魔法少女オンライン ~少女と歩む俺の始まり~
名前とかコスチュームとかいろいろセンスない気がする……
そのゲームのスタート地点は町外れにある丘の上、そこに古くからある石碑の前だった。
「へー、結構凝ってるじゃん」
目の前に広がる風景。そのリアルさに思わず感嘆の声を上げる。
眼前に広がるは現代日本とほとんど変わりない。ビルがあり家があり、学校があって公園がある。自然物で言うならば木々も草原も海もある。
そしてそのどれもがリアルを忠実に再現しており、偽物とはとうてい思えない。
「これって、絶対題材で失敗してるよな」
これだけの技術力があるなら普通のRPGでも話題になっただろうになぜに魔法少女育成MMOとかいうニッチな物にしたし。
ピコン♪
どこからか機械的な音がしたと思ったら、目の前に文字の書かれた黒板のような物が現れた。
確かこれはシステムウインドウで妖精にしか見えない神からの伝言って言う設定だっけか。
『チュートリアル・ミッション:運命の少女
ようこそ《Girls Navigate Omline》へ。あなたがこの世界で過ごすためにまずパートナーとなる女の子を見つける必要があります。今すぐ町へ降りて運命の相手を見つけましょう。(制限時間:1時間(ゲーム内で6時間))
※制限期間以内に見つからない場合は強制イベントが発生の上、ランダムでパートナーは決められます』
「1時間か、結構短くないか?」
当然、その問いに答える者はここにはいない。
「……まあいい。さっさと探しに行くか」
目指すは清楚系大和撫子。巨乳ならなおよしだな。
丘を下り、町に出るまで約5分。やけに短いと気にしてはいけないのだろう。いわゆるご都合主義だが、そこまでリアルにしてパートナーを探す時間を減らすとか本末転倒だから目を瞑るべきだからな。
「さて、目的のおっぱいちゃ、じゃなくて女の子はどこいるかな……」
町の全域マップを確認し、理想の相手がいそうな所に目星をつける。学校、公園、図書館、神社……、大和撫子と言ったら巫女さんだな。うん。
そう思いつき、神社に向かったわけだがその途中でハプニングが起きた。
一言で言うと衝突事故。どうも曲がり角の向こうから走ってきた人物とぶつかったらしい。
らしいというのは気が付いた時には既に宙を舞っていたからであり、そしてそのまま目の前が暗転したのだから状況が把握できなくても仕方ないと思う。
次に気づいたとき、徐々に鮮明になっていく視界には俺をのぞき込む少女写り込んでいた。当然のように目が合い、互いにパチクリする。
この距離感から察するにどうやら俺は少女の膝の上にいるらしい。が、どうしてこんな状況になっているのか当の俺には分からない。なので、事情を知っているだろう彼女に声をかけることにする。
「……えっと?」
「ごめんっ」
いきなり謝られて困惑する俺。
てか、顔が近い。膝の上に俺を乗せたまま謝るから、顔との距離がハンパない。つか、アホ毛が刺さるかと一瞬びびった。
少女が顔を上げるのを待ってから少し距離をとり、改めてどうしてこうなったのかを少女に確認する。
「えっと……」
要約するとこうだ。急いで走っていた彼女と曲がり角で衝突。体重差の関係で彼女は何ともなかったが、俺の方はかなり飛ばされたらしい。それで申し訳なく思った彼女は、俺の目が覚めるまでこうして公園のベンチで待っていたらしい。って、急ぎの用事はいいのか?
「なるほどな。手当してくれてありがとうな」
「ううん。悪いのはこっちだし」
「お互い様だから気にすんなし」
「うん。ありがと♪」
そう言った時の人なつっこそうな笑顔は彼女にとても似合っている。
いっそ彼女をパートナーにとも思わなくはない。
素直に謝れるいい娘である。それに美少女でもある。頭の上で揺れているアホ毛が気になるが、まあそこは目を瞑ろう。
が、致命的なことに彼女には胸がない。膝の上にいる状態で顔全体が分かる程だ。つまり俺の選ぶ道は決まっているのだ。
「えっと、君はなんて言うの?」
少女に問われ、俺は考える。流石にここでリアルネームを答えるなんてバカはしない。今の俺は妖精。いわゆるナビだ。それっぽい名前を考えないといけない。本命に会うまでには決めないとな。
「俺か? 俺はナビ。妖精だ」
「へぇ、ハナビっていうんだ」
少女がそういった途端、例の黒板が俺の目の前に現れてそれを知らせた。
『初めての名乗りによりあなたの名前を『ハナビ』と認識しました。以後、あなたの名前は『ハナビ』です』
いや、今さっきのはそういうつもりじゃ……、まあいっか。考えるのも面倒だし『ハナビ』で行くか。
「あたしの名前は……」
そう言った所で彼女の動きが止まった。いや、彼女だけじゃない。周りの動きもだ。そして再び現れる黒板。
『このキャラクターは名前を変更する事が出来います。変更する名前を言ってください。 デフォルト【花子】』
そういや、魔法少女候補の女の子の名前は変えられるとか説明書に書いてあったな。そうかこのタイミングで変えられるのか。
……パートナーにするつもりはないけど、流石に花子は可哀想すぎるだろう。手当てのお礼に名前を変えといてやるか。
とは思ったもののどんな名前にするか。なんかいいヒントはないかと彼女を観察する俺の目は彼女の頭の上で止まった。
アホ毛って、アンテナぽいよな。でも流石にアンテナはないだろうし……
「アテナ」
気づけばそう呟いていた。
アテナ。確かギリシャの戦いの女神。もし彼女が魔法少女になれば強くなれそうな名前だ。俺は契約するつもり無いけど。
『以後、このキャラクターの名前は『アテナ』となります』
その言葉を確認すると同時に止まっていた時は動きだし、彼女の台詞も再開した。
「あたし、アテナ。日向アテナっていうの。よろしくね♪」
「おう。って、今何時だ?」
はたと思いだし、ちょうど公園の中央に時計があった。
「って、結構経ってるな」
どうやら気絶している間にかなりの時間が経ってしまったようだ。早く神社へ向かわないとタイムオーバーになってしまう。
「急がないと……」
丘の上から見た町の全景を思い出す。ここから神社だと移動するのに結構時間がかかる。行きだけならともかく帰ってくるまでにタイムオーバーに鳴りかねない。
もちろんこのままアテナをパートナーにすると言うのもありと言えばありだが……。
「まあ、ないな」
「ほへ?」
そう呟いたとき、彼女の胸辺りに視線があったのは偶然だ。だから、俺はまだ見ぬ巫女さんに賭けることにした。
それでダメならダメな時だランダムに賭けよう。アテナ以下となることはそうそうないだろう。
「じゃあ、俺は行くわ」
そう言い、俺は神社へと向かう。
「また会える?」
後ろからアテナの声が聞こえる。
「運が良ければな」
俺にその気はないが、まあランダムでアテナを引かないとも限らないし、本当に運が良ければそのうち会えるだろう。
それだけ言い残し俺は公園を後にした。
だから、アテナが俺の去った公園である物を見つけるとは思いもしないし、それが今後どう繋がるのか、考える故もなかった。
30分の移動の末着いた神社は閑散としており、客は1人もいなかった。が、目的の巫女さんが境内の掃除をしていたので問題なしとする。
件の巫女さんは黒髪ロングの長身で、凛とした雰囲気を纏っていた。顔はもちろん美人系で、どこがとは言わないが大きい。まさに理想のパートナーだ。
このまま見ていたい気もするが、そうは問屋が卸さない。時間は有限なのだ。油断しているとすぐにタイムアップしてしまうだろう。
なので、意を決して声をかける事にする。
「ねぇ、君。俺と契約して魔法少女になってよ」
って、まて俺っ。それどこの淫獣だ?!
焦って出てしまった言葉に、自分ながらに身悶えする。
「あら、素敵なお誘いね」
えっ、もしかしていけるのか?
「でもごめんなさい。既に間に合ってるわ」
「ですよね~。……って、間に合っている?」
「えぇ」
俺の問いかけに巫女さんが頷いた後、すぐに何かに気づいたらしくそのまま言葉を続けた。
「あら、ちょうど来たみたい」
巫女さんはそこに現れた人物?に声をかけ、招き寄せた。ちなみにそれはクマの様でクマでないぬいぐるみのような妙な生き物、妖精だった。……まあ俺も似たような感じのハズだけどな。
「紹介するわ。私のパートナーのテンチョーよ」
「おいーす」
こいつが巫女さんのパートナーと言うことは、既にパートナーがいたってそういう事か。とわかりやすく混乱してみたり。
「テンチョー。こっちは……、そういや名前聞いてなかったわね。あなたなんて言うの?」
「……ハナビ」
少し迷って、先ほど偶然で決まってしまった名前を名乗る。ボチョムキンとか変な名前じゃなくてよかったと思う。
そして俺も気づいた。そういや巫女さんの名前聞いてなかったな。
「ちなみに巫女さんの名は?」
「榊聖奈よ」
そう不敵に微笑む聖奈さんだった。
(いい名前やろ)
(悪くはないね)
テンチョーが俺だけに聞こえる声でそう言ってきた。つまり『聖奈』というのは彼が付けた名前なのだろう。俺だったら多分『ミコ』辺りにしてたな。もちろん漢字は変えてだが。
「で、君が僕らが探していた相手だと思うんやけど、どうや?」
「……探してた?」
テンチョーの言葉に俺は眉を潜める。このタイミングでこの台詞、もしかして聖奈さん達って、敵?!
だとしたら、まずい。何かまずいって俺は始めたばかりでパートナーもまだ決まってないんだぞ。手も足も出せず蹂躙される自信あるぞ。
「あっ、勘違いしないで」
とっさに身構える俺に聖奈さんが制止の声をかけた。
「私たちは支援ミッション:初心者の支援を受けてここにいるの。だから少なくともあなたの敵じゃないわ」
「はぁ、それならそうと変な言い回ししないでくれよ」
とりあえずテンチョーをじと目でにらむ。
「おいおい、勝手に勘違いしたのはそっちやろ」
「そりゃそうだけど……」
確かにそうだったので言い淀むしかないわけで。
「まあ、いいわ。それより自分の残り時間は……」
どれくらいか。テンチョーがそう言い掛けた矢先、どこかで爆発音が起きた。
驚いて辺りを見回すと結構近くで発生したようで神社の階段を下りてすぐの所で黒い煙が立ち上っている。
「テキナリー?!」
「なんや、現れるの早くないか?」
さすがになれているのか聖奈さんとテンチョーがとっさに反応した。ちなみにテキナリーはこのゲーム内のモンスターに当たる物だ。
「ハナビ。自分、残り時間どんだけやねん」
「えっと……。ここに来るのにいろいろ時間食ったから残り少ししかない」
「まじか」
どうやらこのチュートリアル・ミッションでは時間経過でテキナリーが現れる仕組みだったらしい。その時点でパートナーが組めていたらそれでよし。組めてなければ、今回のテンチョー達みたいに支援ミッションを受けたプレーヤー達に足止めしてもらうそうだ。
「しゃあない。聖奈、変身や!」
「仕方ないわね。《猫神来たりて力貸せ。巫踊りて神招く》」
聖奈さんが呪文らしき物を唱えると、一瞬にして辺りは光に包まれそしてそれが晴れたときには巫女服をベースにしたコスチュームに身を纏い、猫ミミと尻尾を生やした聖奈さんがそこにいた。
「祓いますは猫神の使い。ネコミコせーにゃ、舞っちゃうにゃ」
そう言いながら聖奈さん、いや、せーにゃは、舞い踊る様な動きを魅した後、最後に右手を顔の横で握り招き猫のようなポーズを取りウインクをした。
「うぅ、毎回これするの恥ずかしいんだけど……」
「無理や、諦め」
顔を赤らめて恥ずかしがるせーにゃ。うん、なんというか確かにイタい。
(ちなみにパートナーとそのフレンドは、変身シーンをノーカットで見れるんやで?)
そんな事を聞かされて俺にどうしろと?
「ほら、さっさと行くわよ」
「おう」
「了解や」
まだ少し顔の赤いせーにゃに急かされ、俺たちは現場へと向かうのであった。
俺たちが向かった先、そこにいたのは二足歩行の犬、ファンタジーならコボルトと呼ばれそうな感じだからコボルト・テキナリーと呼ぶが、とそれに襲われているであろう1人の少女。ってあれ、アテナじゃねぇか。何でこんな事にいるんだよっ。
俺がアテナを認識した矢先、コボルト・テキナリーの拳がアテナに向かって振り下ろされた。
が、それを防ぐ人がいた。そうせーにゃだ。せーにゃは自身の3倍はあるコボルト・テキナリーを受け止め、それを支えていた。
「ほら、早く逃げて」
「う、うん」
せーにゃに促され、こちらへと逃げてくるアテナ。そしてそれと同時にせーにゃはコボルト・テキナリーを押し返している。さすがは魔法少女とでも言うべきなのかも知れない。断じて魔法少女?と疑問を持ってはいけない。最近の魔法少女はだいだいこんなものらしい。
「アテナ。なんでこんな所に?」
「えっとコレ、忘れ物。たぶん大事な物なんだよね?」
渡されたのはスマホ型のアイテム。メニューを開いたりする為の端末だ。これが無ければ何も出来なくなるので、もし見つからなければ一大事になる所だった。
まあ、いまのいままで無くしてたことに気づいてなかったんだけどな。
「おう、サンキュ!」
「えへへ、どういたしまして」
アテナは照れて頬を掻いている。
「おい、そこ、いちゃいちゃしてへんとさっさと変身せんかい」
「変身?」
テンチョーの言葉を聞いたアテナは首を傾げる。
「待ってくれ、まだパートナー見つかってない。それにアレぐらいならせーにゃ1人で大丈夫だろ」
「はぁ、その子がハナビのパートナーちゃうんか。それにせーにゃにゃあれは倒せんで」
「パートナー決まってたら聖奈さんを誘おうとしないって。ってか、あれだけ一方的なのに勝てないっていうのかよ」
「なんや、おまん。人の女に手を出そうとしとったんか」
「誰があなたの女よ」
コボルト・テキナリーを蹂躙していたせーにゃが、テキナリーを吹き飛ばした隙に僕らの元へ駆け寄り、会話に加わってきた。
「それとアレはチュートリアル用のテキナリーだからハナビ達しか倒せないわ。私達が出来るのは足止めだけでダメージは一切入らないの」
そう言われればとコボルト・テキナリーの方を見れば、あれだけ攻撃されていたにも関わらず平然と立ち上がりこちらへ向かって来ている。
「なら早くパートナーを探しに行かないと」
俺は慌てて町の方へ駆け出そうとしたが、そんな俺をアテナが抱き抱え邪魔をする。
「ちょっ、邪魔すんじゃ……」
「よくわかんないけど私も手伝う! たぶんだけどハナビが走るよりあたしが抱いていった方が早いよね?」
アテナの真剣な眼差しに俺は少し考え、そして頷く。
「おう。サンキュ!」
確かにちんちくりんな妖精の俺が走るより、アテナに任した方が早いだろう。アテナを危険な目に晒すようで申し訳ないが、いまは緊急事態だ。しょうがない。
「ちょい待ち」
意気投合し町へと駆け出そうとする俺逹をテンチョーが呼び止める
「なんだよ。急がないと、いくらせーにゃでもスタミナってもんがあるだろ」
「せやない。1つ訊きたいんやけど……」
「なんだよ」
俺はアテナに抱き抱えられたままテンチョーを睨む。早くしないとやばいだろ。
「なんでその子と契約せえへんのや?」
テンチョーに指摘された俺は思わずアテナの顔を見る。見られたアテナの方はなんのことだが分かっていないようで、明らかにキョトンとしていた。
「……忘れてた」
「おいっ」
「あはは……」
テンチョーに突っ込まれた俺は苦笑で返すしかなかった。
とまあ、そんな些細な事はさておきだ。
「アテナ。ごめんちょっと下ろしてくれるか?」
俺はなるべく真剣な声になるように気をつけてアテナに頼む。
「ふぇ?」
抱き抱えられたままってのは様にならないからな。なんせこれから危ない目に遭わすかも知れないお願いをするんだから、真摯に頼まないと。
……聖奈さんの時の態度? そんなの忘れたさ。
「アテナに頼みたいことあるんだ。下ろしてくれ」
「う、うん。わかった」
俺が真剣なのを察したのか、渋々下ろしてくれたアテナ。なんかあほ毛もへちゃっとなってしょげてるみたいだ。
「アテナ、頼みがある」
「うん」
「俺はいまパートナー、つまり魔法少女を捜してる」
「魔法……少女?」
「そうだ、今あの化け物と戦ってくれてるあの子みたいな魔法少女だ」
「へっ? じゃあ、あの子を捜してたんだ。見つかって良かったね」
「違う。あの子は俺のパートナーじゃない。そこにいるテンチョーのパートナーだ」
「あっ、そうなんだ。……じゃあ、いまからその子を探しに行くんだね。早く行こっ、手伝うよ?」
「いや、それはもういい」
「じゃあ捜してないの?」
「あぁ。たぶんだけど見つかった……」
「そうなんだ♪ よかったね。誰? もしよかったらあたしにも教えて」
「それはアテナ。君だ」
「ふぇ?」
「だから、アテナ。君に俺のパートナーになって欲しいんだ。危ない目に遭わせる事になるのは十分承知だ。もちろん断ってくれても構わない。けど、頼む。この通りだ」
俺はアテナに向けて土下座をする。時代錯誤的な頼み方だとは思うが、これが俺にとっての誠意だ。
「……えっと、どうしたらいいの?」
「受けるのも断るのもアテナの自由だ。アテナの好きにすればいい」
「えっと、じゃあ……へんっ、しんっ。とぉ」
頭をあげた俺の目の前でアテナは某仮面なライダーのポーズをとってみせた。その予想外の行動に俺は思わず固まってしまう。
「あれ? 変身できない……」
それから数秒。やっと再起動した俺が声をかけるまで、アテナがいろいろ試していたのはいうまでもない。
「えっと、アテナさん? 何をしてるんで?」
「え? 変身しないと戦えないんだよね? 私知ってるよ?」
う、うん。確かにそうなんだけども。
「つまり俺の魔法少女、パートナーになってくれるって事でいいのかな」
「もちろん!」
さも当然とばかりに元気に答える。俺はその様子に逆に不安を覚えた。
「いや、いろいろと危険だぞ。しかも今回だけじゃないんだぞ。これからずっとなんだぞ?」
「いいよ」
「いや、もっとよく考えろよ」
「だって、友達が困ってたら助けるのは当然だよ」
「えっ」
アテナから返された言葉に俺は耳を疑う。会って間もない妖精に対してこうも簡単に友達と言ってのけるとかあり得るか?
もちろんそういうゲームだからで済ますのは簡単だろう。でも目の前の少女はそれ以上に人間らしい気がする。
「あれ、もしかしてあたし達って、友達じゃない?」
「い、や、そんな事はない」
「良かった~。じゃあ、当然だよね」
そうして向けられた笑顔に俺も覚悟を決めた。彼女、アテナとパートナーにする覚悟を。アテナを巻き込む覚悟を。
「じゃあ、改めて頼む。アテナ、俺のパートナーになってくれ」
「うん♪」
アテナが笑顔で答えた瞬間、時が止まり件の黒板が現れた。
『魔法少女候補『日向アテナ』との契約が成立しました。『日向アテナ』の魔法少女としてのキーワードを指定してください。
『_________』(必須)』
キーワード。確か魔法少女の属性になるものだった筈。『火』『水』『風』などでもいいが、一般的なものよりオリジナリティが溢れる物の方がいいって言われていて、それが魔法少女とマッチしていればなお良いらしい。
俺はいいキーワードがないか考える。当初考えてたのは『大和撫子』だったり『和』だったりした。けど、これはアテナにはまるっきり合わないと思う。
かと言って、知り合って間もない相手の特長なんて当てられる気が……、いや1つあるか。俺はアテナの顔、正確には頭の上を見てそこから連想したキーワードを入力した。
『電波』
名前の時と同じくアホ毛をアンテナに見立てて、今にも受信しそうなそれをキーワードにする。
『キーワード『電波』……設定OK。希望があれば魔法少女名を入力してください。指定がない場合、イメージを読みとり自動で設定されます。
『_________』(任意)』
魔法少女名か。キーワードが『電波』だから英語だと確か『radio』だよな? だとしたら『レーディオ・アテナ』とか……ないな。
ほかになにか……、うん。思いつかん。こうなるんだったキーワードを『電波』なんかにするんじゃなかった。かと言って巻き戻しも出来なさそうだし、アテナすまん。自動設定に賭けさせてくれ。
『魔法少女名は自動設定されます。よろしいですか』
その確認にOKと返すと止まっていた時が動き始めると同時に、アテナが届けてくれた端末からリモコンの様なアイテムが現れた。
そのリモコンは自然とアテナの手元へと移動する。
「これは?」
アテナに問われ、俺は端末のアイテム欄を確認する。
「コネクト・リモコン。アテナ用の変身アイテムだ」
「これが?」
アテナはリモコンを手に取り、しげしげと確認している。
「変身の呪文は《キャッチ・コネクト・チャネル》。空にかざして呪文を唱えれば後は勝手に変身するそうだ」
「分かった。やってみる!」
アテナは臆する事無くそう言うと、手にしたリモコンをバトンみたいにくるくる回してから、空にかざした。
「《キャッチ・コネクト・チャネル》!!」
アテナが呪文を唱えるとリモコンの全てのボタンがランダムに光り出し、一番最後に電源らしきボタンのみが光った状態となった。
それをアテナが確認しボタンを押すと、リモコンの先から電波と言う名の光の輪が放たれた。そしてその光の輪はアテナへと降り注ぎ、着ていた服が光へ変える。光となった服はアテナのボディラインを露わにするがそれを気にする暇はなく、未だ降り注ぐ光の輪によってアテナのコスチュームが形成されていった。
まず、いつの間にかリモコンを手放した右手だ。右手に集まった光の輪は手首までの長さの白い手袋へと変わる。
次に左腕。光の輪が集まり手袋となるのは同じだが、右手のそれとは異なり肘までの長さの物へと変化した。
脚。左右当時に光が集まり、茶色いローファー風の靴と太股の下から3分の1ぐらいの長さの靴下へと変わった。
レオタードのようになった腰に集まった光はスカートへと変わる。その長さは太股の中程までで桃色をベースに白色のフリルが裾に付いている。が、それは右半分だけで左側はもう1段、ふくらはぎの中程まで伸びる。そしてその1段目と2段目の裾にフリルがあしらわれているのは同じだったがベースの色は桃色ではなく水色だ。
次には現れたのは服だ。スカートとは逆の配色で右側が桃色で左が水色。右の方が袖は長く、左側が半袖ぐらいなのに対して、右は二の腕の半分ぐらい伸びている。もちろんそれぞれの裾にフリルがあしらわれるのは言うまでもない。
胸には2色に分かれたリボンが1つ、小さな胸を隠すように大きく花開く。左右に分かれたその色は服とはまた逆の配色だ。
短めのストレートだった髪の毛は電波を帯びた為かいつの間にかツインテールとなっていて、アホ毛と共にそのボリュームを増し左のテールの付け根にはパラボラアンテナ型の髪飾りも現れる。
最後に謎の光が顔をなで、軽いメイクを済ませると、どこかに消えていたリモコンが左腰にいつの間にか出来ていたホルスターに納められた。
変身の全てが終わり、どこか道化師を思わせる、左右上下ちぐはぐなコスチュームを身にまとったアテナは、右手を再度天へと掲げる。
「飛び交う夢をクリア受信!」
そして、何かをつかみ取るような動きを伴って、
「シグナル・フール。ただいま着信!」
右手で胸を軽く叩き、ウイングをする。
「って、本当に変身しちゃった?! すごいよ。ハナビ、あたし変身しちゃった!」
「うん、それは見たら分かる」
変身後の自分の手や脚、服を見てアテナ、いやシグナルは一頻りはしゃぐ。俺はそんな彼女を見て思った。本当にこいつで大丈夫か?
「ねぇねぇ、ハナビっ。あたしってどんなこと出来るの?」
「いま調べるからちょっと待ってろ」
「うん♪」
かなりハイテンションなシグナルに待ったをかけ、ステータス画面を確認する。
「チャンネルチェンジ? あぁ、モード切り替えか」
「えっ、なにそれおもしろそう!」
そう言っておもむろにリモコンを取り出したシグナルはボタンを適当に3つほど押してから空に掲げた。
「タッ、チョン、パ♪ ……え~と?」
取りあえずやってみた物のどんなチャンネルがあるのか分からない。そんな感じか。
はぁ。俺はしょうがないとため息をはいて、2つ判明しているチャンネルの内ひとつを教えてやる事にした。
「格闘チャンネルだ」
「そうそれ、格闘チャンネル♪」
シグナルがチャンネル名を宣言するとリモコンから桃色の光が飛び出し、どこかに飛んでいったかと思えば、彼方から戻ってきて頭のパラボラアンテナへと吸い込まれた。そしてそのまま桃色の光がシグナルのコスチュームに染み込んでいき、その姿を変えていく。
最終的に半袖ミニスカという前後左右を元のコスチュームの桃色部分で統一した物へと変わった。
「すごい。なんか力が沸いてくる気がする!」
手をぶんぶんと振り回し、嬉しそうに飛び跳ねている。
格闘チャンネル。その名の通り格闘、接近戦に特化したチャンネルのようだ。
その証拠にいつの間にか詰め寄っていたコボルト・テキナリーを一撃を片手で受け止めている。
「もう良いことなんだからちょっと待っててよ」
そう言って易々とテキナリーを投げ飛ばしたシグナルが、なにやら期待するまなざしを俺に向けてくる。
「ねぇ、ハナビっ。あたし、魔法使いたい。できる? 魔法?」
「魔法? なら、マジックチャンネルだな」
「分かった!」
元気に答えたシグナルは再びリモコンのスイッチを押し、呪文を唱える。
「タッ、チョン、パ♪ マジックチャンネル!」
今度はリモコンから水色の光が放たれ、そしてシグナルが受信する。するとシグナルのコスチュームは長袖というにはちょっと短い水色のドレスへと変わった。
「いくよぉ~、ファイヤぁー、チャンネルぅ!」
シグナルはリモコンを魔法のステッキのように振り回した後、コボルト・テキナリーに向けてボタンを押す。すると杖の先から火の玉がでてテキナリー飛んでいき、見事に命中する。
「すごい! あたし魔法使えちゃった♪」
「お、おう」
無邪気に喜ぶシグナルに俺は押されまくりだ。
「って、あれ何か光ってるよ?」
シグナルに言われ、テキナリーの方を見ると確かに光ってる。
「確かあれは……」
「止めの合図やな」
「あの状態になると、必殺技……奥義……まあ、人それぞれだそうですが、そう言う技で止めが刺せます」
「逆に言うとそれでしか倒せんけどな」
シグナルが変身した後、いつの間にか勝負から離れ、傍観者に徹していた2人(1人と1匹?)が解説を入れてくれる。
「必殺か、確かステータスに載ってたな……。あっ、その煎餅、俺にもくれ」
「いいですよ。はい」
「サンキュー」
「いいなぁ、あたしにもちょうだい」
「バトルが終わったらな」
「うぅ、けちぃ」
「それよりシグナル。フィナーレチャンネルだ」
「わかったよぅ」
しょぼくれたシグナルは渋々リモコンのボタンを押す。っていうか、我ながら戦闘中って雰囲気じゃないよなぁ。シグナルのノリもあれだし仕方ないっちゃ仕方ないが、
「タッ、チョン、パ♪ フィナーレチャンネル!」
いつの間にか最初のコスチュームに戻ったシグナルは、リモコンをバトンの様に回しながらハートを描いた後、テキナリー向けてそれ構える。
そして、真ん中にある大きなボタンを押して決め技を叫んだ。
「シグナルっ! ハートフル~、センディング!!」
ボタンを押してから決め技を叫び終えボタンを放すまで、まるでエネルギーをチャージするかの様にリモコンの先に集まった光がボタンを放すと同時に発射され、その反動で両手で構えていたリモコンが上に持ち上がる。
放たれた光は青い2つの輪に包まれたピンクのハート形となってテキナリーへと向かって行く。そして突然の事で驚いたのか呆然と立ち尽くすテキナリーに当たり、黒い粒子へと分解する。
その粒子の中心から光の玉が飛び出し、突如として宙に浮かび上がった俺の端末へと消えていった。
「なんだこれ?」
慌てて端末を確認すると、アイテム欄に《可能性の欠片》という物が10個も増えていた。
「あぁ、《可能性の欠片》やな。それは魔法少女を強化する為に使うんや。純粋にステータスアップにも使えるし、スキル覚えるのにも使える。物によっては大量に必要になってくるから考えて使った方がええで」
なるほど、他のゲームでいうスキルポイントとかそういうのか。
「ハナビ、終わったよっ♪」
「おう、ごくろうさん」
いつの間に変身を解いたアテナが上機嫌で報告してきた為、俺もそれを労う。
って、俺を抱きしめて胸元に押しつけようとするな。
「ま、待て、俺は男だ。それ以上はアカBAN事案だ」
「あかばん?」
「いや、分からないなら良いんだが……」
って、特に何も起こらないがあれか? 胸がないから問題ないのか?
そんなアテナに失礼な事を考えていると、例の黒板が現れた。
『今回は魔法少女『日向アテナ』からの接触である為ノーカウントになります。今後も『日向アテナ』からの接触である場合、警告対象外となりますがやましい感情を察知すると信頼度減少などのデメリットを受けることになるのでご注意ください』
と、取りあえず一安心な様だけど俺耐えられるのか? やましい感情を抱かなければ良い話だが、もし毎回これだと耐えられる気がしない……。
「ともかく、俺に抱きつくな!」
「えぇ、なんでぇ。こんなにふわかわいいのに」
「ふわかわ? ……ふわふわ+かわいいか?」
「うん♪」
「なるほど。……って、そうじゃなくてさっさと放せって」
「ヤダっ!」
俺は必死に抵抗するが、よりいっそう強く抱きしめるアテナはそれを緩そうとしない。
「ハナビさん。たぶん諦めた方が賢明ですよ?」
「いや、だからといって……」
「いいやん。かわいい女の子からの抱擁。うらやましいわ。なぁ、、聖奈、わいも……」
「GMコールしますよ?」
「ごめんなさい」
テンチョー、標準語になってるぞ?
「で、どうするんや?」
「はい?」
すぐに立ち直ったテンチョーに突然質問を投げられて俺は首をひねる。
「自分、このゲームはチュートリアルだけやって後は放置するっていっとたやん」
えっと俺そんな事、テンチョーに言ったっけ?
「なんや、まだ分かってへんかったんか。わいはリアルでゲーム屋やってるねん」
「それが?」
「自分、行きつけのゲーム屋に進められてこのゲームプレイしたんやないんか? チュートリアルだけやって気にいらへんかったら売値そのままの値段で買い取りする約束で」
「な、なんでそのことを?」
「だから、わいがその店長や。自分がやると思うてたから支援ミッションうけてたんやで?」
あぁ、なるほどね。
「と言うことで、どうするんや。続けるんか? それとも辞めるんか?」
「う~ん、どうするかな」
答えは既に決まっているんだが、何となく素直に言いづらい。少し考える振りをする。すると俺たちの話を聞こえていたらしく、俺を抱きしめるアテナの手に力が入る。
というか、ずっと抱きしめられていた訳だから聞こえていて当然か。
「続けるよ。せっかくアテナと会えたんだし。のんびりまったりプレイする事にする」
「そっか」
そう素っ気なく返したテンチョーの顔はどこか嬉しそうだった。
「それは残念やな。自分が辞めるって言うたらわいがアテナちゃんを貰うつもりやたのに。って痛たた……冗談や、冗談やん」
と、いらないことを口走ったテンチョーは速攻で聖奈さんに抓られていた。
「分かってます。だから最後まで言うまで待ってました」
「なら勘弁してくれや」
「ダメです」
「あはは」
仲のいい先輩プレイヤーとそのパートナーのじゃれ合いを俺は好ましく思う。
出来れば俺達もこんな歓迎になりたい。そう心に誓い、俺を抱きしめたままのアテナに声をかける。
「と言うわけだから、アテナ。これからよろしくな」
「うん♪ こっちこそよろしくね。ハナビ♪」
こうして俺の、いや、俺とアテナのゲームが始まった。これからどうなるかは分からないが、アテナと2人なら何があっても面白おかしく過ごせるのは間違いないとだろう……。きっと。
『ようこそ《Girls Navigate Omline》へ』
>シグナル・フール
初期案はパルシィ・フールだったけど、某東方のキャラと被る為シグナルに。
女の子っぽくないけどしょうがないよね?
>ネコミコせーにゃ
どうしてこうなった……