パーティーしましょ?
連日のくたくた猛攻レッスンと勉強で、意識が朦朧としている。母のマリアンヌが『ご褒美に』と企画してくれたパーティーまであと少し。
「アリィちゃん、何か希望はあるかしら?」
そう聞かれたので、思わず『ハロウィン』と言ってしまった。だって、あれって楽しいし。日本では10月に確かあったよね? 当然こちらの世界にそんなものはないけれど。
「何かしら? それ。パーティーは色々知っていたつもりだったけど、私もまだまだ勉強不足ね~~」
しまった、母の知識欲を刺激したようだ。
「パーティーの名前? 種類? どんな物なの?」
案の定、喰い下がられてしまった。
「遠い国でコスプレ……仮装したり可愛くオシャレしたりして『お菓子くれなきゃイタズラするぞ~』って言いながら楽しく浮かれるイベントだって、どっかで聞いた気が」
バイトで忙しくって参加した事はないけれど、だいたいこんな感じだったと思う。日本では、子どもというより大人の方がパーティーやイベントでかなり盛り上がっていたような。
「あら、それはパーティーというよりお祭りなのね? でも、仮装するのはちょっと面白そう! それだったらアリィちゃんがダンスで裾踏んでも、衣装のせいって言い訳できていいかもね?」
お母様、嬉しそうにウィンクしながら言うってことは、私が失敗するの前提なのね?
「そうと決まれば招待状を出さなくっちゃ。アリィちゃんのお友達だけでいいかしら? 衣装と人選は私に任せて、あなたはお勉強頑張ってちょうだい」
「あの、アイリス様にもお願いします」
「もちろんよ。あの子もあなたの大事なお友達ですものね? 遠くても早便でお手紙出すから大丈夫! 元気になった姿を見せて安心させてあげなくてはね?」
さすがはお母様、よく理解していらっしゃる。
だから私は、安心して母に任せることにした……のがいけなかった。
パーティー前日、用意された衣装を見てびっくりした。
「何じゃこりゃ~~!」
お母様、自分で「お祭り」と言っていた割にはどうもよく理解していなかったようで。明らかに舞踏会用の上品なデザインにこだわっている。
私のために準備されていたのは、人魚をイメージした白と水色が基調のマーメイドラインのドレス。後ろスカートは尾びれのイメージなのか、逆三角形と小さな三角形が組み合わされた模様で青い小さな宝石がキラキラしている。あろう事か身体のラインピッタリで、胸と背中の部分もぱっくり抉れて、薄いレースで飾られているだけ。
「この世界にも人魚っているんだ……ていうか、こんなデザインはフィギュアスケートでしか見た事ないから~~!」
4年前に比べると成長して細くなり、出るとこは出てきてスタイルも良くなった私。だけど、いきなりセクシー路線に転向するのは無理があるし、かなり恥ずかしい。女友達だけを招くとはいえ、この格好はハードルが高い。これなら、3つの首がついた金色ドラゴンの被り物や、ゆるキャラの中の人になる方がよっぽど良かったような。祭りのはっぴ……は無理だから、執事の衣装でも借りて明日はとりあえず男装する事にしよう。
我ながらいいアイディアだと思ったのに太鼓持ち―ズ(侍女たち)が許してくれなかった。
「せっかくのお嬢様の魅力を存分に発揮しなくてどうするのです?」
「お嬢様最高ですわ! これなら優勝間違いなしですわ!」
「元々の奥様の衣装を手直ししたのは私です。徹夜した甲斐がありますわ!」
徹夜って……
時間が無いから新たに発注したんじゃないって聞いていたけど、手直しの方が手間がかかって断り辛い。メリーちゃんの器用な手先で、ドレスは確かに美しく仕上がっている。
それに、リリーちゃん優勝って何?
ただのパーティーで仮装大賞ではないわよ?
恥ずかしがる私に妥協案を出したのは、プロデューサーの母だった。
「しょうがない子ね。そんなに恥ずかしいなら、仮面を付けなさい。他の人の分も用意しておくから」
仮面舞踏会なら聞いた事がある。
慣れるまではそっちの方がいいかも。
というか、短期間で仮面まで手配しているってどんだけ手まわしいいんだろ、うちの母親。
パーティー当日――
『夜間外出禁止令』が出ている事もあり、みんなには昼間にうちに来てもらい、夜は我が家に泊っていただく予定だ。幸い私が倒れる4年前にもパジャマパーティーをしたことがあるから、彼女達も大体わかっていると思う。
次々と馬車が到着し、降りて来た友達に挨拶をして別室で着替えてもらう。一番嬉しかったのは、諦めていたアイリス様がいらした時!
「ごきげんよう、アイリス様。すっかりご無沙汰しておりました。本日は遠いところを、わざわざありがとうございます。今日のパーティー、楽しんでいって下さいね」
「アレキサンドラ様……私にはそのように言っていただける資格なんてありません。貴女に危害を加えて貴重なお時間を奪ったばかりか、公爵様や皆様に多大なご迷惑までおかけして。本来でしたらもう少し早く、こちらからお詫びに伺わなければなりませんでしたのに。このような機会を設けていただき、誠にありがとうございます」
「いやいや、アイリス様。その挨拶は堅苦しいですわよ? 事件のことはアイリス様のせいではありませんし、私は今、こんなに元気です。お気になさらず、どうかまたアリィと呼んで下さいな。だって、私達は友達でしょう?」
そう言ってアイリス様の様子を窺う。
彼女は手を組み細い肩を震わせて、紫の瞳に涙をいっぱいためながらこう言った。
「ゴメンなさい、ゴメンなさい! 貴女に言ったこと、本心では無かったの。私の醜い嫉妬なの。迷惑かけてゴメンなさい。お金があるのも、生まれつき綺麗なのも、みんなに好かれているのも貴女のせいではないのに! 私が羨ましくて勝手に恨んでいただけなの。本当にゴメンなさい!」
アイリス様、謝っているようで褒めてるよ? まあ謝らなくていいんだし、嬉しいけど。
「そんな、アイリス様。お顔をお上げになって? 今日こうしてお会いできただけで十分です。これからも私達、仲良く助け合っていきましょうね」
断られないようがっちりハグする。
せっかくできた女友達。
一人も逃してなるものか!
「アリィ様がそうおっしゃって下さるのなら。私はいつまでも近くにおりますわ。そしてお側で、お守りさせて下さい」
それってお守りをさせていただきます、の間違いなんじゃ……と思ったけれど、仲直りできたんだから、まっいっか。




