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地味に転生できました♪  作者: きゃる
第1章 地味顔に転生しました
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全てはお嬢様のために

「ほら、お嬢様、今日も気持ちの良い朝ですよ!」

 お嬢様の部屋のカーテンを開ける。

 よく晴れたいい天気で、庭の緑が眩しい。


 アレキサンドラ様はずっと眠ったまま。

 私、エルゼはいつものようにお嬢様の顔を洗い、身体を拭き、寝衣を変えてお(ぐし)を整えて差し上げた。

 眠ったままのお嬢様は、人形のように可愛らしい。起きていらっしゃる時も、それはそれはお可愛いらしかったけれども。


 お嬢様が眠っていらっしゃる4年もの間に、いろいろな事が起こった。


  父君の公爵様は結局宰相職を退かれ、王室顧問官として時々城に上がっている。

  夫人のマリアンヌ様は、一時は心労でお身体を壊されたものの、「私がこれではアリィに叱られますわね」と、以前のような輝きを取り戻された。

  お兄様のヴォルフ様は近衛騎士団から王子付きの秘書官に転属。ただ、レイモンド様がまだ時々こちらにいらっしゃるので、お仕事はご一緒にされているよう。


  一番変わったのは弟君のレオン様。

 お姉様のアレキサンドラ様のことが大好きで、いつもニコニコしていた人当たりの良いレオン様。お姉様が倒れられてからは、一度も笑顔を見せなくなった。それどころか、


「大切な人を守れるくらい強くなりたい」


 と、意外にも騎士団への入団をさっさと決めてしまわれた。知識は十分だし、剣術もお兄様や武術の教師に習っていたから入団試験は合格したものの、年齢が足りずに見習いとなった。今年始めから王宮の寮にお世話になっているので、なかなかこちらに帰っていらっしゃらない。


 それまでは、毎日お姉様のお見舞いをされていらしたから諦めた訳ではないのだろうけれど、急に大人びたレオン様を見て奥様のマリアンヌ様が

「子どもの成長はあっという間ね。寂しくなるわね〜〜」と、残念そうに呟かれた。



 成長といえば、眠っていらっしゃる間にお嬢様もどんどん成長された。

 日があたらない室内にいるせいか、髪は色が抜けて栗色から金色に。手足も少しずつ伸びてほっそりした反面、女性らしい部分は丸みを帯びてきた。


『子どもから大人に成長して美しく花開くこの時期に、眠ったまま動けずにいらっしゃるのはどんなにお辛いことだろう』


 考えただけで涙がこみ上げる。

 いつまで経っても一向に目覚める気配のないお嬢様だが、ご一家や私達使用人の誰もがご回復を心から信じている。



「全ては、お嬢様のために」


 私エルザは、誇りを持って今日も職務を全うする。



 ***********



「お嬢様は、何もわかっていらっしゃらない」


 リリーです。私は今、エルゼさんのお手伝いをして、1階にあるアレキサンドラ様のお部屋の水差しを替えている。

 いつ目覚めるのかわからないお嬢様だけれど、屋敷の皆はいつ目覚めても良いように、毎日準備に余念がない。


 事件に巻き込まれて倒れられてから、結局3年もの月日が経った。それでも、お見舞いに来る殿方は後を絶たない。

 鏡を見てため息をついていたお嬢様は、実は誰よりも可愛いらしいから当然といえば当然だけれど、眠ったままのお嬢様も可愛らし過ぎてテイクアウトしたくなる(と、メリーちゃんが言っていた)。


 だから、お兄様のヴォルフ様や王弟のレイモンド様がどんなに優しく話しかけていても、弟君のレオン様や性格も本物王子のリオネル様がどんなに切ない目で見つめられていても、お嬢様に気安く触れさせるわけにはいかないの。


 でも、幼なじみの王子様が成長して最近身につけられたセクシーボイスでも、滅多に帰って来られない声代わり中のレオン様の低音ボイスでも、レイモンド様の百戦錬磨の極甘ボイスでも、お嬢様は目覚めない。旦那様や奥様、お兄様がそれはそれは優しく慈しむように話しかけていても、やっぱりお嬢様は目覚めない。


 ご家族も使用人もお友達も王家の方々も、みんなが貴女を心配している。みんなが心から奇跡を願っている。みんなが貴女をこんなにも大事に、愛しく思っているのに。

 なのにお嬢様は未だに眠ったまま。

 ちょっと涙が出てきた。


「お嬢様は、何もわかっていらっしゃらない」




 そこで私は考えた。

「お嬢様の目を覚ますのは、やっぱりお菓子だわ!!」


 大好きなお菓子の香りがすれば、きっと食いしん坊のお嬢様は起きるに違いない!

 かといって、調理長のジャンに頼むと「何をバカなことを」と言って協力してくれなさそうだから、自分で調達することにしよう。

 そういえば、最近王都で大流行の卵のスイーツがあると聞いた。


 よし、買いに行って来よう!!


 お嬢様の事件以降、1人での外出は禁止されているから、同室のメリーちゃんを誘うことにした。エルゼさんに外出許可を取って、無事に「お使い」に行けることになった。


 レッツ・ゴー!


 最近は怖い事件も減っているし、「黒い闇に近づかなければ大丈夫」と言われているからか、昼間の街は以前のように活気が戻っている。

「リリーさん、ところで買いに来たオススメのお菓子って何ですか?」と、メリーちゃんが聞いてきたから、


「さあ? 卵のお菓子が流行ってるってことだから、誰かに聞いたらわかるんじゃないかしら?」


「え? 聞き込みからですか?」


「それか、長い行列があったら取り敢えず並んでみる?」


「聞き込みの方でお願いします。」


 かくして、私はメリーちゃんと流行っているスイーツの聞き込み調査を開始した。


「串焼きかのう」おじいさんが言う。それは、スイーツではありません。


「ロリポップの花束!」子どもが嬉しそうに言うけれど、それは卵使ってないしなー。


「ショコラクロスル(チョコクロワッサン)かプティガトー(一口ケーキ)かしら?」

 人の良いおばさんが言う。でも、それなら前からあるから何か違うかも。


 向こうからスイーツを持って歩いて来た娘さん達に聞いてみる。

「あ、知ってる。オムレットでしょ?

 このお店のはふわふわで美味しいのよねー」


「!!!」

 どうやら当たりみたい。早速お店を教えてもらい、メリーちゃんと一緒に行列に並ぶ。

 テイクアウトもできるそうで、女性の姿がやけに多い。


「ハイ、どうぞ。」

 ふわんとした生地のオムレットは、卵の甘い香りがして、中にクリームとフルーツがたっぷり挟まれている。

 持ち帰り分はメリーちゃんが買うから、味見も兼ねて早速頬張る。先輩特権!


「!? 何これ、美味しい〜〜〜」


「あのー」と、後ろからメリーちゃん。

 ちょっと待ってね。今、フルーツが溢れそう。

「あのー」

 なあに? と、後ろを振り向くとナゼか手ぶらのメリーちゃん。

「それが今日最後の一つだそうです。」


「!!!!」


 何てこと! しっかり齧ってしまったわ! お嬢様に食べかけを出すわけにはいかないから、メリーちゃんと半分こ。


「何しに来たんだっけ」

 メイド仲間から頼まれていた他の買い物を済ませながら思う。


 張り切って来たけど、お嬢様を匂いで釣る作戦考えたんだけど……。私がうっかり釣られてしまった。


 お嬢様、ごめんなさい。あーあ、またみんなに「うっかりリリー」って言われるかなぁ。

 でも美味しかったから、ま、いっか。


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