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地味に転生できました♪  作者: きゃる
第2章 私の人生地味じゃない!
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密談

 僕――リオネルが自分の執務室に戻ると、そこには叔父のレイモンドがいた。側にはヴォルフと騎士団長のガイウスまでいる。レイモンドは、自分の部屋であるかのようにくつろいで、給仕係の女性にお茶の用意をさせていた。


「ありがとう、あとはこちらでやるから。ご苦労だったね」


 微笑んだ途端、女官は真っ赤な顔をして何度も頭を下げながら退出していった。まったく、僕の担当までたらし込まないで欲しい。


「リオン、待っていたよ。ま、座ってお茶でも飲んで。落ち着いてからでないと、できない話をするからね?」


 仕方なくみんなでお茶を飲む。

 ひと段落したところで、叔父は真剣な表情で話し始めた。


「今から話す内容は極秘事項だ。調査にあたった私の部下を除けば、誰も知らない。王に報告する前に、君達に話しておきたかった。アドルフ公爵にはヴォルフ、後から君が伝えておいてくれ。具体的な方針はこれから決めるから、くれぐれも他に洩らさないように」


 話というのは、僕の幼なじみについてのことだった。アレキサンドラ――アレクは、グリエール公爵夫妻とは血が繋がっておらず、実の父親は隣国の者だという。彼女には実の母親と双子の姉もいるが、その全員が行方不明とのことだった。


「リオン。詳しくは報告書を読んでくれ」


叔父に手渡された報告書に目を通す。

 内容はざっと次の通り。




 ――アレキサンドラの実の父であるトマス=リンドは本当の名をトーマス=リンデルという。魔導王国リンデルの先王の弟の息子で、現王とは従兄弟同士。

 魔導王国というだけあって、隣国では王位継承にも魔導の力が影響する。本来なら家柄的にも魔力の上でも継承権上位にくるはずが、彼は権力を嫌い権利を放棄したのだという。

 その後は王家に尽くすためか、新設された研究所で何かを研究していた。ここには『錬金術と魔導を組み合わせた【時空魔法】との噂もある』と書かれている。


 以前、リンデル国内で大規模な爆発があったという。魔導研究所の周囲何キロもが吹き飛ぶ程の大爆発だったと記録されている。建物内の職員全てが亡くなり、その中にはトーマスも含まれていた。研究所跡には巨大な穴が空き、今でも当時の姿で残っているらしい。『リンデル国の悲劇』と呼ばれる事故だった。


 けれどある日、トーマスはひょっこり帰って来た。発音の難しい不思議な名前に変えて。現れた時の髪型も服装も相当変わっていたから、誰も彼がトーマス=リンデルだとは気がつかなかった。親友のアドルフに自ら名乗るまでは。彼は赤子を友に託すと、「妻と娘を取り戻す」と言って再び姿を消したのだという。

 報告書には、レイモンド自身の走り書きもあった。


 彼はどこへ行っていたのか?

 本当に【時空魔法】を完成させていたのか?

 赤子……アレキサンドラの母親は誰なのか?

 彼が「取り戻す」と言っていた妻と双子の姉はどこにいるのか?


 残念ながら、本人の証言以外に確認する(すべ)は無いとのこと。しかし、トーマス本人をどんなに手を尽くして捜しても、足取りが掴めない。アンフェール皇国の近くでぷっつり途切れているのだという――


  

 

「アレキサンドラ嬢の今の姿は、部下が調べたトーマスの容姿にそっくりだ。親子だと証明されたら、彼女はリンデル国の王家の人間。魔導の影響のせいで子どもの少ない王家にバレたら、間違いなく引き渡しを要求されるだろうね」


 レイモンドの言葉に息を呑む。

 もしそれが事実なら、幼なじみのアレクは、この国にはいられない?

 他国の人間になれば、僕が求婚したとしても受け入れてもらえる可能性は低い。彼女の素性がわかれば、外交カードとして隣国に利用されてしまうかもしれない。

 その辺はヴォルフも初めて聞いたらしく、珍しく青ざめている。


「もう一つ困ったことはねぇ……」


 レイモンドが続ける。

 まだ何か? 

 これ以上何があるというのだろうか。


「彼女の実の父親が失踪した時期と、アンフェール皇国が台頭してきた時期がちょうど重なるんだよねぇ」


 いくら何でもそれはないと思う。

 仮にも彼は一国の王家の人間だ。

 他国の計略に手を貸すなどとは考え難い。


「まあ、彼の足取りは不明だしアンフェールは謎の多い国だから、私の調べもそこまでだ。手がかりが唯一あるとすれば、トーマスの娘のアレキサンドラちゃんだけ。だけど赤子の時に引き取られたのでは、何かを知っている可能性は低いだろうね」

 



 アンフェールの侵攻を止めるために、アレクの意見が聞きたいということなのだろうか? だけど――


「アレク本人はこのことは? 自分が実子じゃないって知っているの?」


「いや、義妹は知らない。最近まで知っていたのは、両親と私と一部の使用人、そして国王陛下だけだ」


 更にそこに僕たちが加わってしまった……という目でヴォルフがこちらを見た。

 それなら、僕のアレクがこの事実を知ってしまったらどんなに驚き傷つくだろう? 「地味だから」とか「お父様にもお母様にもお兄様にも似ていないの」と言いながら、彼女は自分の家族が大好きだった。

 彼女の気持ちを考えたら、「君は実はこの国の者ではない。知っていることを教えてくれないか」とは言えない。


「実の親だと慕っていたのが義理の両親で、本当の父親は隣国の王家の人間。しかも、このところの不可解な事件に関わっている疑いがある」と、伝えてもいいのだろうか?


「両親は、16歳の誕生日当日に本人に話をすると決めていました」

 

 彼女の兄……今や義兄ともいうべきヴォルフが口を挟む。


 アレクの16の誕生日――それは僕が、大人になったアレクに「好きだ」と言おうと決めていた日。「これからずっと一緒に過ごして欲しい。僕と婚約して欲しい」と伝えるつもりだった。

 けれど、彼女に負担はかけられない。出生の秘密を告げられた彼女が、動揺するのは目に見えている。

当分、この想いはしまっておこう。婚約を言い出すのは後だ。今はただ、彼女の幸せと今後の平穏を祈ることしかできない。


 


「だったら、アレキサンドラちゃんの存在が、今後もリンデル側に悟られなければ良いだけでは?」


ガイウスが言う。

 

「ああ、それも考えたんだけどね。公爵家の娘なら、いずれ名のある貴族の所へお嫁に行くだろう? もし仮に、君達のような貴族の所に嫁いだとする。すると当然、他人の噂にのぼるよね? 成人して公式行事に出るだけでも『現王の従兄弟で魔導研究所の副所長だったトーマスそっくりの娘が現れた』とわかれば、リンデル側はどう思うかな?」


「それは……」


 ガイウスが言い淀む。


「バレないように、一生髪を染めるかカツラをつけて過ごしてくれって言われたら、アレキサンドラちゃんもどう思うだろう?」


 誰も何も答えない。


「たとえ隠していなくても、この国に『リンデルの悲劇』で亡くなったはずの当事者によく似た娘がいる、と知られれば向こうも黙っていないよね?」


「それなら貴方はどうしろと? まさか、このまま義妹を隣国に引き渡せと言うのですか?」


 ヴォルフが憤る。


「公爵はその点も考えていたよ。だから16歳の誕生日に彼女に話をして、どちらの国で生きていくのか、アレキサンドラちゃん本人に選ばせようとしているんじゃないのかな?」


 彼女が生まれ育ったこの国を、捨てるわけがないと思いたい。でも、アレクは珍しいものも好きだから、「魔導? ちょっと行って見てくる」と言い出しそうな気もして心配だ。

 ふと頭に浮かんだ考えを叔父に言ってみる。


「彼女の本当の父親を探し出せば……トーマスを見つけ出して隣国に戻せば、友好国でもあるリンデルは彼女を見逃してくれるかもしれない?」


「それは私も考えたよ。でも、それだけじゃまだ弱いよね?」


「リンデルや我が国で起こっている怪奇現象を突き止めて解決に導くこと、ですか」


 ヴォルフが口を挟む。


「そう。もし我々が【黒い陰】の事件を解決し、王家のトーマスも見つけ出して引き渡せば、向こうは何も言えなくなるはずだよね?」


「それならアレクは? 本当のお父さんを知らされた上、見つけ出してもすぐに引き離されるんだよ? そんなこと、心優しい彼女が耐えられるとは思えない。公爵と実の親との間で苦しむに違いない!」


「んー。でもまあ、見つけ出さない限りは、何とも言えないからね? 【黒い陰】とアンフェールの侵攻は別物かもしれないし、トーマスもリンデルに帰っているかもしれない。今のところそんな報告は無いけれど」


「貴方が私にさせたいのは、両親やアリィへの説得と調査への協力依頼ですね?」


 ヴォルフがため息をつきながら言う。


「それともう一つ。この話を知ったからにはみな、私に協力してもらいたい。君達はとても優秀だからね? 関係各所には私から手を回しておく。また昔のように一緒に仕事をするのが楽しみだ」


 そう言ってカップを取ると、世間話でもしていたかのように、レイモンドは紅茶で喉を潤した。

 

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