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地味に転生できました♪  作者: きゃる
第2章 私の人生地味じゃない!
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しっかりしなくちゃ

 兄ヴォルフと弟レオンは、朝早くに家を出て城に向かうらしい。


 朝は調理長のジャンにパンケーキを頼んでおいた。どんなに急いでいても、朝食は大事! せっかくだからお手伝いしようと、まだ暗い内に部屋を出る。

 調理場に入ると、あれ? まだ誰もいない。

 起きるのちょっと早過ぎたかな。

 シェフ達の神聖な職場に勝手に入るわけにもいかないから、諦めて庭に向かう。眠くないし、二度寝しちゃったら起きられない。


 食べられる実が、何かないかな?

 あったらパンケーキに使えるのに。

 探しながらウロウロしていると、庭の隅に小さな赤い実が見えた。


「あ、あった。フランボワーズだ!」


 まだ少ししか無いけれど、とりあえずお兄様とレオンの分だけあれば十分。

 確認のため、赤い実を口にいれる。

 甘酸っぱい味とプチっとした感触が口の中に広がる。

『木いちご』と言われるこの実を気に入ってくれるといいけれど。

 目につく分だけ摘み取って、家に引き返す。




 空はだんだん白み始めてきて、二つの月も夜空の星ももう見えない。皆が起き出してくる清々しい朝。戻る時に見えた茶色の大きな塊――ウサギのピーターは、まだぐっすり眠ったままだった。

 調理場に行くと、明かりが点いていた。摘んだばかりのフランボワーズをシェフに渡す。


「ああ、まだ小さいですからソースにせずにそのまま添えましょう」


 ついでに、パンケーキの焼き方を教えてもらって何枚か挑戦してみる。前世で母と一緒に作ったことがあるから、焼き方の要領は同じはず。まあ前は、ホットケーキミックス使ってたけど。

 お手伝いしたパンケーキ、我ながら上手くできた! でも、 シェフさん達のに比べたら見劣りするから、ごまかして間に挟んでおいた。焼いただけだから、味は大丈夫だよ?

 片付けてテラスに行くと、既にお兄様と弟のレオンが席についていた。


「おはよう。今日の朝食、アリィも作ったんだってな」


「おはよう、アリィ。昨日はゆっくり眠れた?」


 私の焼いた形の悪いパンケーキもなぜかお皿に盛られ、運ばれてきた。生クリームとフランボワーズとミントの葉っぱが添えられている。


「二人ともおはよう。私は元気よ。パンケーキ、お口に合えば嬉しいわ」


 焦がしてないから味は保証する。

 何たって、生地を作ったのシェフさんだし。挨拶の後、いつもより早い朝食を摂る。

 イケメンは朝早くてもやっぱりイケメン。金銀の髪が朝日に映えて、兄弟並ぶと壮観だわ。いやあ~~、眼福、眼福! 脳内で絶賛しながら、気取られないよう澄ました顔で朝食をいただく。


「アリィが作ってくれたから、いつもの朝食より美味しいよ」


 お兄様、そんな事言ったら料理長が怒るから。


「この赤いのが美味しいよ」


 レオン、フランボワーズは摘んだだけなので作ってないの。褒め言葉にはならないよ?

 だけど、兄弟で仲良くいただく食事は確かにいつもよりも美味しく感じた。こんな平和な朝がずっと続けばいいのに――




 兄様とレオンを、屋敷の皆が総出で送り出す。朝早いのに、珍しく母も起きて来た。

 黒と白の馬に跨る美貌の兄弟。

 ニッコリ笑ってこちらに手を振る騎乗の人達。カッコ良くて眩しくて、見ているだけで胸がいっぱい。素敵なその姿に、憧れにも似た切ない気持ちで一生懸命手を振り返す。


「いってらっしゃい」


 次はいつ会える?

 今度こそゆっくりお話できるかしら?

 甘えて依存ばかりしている自分が情けない。

 わかっているから今度こそ、ちゃんとお姉さんらしくしなくっちゃね? 私は、二人の背中が消えるまでずっと見送っていた。


「うふふふ、アリィったら寂しがりやさんね~。でも、あなたはあなたでする事がたーっぷりあるから、寂しいと思っている暇はないわよ?」


 背後から楽しそうな母の声。

 もうちょい兄弟を見送った後の感傷に浸りたかった。でも、ようやく発熱や筋肉痛から解放されたから、本腰を入れていろいろ取り組まないといけない。




 その1 座学


 倒れていた4年分の勉強を、修了するよう言われた。地理、歴史、算術、薬学、語学など。「婦女子に学問は不要」という考えは、公爵家(うち)ではまったく当てはまらない。

 なぜなら目覚めてすぐに元宰相のお父様に聞いた時、意外な答えが返ってきたから。


「ねえお父様、お母様のどこを好きになったの?」


「ん? 私より優秀で頭の良い所かな」


「……!」


 てっきり『顔』って言うかと思ってた。

 なのに、頭とは!

 父と母は、優秀な官僚を育てるための『王立学院』で出会って恋をしたんだって! 王都にある王立学院は、国内でもほんの一握りしか入れない。学院内でも父と母は、トップの成績を争っていたそうだ。でもお父様は、「私はマリアンヌに勝てた事は一度も無いぞ?」と言い出した。

 それを聞いたお母様は嬉しそうに微笑むだけ。ちょっと待って! ふわふわ頭のお母様のどこにそんな才能が? 美人なだけでなく、頭も良いってズルくない?


 実はお母様、夜遅くまで難しい本や領地からの報告書に目を通しているんだそうだ。宰相だった父に助言やアドバイスをしていたのは、母だったとか。

 影の黒幕がこんなに近くにいたとは!


 そんなわけで父は母に逆らえない。

 女性だからといって勉強を見逃してはもらえない。

 ちなみに兄も『王立学院』の出身。

 レオンも………本当は行きたかったのかな?




 その2 マナー


 私はあと2ヶ月で16歳になり、成人して社交界にデビューをする。だから、大人用の礼儀作法や貴族のしきたりを詳しく勉強しなくてはならない。

 この国では淑女(レディ)に楽器の演奏は必須。音楽会で飛び入り参加もできるように練習しておかないと。また、公式な場で恥ずかしい思いをしないように主な貴族の顔と名前も覚えないといけない。さらに、いずれは嫁いで女主人となるから、他のスキルも細々と身につけなければ。

 転生したからって、チート能力があるわけでもハイスペックなわけでもない私。自分の力で頑張らなくっちゃ!




 その3 ???


 恥ずかしくて口に出せないけれど、前世で言えば大人の保健体育。男女の身体の仕組みとか、夫婦の営みとか、寝室での過ごし方とか赤ちゃんのこととか。モテテクなんかも勉強するらしい。

 転生前は一応モテてはいたけど貧乏で忙しかったし、最後まで経験したことが無いからこれが一番難しい。そういえば、私を囲んでイジメていた色ボケ集団は、いつもそんな話しかしていなかったっけ。どちらかといえば避けて通りたい話題だ。

 でもお母様いわく「当然身につけておくべき知識」だそうで、16歳までの必修。この国では男女関係なく学ばないといけないらしい。


「……ってことは、成人しているヴォルフ兄様や女友達、リオネル様も当然修了してるってこと? あんなに涼しい顔して。うわ~うわ~」


 そう言って真っ赤になる。

 するとすかさずお母様がおっしゃった。


「あら、そんなの常識よ~。レオンにも騎士団寮に入るまでに全部叩き込んであるわよ?」

 

「なんと!」


 14歳で座学やマナーだけでなく、大人の保健体育まで終わってるってどんだけ? じゃなくって、レオンてば、そんなことまで勉強してたんだ。

 じゃあ、大人の知識のある彼にしがみついたり大泣きしたりしてた私って、やっぱり姉失格?

 まさか誘ってるって思ってないよね。

 こいつヘンタイって思われてないよね?

 あ、だからか。だからこの前、「バカ、アリィ。そんな目で見んなよ」って言われたのかな?

 うぅ、次に会う時レオンとまともに顔を合わせる自信が無い………



 恥ずかしくって涙目になっていた私。


「突然大きくなった貴女には大変だとは思うわよ? だけど悲しい思いをせず、安全な生活をおくるためにこれが一番重要なことなの。特に女性は」

 

 母にダメ押しされてしまった。

 ごもっとも。

 遊びだけの男女の関係や不幸な恋はごめんだ。母の言いたい事もわかる気がする。でも、贅沢を言えばもう少し、子どものままでいたかった。ついこの前まで地味顔でモテず、さらに子供の姿だった私。大人の夜の勉強は、義務とはいえちょっぴり刺激が強すぎる。



 だけど、甘えてばかりもいられない。

『公爵令嬢』として恥ずかしくないよう頑張らなければ。とりあえずは社交界デビューに向けて。

 兄弟達に負けないよう、私ももっとしっかりしなくちゃね?

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