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地味に転生できました♪  作者: きゃる
第1章 地味顔に転生しました
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動き出した時間

「んん~、何かまぶしいや」


 光が薄いレース越しに、部屋に降り注いでいる。よく寝てスッキリした気がするけれど。

 顔が、首が、身体が、う、動かない?!

 目だけで部屋を見回す。

 あれ? ここはどこの部屋?

 いつもの自分の部屋とは違う。

 ヨーロッパ風の上品な作りだし見た事ある気がするから、多分転生先の方だと思うんだけど……


 側にいた侍女のリリアンヌ――リリーちゃんと目が合った。固まって、すごくブルブル震えている。


「ひゃいや~~!!」


 ガッシャーーン

 何だかよくわからない叫びの後、手に持っていた花瓶が滑って床に落ちた。

 うん、やっぱり侍女のリリーちゃんだ。

 今日も安定のうっかりぶり!!

 私はとっても嬉しくなる。

 何だか長い夢を見ていたような気がしたから。

 身体が動かず起きられないのが気になるけれど。

 ユウレイを見たみたいにそのまま腰を抜かすなんて、ちょっとひどいよリリーちゃん?




 バタバタ廊下を走る複数の足音が聞こえる。

 部屋の扉がバンッッと開くと、大勢の人が飛び込んで来た。


「あら、お父様、お母様、お揃いで。皆様もどうなさったの?」


 そう言ったつもりがひどくかすれていて、「ぐぁ」としか声が出せなかった。

 そういえば、なんだかひどく喉が渇いた気がする。


「アリィ……」


 おそるおそる私に近付き、手を取ったお母様が号泣。その肩を抱くお父様。目にはうっすらと涙が。駆けつけてきた屋敷のみんなも一様に震えていたり、泣いていたり、祈っていたり。

 あれれ? 私の寝起きにみんなでオーバーリアクション? リリーちゃんが花瓶割りっぱなしなのに、誰も何にも言わないし。それより皆さんお仕事は? 私の寝起きでこんなに大騒ぎしているのは変なんだけど。


 ベテラン侍女のエルゼさんがやって来て、すぐに水差しからコップに水を入れ、口にあてて飲ませてくれた。「ふぅ」やっと少し声が出せた。みんなどうしてそんなに泣いてるの? ギギギ、とロボットのように少しだけ顔を横に向けてみる。それだけの仕草がなぜかだるくて辛い。


「誰か、ヴォルフとレオンに使いを出せ!」


 久々にお父様が大声を出すのを見た。

 少しやつれた感じもするけれど、お父様はやっぱり素敵でかっこいい。お母様、涙で私の手がぐしょぐしょです。美人だけどたくましいお母様がそんなに泣くなんて珍しい。一体どうなさったの?

 よく見ると、ベッド脇には銀の水盆やら水晶玉やら寒暖計みたいな見慣れない道具がずらり。ここが病院なら、個室で点滴でもしていたみたい。


私、具合が悪くて寝込んでいたとか?


 その辺りの記憶が全然ない。

 身体は動かないけれど、すごく痛い所とかは無いし。

 

「アリィ、身体は大丈夫なの? 何か欲しいものはある?」


 お母様が心配そうに聞いてきた。


「急な摂取はお身体に負担をかけるのでよくありませんな。少し調べさせて下さい」


 なぜか医師まで登場した。

 なんだなんだ、一体何があったんだ?

 疑問を解いてくれたのは、お父様。


「アリィ、今がいつかわかるかい?」


「……いえ。昨日街に買い物に行ったことまでしか覚えていません。今が何時で、どうして家に帰って寝ているのかわからない」


 掠れた声で途切れ途切れに伝えてみた。自分の声じゃ無いような気がする。


「買い物に行った時のことを覚えているかい?」


 アイリス様に誘われて行ったお店で変なモノを見た気がする。豹変した彼女と、黒い陰。


「黒ちゃん……」


「辛かったなら無理に思い出さなくても良い。お前は黒い陰に呑み込まれてから、ずーっと眠ったままだったんだ」


 そうおっしゃるけれど。

 ではあれは、もしかして夢ではないの? 暗闇の中で黒ちゃんと過ごした事は現実? それならいつってどういうこと? 

 突然閃いた考えに動揺する。

 そういえば黒ちゃん、時間の流れがどうとかって言ってたっけ。

お父様もお母様も皆もあまり変わりはないようだけど。まさか私だけ、おばあちゃんになっちゃってるんじゃ……


「今は、いつ……?」


「お前が眠ってから4年以上経っている」


 お父様が言う。


「……4年?!」


 よく寝て気分が良いんじゃなかった。

 うっかり寝過ごしただけじゃなかった。

 4年って何それ?

 中学校も高校も、入ったとしても卒業しちゃってるよね?

 ど、どーしよう?

 まさか、ヨダレ垂らして爆睡してたり、いびきかいたりしていなかった? ずっと寝っぱなしでゴロゴロしているにも程があるとか、みんなを呆れさせていなかった? 

ただでさえ地味顔なのに髪はボサボサ肌はボロボロ。すっごい顔で迷惑かけてみんなに嫌な思いをさせていなかった?


「か、鏡」


 声を絞り出す。

 侍女が手鏡を持って来てくれた。見るのが怖い気もする。

 少しだけ動くようになった右手で、鏡を握ろうとした。それだけのことなのに、ひどく億劫おっくうだ。指も長く細くなったような気がする。自分の身体のハズなのに、動かし辛くて自分じゃないみたい。

 エルゼさんがすぐに気がついて、手を添えて支えてくれた。私は恐々鏡を覗きこんだ。




「誰、これ?」


 映っていたのは、赤味がかった金色の長い髪に淡い金色の瞳を持つ白い肌の女性。以前の面影もあるような気がするけれど、だいぶ大人になっている。


「まさか、これ、私?」


 確認のために鏡を見ながらまばたきしてみる。口をすぼめたり、変顔してみたり。どうやら間違いないようだ。


「地味じゃなくなってる……」


 母マリアンヌの超絶美貌には遠く及ばないけれど、人並みにはキレイになったような気がする。心配していたヨダレも髪のボサボサも、目ヤニもどこにも見当たらない。むしろ、前よりしっかりお手入れされている感じ。


 疲れてきたのでエルゼさんに手鏡を返す。

 地味な茶色の髪は?  

 淡い茶色の瞳はどこへ行った? ほっそりした顔ではなく、子供っぽい丸顔だったはず。

 胸も……大きくなってる! ぺったんこだったのに、今はきちんと盛り上がっている!

 寝ていた間に身体が成長して、大人になってしまったようだ。そういえば、今は強張って動かない手足も、前より長くなっている気がする。寝る子は育つって本当だったんだなぁ。


「本当に、気が付いて良かった!」


 お母様、ハンカチを握り締め再び号泣。お父様もこっちを見て涙の滲む目で微笑んでいらっしゃる。ってことは、これが私で確定。

 冷静に考えると今のこの顔は、モテモテだった前世の自分に似ている。むしろ前よりレベルアップしているような。これはあれかな? 自分を受け入れるって黒ちゃんと約束したから、元の姿に戻ったとか?


 顔を見て、一瞬イジメられていた頃の記憶が蘇った。

 でも大丈夫! そんな心配はいらない。

 だって、この世界の方が圧倒的に顔面偏差値高いもの。周りのみんなも温かくて優しいし。この顔が、特別綺麗ってわけじゃない。

前と違って女友達もちゃんとできたし。……って、まだ友達だよね? 眠っている間に友達認定外されていたらどーしよう?


 友達といえば、アイリス様。

 彼女も私と同じように巻き込まれていたから、気にかかる。あの後、無事に家に帰り着いたのだろうか?

 声に出ていたらしく、お父様が答えて下さる。


「アイリス嬢なら大丈夫だ。彼女の懇意の店ということで一時は関与を疑われた。だが調査の結果、記憶が抜け落ちていただけだとわかった。無事に放免されている」


 あの時、アイリスの後ろに見えた黒い陰。その闇に、私は勝手に捕らわれてしまった。だから彼女にまったく罪はない。

 罵倒された気もするけれど、陰の影響だと思う。本心だったとしても、隠れてコソコソ言われるよりは、正面切って非難された方がずっといい。彼女の苦しみに気付かずに浮かれてヘラヘラしていた私は、一体どれだけ相手を傷つけていたのだろうか?


 動けるようになったら会いに行こう。話せばきっと分かり合える。

 それが、友達だから。

 この姿で会いに行ったらビックリされるだろうな。それとも、私のことはもう嫌い?


 だけど私は卑屈にならない!

 自分を好きになるって黒ちゃんと約束したから。嫌われているのなら、好きになってもらえるように努力する。

 私は前向きに、この世界で生きて行くって決めたから!




 そんなことを考えていたら、バンッと大きく扉が開いて長い脚のイケメンが二人入ってきた。一人は見知らぬ人。もう一人は……


「ヴォルフ兄様?」


 先に部屋に入ったお兄様。

 あっという間に駆け寄ると、私の顔を挟んで自分の端整な顔を近付ける。アイスブルーの瞳で至近距離から見つめる。


「アリィ、本当に起きたんだ! 無事なんだな」


 感情を露わにするなんて、普段冷静なお兄様らしくない。

 あ、髪がだいぶ伸びましたね?

 長めの銀髪を後ろで1つに結んでいる。

 以前は肩までだったのに……

 私は微笑む。

そんな兄もとても素敵だ。


「良かった」


 泣きそうな顔でこちらを見つめるお兄様。

 その声が少しだけ震えていたと感じたのは、私の気のせい? お父様より圧巻の溺愛ぶり。『氷の貴公子』どこへ行った?



 感動の対面中なのに、ベリッとお兄様を引き剥がした後ろのイケメン。背は高いけれど、ヴォルフよりかなり年下に見える。部下の方かしら? その割には、態度がとても大きいような……


 貴方は、誰?


 首を傾げて見返すと、その人はひどく傷ついたような悲しそうな目をした。

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