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地味に転生できました♪  作者: きゃる
第1章 地味顔に転生しました
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嵐の前ぶれ

 年越しの夜のこと――


 パジャマパーティーの興奮冷めやらぬ女子部屋とは対照的な公爵家の一室。防音完備のこの部屋では、秘密裏に会議が行われようとしている。


 メンバーは王弟のレイモンド、この家の主で宰相のグリエール公爵、その息子ヴォルフ、そしてガイウスである。

『休暇』というのは単なる口実。人目に付き情報が漏れる恐れのある王城よりも、信頼できる宰相の家の方が何かと都合が良い。

国内で頻発する事件に関して早急に対策を練る必要があった。年末最後の夜だからといって気を抜く事はできない。今後の方針を決定するために、彼らは今日この場所に集合した。




「さて、では本題に入ろうか。私から報告がある。みんなの耳にも入れておきたいし。内容が内容だけに宰相やみんなにも協力してもらわないとね?」


 王弟レイモンドが地図を広げながら口火を切る。

 彼は『外遊』という名目で国外を遊び回っていると思われがちだが、実際には長年に渡り諸外国の調査を担当している。軽薄な遊び人のイメージがある彼の本当の姿は、この国の諜報部門を司る情報局のトップ。その存在はおおやけには隠され、王、宰相、彼の腹心の部下にしかその正体を明かされていない。

 ヴォルフやガイウスは近衛騎士団に籍を置きながら、本当は彼の直属の部下である。




「もちろん。報告とおっしゃるのは例のあのことですかな?」


 顎に手を当て宰相が尋ねる。

 彼はそのずば抜けた知性と手腕で、国内の政を一手に取り仕切っている。


「そう。我が国や近隣諸国における怪異現象とアンフェール皇国のことだね」


 レイモンドが答えた。

 ここにはいない彼の部下は、現在国内外の調査にあたっている。報告書が手元に届いたばかりだ。


 近年、ゲラン王国の街中では犯罪や誘拐が多発している。

 軽犯罪についてはすぐに捕縛されるものの、犯人の証言が得てして妙である。皆一様に口を揃えて「何をしたのか全く覚えていない」と言うのだ。

 また、重犯罪である誘拐をたまたま目撃した者の証言も「何も無い所から、突然何かが現れて連れていった」というわけのわからないものだった。


始めは『お互いに庇っているだけ、誘拐犯を見失っただけだろう』と疑って街中の警備を強化していた。しかし、犯罪と不可思議な現象は一向に収まらない。王都を中心に被害は近郊にも拡大している。


「そこで魔導が絡んでいるかもしれないと、ガイウスと魔導の盛んなリンデル国に調査に行った。それは前回話した通りなんだけど……」


「何もなかったわけですか」


 アイスブルーの瞳を細めて宰相が尋ねた。ヴォルフとガイウスは敢えて口を挟まない。


「何もなかったわけではないんだよね。うちと同じ現象がリンデル国でも起こっていた。ただ、魔導をもってしても原因は特定できないらしい。何か大きな『闇』の力が関係しているだろう、としかわからなかった」


 宰相は頷くと無言で先を促す。


「で、気になったのが近年急激に勢力を伸ばしているここ、なんだよね」


 レイモンドは机に広げた地図の端、はるか南方の雪に閉ざされた大地を指差した。




 地図で見ると海洋国であるゲラン王国はラディオール大陸の北東一帯を占めていて、その隣の北西部に魔道王国と呼ばれるリンデル国がある。中央には砂漠の国アズルやカダリアーナや他の国々があり、はるか南に問題の国であるアンフェール皇国がある。この大陸は北が暖かく南が寒い。当然、最南端のアンフェールは極寒の地となる。


「かの国は謎に包まれている。侵入が難しいのか、調査に行ったはずの部下からはまだ何も連絡がない。だけど我が国を含めた各国は、近年台頭してきたここが一番あやしいと睨んでいる」


レイモンドの長い指が、アンフェール皇国のかつての首都を指している。


「急激に増えてきた事件との因果関係がわかれば良いんだけどね。まだどの国も調査の段階で、あまりよくわかってないみたいなんだよね」


「確かに。アンフェール皇国に限っては情報量が少な過ぎますな。諸外国との交易も無く、国交も断っている。元は小さな国でしたが、近年領土を拡大しているとか。断言はできませんが、何らかの関わりがあるとみて間違いないでしょう」


「だからといって他国へ口出しはできないだろう? ましてや国交の無い国だ」


「無理ですな」


「だろ? だから我が国では今後も同様の事件が起こると想定し、備えておいた方が良いと思う。そこで宰相には、警備強化のための兵の増員をお願いしたい。あとは情報局への調査の継続依頼と調査費用増額への口添えをお願いしたい」


 レイモンドは軽口は叩くが仕事は早い。

『協力を要請』と言いながら既に対策は練られていて、決定事項を伝えてくる。

情報局増員の為の人員の選出もとっくに終わっているだろうし、調査に必要な費用も何度も計算された後だろう。



「必要書類はここに」


 机に差し出された紙の束。

 宰相の決済を待つだけの極秘書類である。

 ヴォルフが作成していたのは王子のための書類だけではない。こちらがメインで手の空いた時間に王子の手伝いをしていただけの事。リオネルが聞いたら、さぞかし悔しがるだろうけれど。


「わかった。すぐに手配しよう」


 切れ者と言われる宰相が重々しく頷いた。

 息子のヴォルフはやはり武官よりも文官としての方が役に立つな、と思いながら。


「それから、相手の目的がわからない以上絶対に1人で行動しないよう、不要な外出は控えるよう年明け早々全国民に国王の名で通達を出してくれ」


 真面目な顔に戻ったレイモンドが言った。

 国王は無能というわけではないが、有能な弟に比べればかなり劣る。そのため実際の政に関わっているのは、宰相のアドルフ=グリエールと王弟で情報局長のレイモンドである。



「具体的な被害状況は?」


 宰相の質問に、ヴォルフが調査資料を読み上げる。


「王都に集中しているのですが、昼間よりも夕方や夜間の被害が目立ちます。男女比は半々。前科の有無はあまり関係が無いようで、窃盗や暴力行為は突発的な衝動によるものだと考えられます。評判の良い夫婦や穏やかな老人が豹変して犯行に及んだケースも」


「怖いな」


「皆、何があったか覚えていないそうです。また、誘拐事件に関しては『黒い陰のような存在を背後に見た』という目撃情報もあります」


「うちだけでなく、隣国リンデルでも似たようなものでした。魔導保有の有無に関係無く、誰もが犯罪に巻き込まれる可能性があるとのこと。また、誘拐事件に絡んで、黒い霧のようなものを見たので魔導で追撃したけれど、躱されたのか存在がうまく掴めなかった、とのことでした」


 ガイウスが付け加えた。


「そういう事だ、宰相。皆も理解したかな? 同じ内容の文書を国王の執務室には既に届けてある。引き続き調査は継続するし、今後も国内を警戒して欲しい。私からは以上だ。他に何か報告は?」


 レイモンドが話し終えると、議題は他へと移った。


 不可解な犯罪が多発しているとはいえ、この段階ではまだ、すぐに阻止できると思っていた。今はまだ平和なこの国に、暗雲が立ち込めているとも知らずに………


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