だったのね?

 私を好きだと言ってくれた王子様は、その日からますます手の届かない人になってしまう。彼は私の大切な幼なじみなので、もちろん祝福している。

 最後に一度会って、今までのお礼と挨拶をしておきたかったな。旅に出たら無事に帰って来られるとは限らないし、今度いつ会えるかわからないから。

 優しく素敵なリオネル様には、この国で是非幸せになって欲しい。

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