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地味に転生できました♪  作者: きゃる
第2章 私の人生地味じゃない!
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いつかきっと

 俺はレオン。騎士団で見習いとして修業をしている。 

 見習いは朝早く夜が遅い。騎士の訓練と従者としての仕事があるためだ。今は、短時間の休憩時間でも確保するのは難しく、他の見習いたちと一緒に朝から晩まで動き回っている。

 けれどその日の夜、騎士の一人に呼び止められて「残った仕事は明日で構わないから、談話室に急いで行くように」と言われた。何があったのだろうか?

 入っていくと部屋にいたのは、義兄のヴォルフだった。


「無理を言い時間をとってすまない。元気か?」


 わざわざ兄が訪ねてくるなんて。

 夜だし急に何だろう。

 朝まで待てない用事なのか?

 それとも義兄も以前騎士団にいたから、この時間しか空かないと気を遣ったのだろうか?

 

「アリィのことで話がある。お前の耳にも入れておきたい」


 その言葉を聞いた瞬間、心臓が嫌な音を立てた。兄の真剣な表情に、顔が思わず強張る。俺が正面の椅子に浅く腰掛けると、ヴォルフは「両親とレイモンド様から聞いた話だ」と前置きして、次のことを語り始めた。


 ――アリィは……アレキサンドラはグリエール公爵夫妻の実子となっているが、本当は血縁関係に無い。彼女の実の父親はトーマス=リンデルといって隣国の先王の弟、現王の従兄弟だという。その父親から託された公爵夫妻が、自分たちの子として大事に育ててきた。けれど父親は行方不明で、現在足取りを追っているが見つからないとのこと。アリィには実の母親と双子の姉もいるらしい。

 魔導王国リンデルでは、魔導の性質上子どもが生まれにくい。だから、もしトーマスの実子で王家の関係者だとわかれば、アレキサンドラの引き渡しを要求されるかもしれない――




 兄の言葉に言いようのないショックを受けた。

 ただでさえ手の届かない存在なのだ。

 そのアリィが公爵令嬢ではなく、更に上の身分の王族だったなんて! 父親が別にいて隣国に引き渡されるかもしれない、という事実に目の前が真っ暗になった。

 ヴォルフは続けた。


「アリィの誕生日当日、本人に全てを明かす。それまでは他言無用だ」


 今すぐ考えろ! 何としてでもひねり出さなければならない。

彼女の側にいられる方法を。

 これからも一番近くで見守る方法を。

 動揺を押し隠して頷くと、兄に質問をした。


「アリィの誕生日に休暇を申請します。このところ頻繁ですが、理由を話せばガイウス様なら認めて下さるでしょう。ただ、そのために……休暇を取り過ぎたせいで、騎士への叙任が遅れることはありますか?」


 ヴォルフが不思議そうな顔で見ている。俺がアリィよりも自分の心配をしていると思っているのだろう。


「どのみち16歳にならなければ、どんなに優秀でも騎士とは認められない。だから、焦る必要は無いだろう。休暇くらいで、お前のこれまでの評価が下がるとは思えない」


 良かった、それならまだ望みはある。

 俺が本当に聞きたいのはここからだ。


「では、アリィのために実父の調査を開始する場合、俺も騎士として諸外国に同行することはできますか?」


 ヴォルフが納得したという顔をした。

 俺の質問に丁寧に答えてくれる。


「本来成年に満たない者は、公務に携わる事はできない。調査の時期もはっきりとは言えないが、お前が16になるよりも前、新年早々に始まるだろう。全てはレイモンド様がお決めになる事だ。機密事項だし私の口からは何とも言えない」


「最後に一つだけ。アリィがこの国には留まらず、隣国へ行くと決めたなら……俺がついていくことは可能ですか?」


「両親は悲しむだろうが、二人ともお前の意志を尊重してくれるはずだ。ただ……」


「何ですか?」


「ただ、私もお前にアリィを渡すつもりはない」


 兄に冷たく言い渡された。

 アリィを溺愛するヴォルフ。

 その感情が兄妹以上のものだと、薄々予感はしていた。


「俺も貴方にアリィを渡すつもりはありません。必ず貴方を超える男になって、彼女を手に入れます」


 俺も兄に宣言した。

 根拠のない自信ではない。

 毎日そのために、人一倍努力と鍛錬をしているのだ。


「その話はいずれ、また。先ずは父がアリィに真実を伝えた後、どう対処し接していくかを考えておこう」


 冷静なヴォルフはそれくらいでは動じない。俺がアリィを好きなことぐらい、とっくにお見通しだったのだろう。兄の言葉に頷いた俺は、夜遅くまで今後のことを話し合った。




 アリィの誕生日前日に、『自分の家』に戻ることにした。公爵家に養子として引き取られた俺は、公爵家次男でヴォルフの義弟だと正式に認められている。義理とはいえ、肩書はこれでも一応公爵子息だ。


『自分の家』と呼べる場所、家族の温かさを俺に教えてくれたアリィ。彼女の方が養子でもなく、実は『大事な預かりもの』として育てられていた。その事実を知らされた時、彼女は何を思うだろう? 赤ん坊の頃からずっと一緒の大好きな両親。彼らから実の親ではないと告げられたら、アリィはどれだけ傷つくだろうか?


 年始の休みを返上した俺は、今日から休暇を取っていた。少しでも彼女の痛みに寄り添いたくて。


「お帰りなさい、レオン」


「ただいま、アリィ」


「ただいま」と言えることが嬉しくて、思わず顔がほころんでしまう。アリィが俺を嬉しそうに出迎えてくれたから余計に。

そんな彼女だが、その後の様子は少しおかしかった。明るくはしゃいでいたかと思えば不意に黙りこみ、何かを考えだしてしまう。大好きな焼き菓子を前にして、手も出さずに時々ため息までついている。


 まさか、真実を知ってしまったのか――?


 本人に聞いても答えないだろうと思い、アリィの侍女を捕まえて聞き出すことにした。幸い俺は、小さな頃から彼女達を知っている。

 侍女のリリアンヌによると、数日前、王子がうちを訪ねてきたのだそうだ。名目は「公爵の意見が聞きたくて」。だがそれは確実に口実で、アリィに会いに来たようだ。彼が昔から、幼なじみ以上の感情をアリィに抱いているのは、一目瞭然だったから。

 

嫌な予感がする。プロポーズでもされたのか――? 


 その考えは違っていた。

 だが王子は『誕生日の贈り物』と称して、アリィに高価なプレゼントを贈ったそうだ。クリスタルでできたウサギと、一目で希少だとわかる金の宝石の首飾りを。


「渡した後がカッコよかったんですぅ」


 侍女のリリアンヌはそう言うが、俺は断然面白くない。だってあいつはそのまま、アリィの手のひらにキスをしたというのだ。手のひらへのキスは『求愛』。そんなことは子どもだって知っている。いくら鈍いアリィでも、さすがに王子の想いには気づいてしまったことだろう。


 だから悩んでいるのか?

 もしかしてアリィは、彼の想いを受け入れようとしているのか?




 彼女はまだ、真実を知らない。

 余計な負担をかけさせまいと、公爵夫妻が色んなことを隠して育ててきたせいだ。明日になれば、アリィは自分の出生の秘密を知ることになる。『真実がわかる前の彼女に、自分の想いを伝えておきたい』。そんな王子の気持ちもわからなくはない。俺だって自分に自信があれば、とっくにそうしている。


だけど――


 これ以上のショックは与えたくない。

 君を傷つけたくないんだ。

 義弟から突然好きだと言われたら、アリィはきっと驚いて、今以上に悩んでしまうだろう?


『わからないならいいんだ。いつかきっと、教えてあげるから――』

 

 いつかきっと。

俺の好きな人を教えると約束した。

 時が来たら、溢れるほどの想いを全て彼女に打ち明けたい。だけど何者でもない俺には、伝える資格がまだない。

 だから、騎士になればきっと。

 それまで、誰かに心を寄せたりなんかしないでほしい。




「どうした、アリィ。元気がないぞ? 気晴らしにピーターでも構いに行くか」

 

想いを隠してそう言うと、俺は、大好きな人に向かって自分の手を差し出した。

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