ゴーマって頭いいけど馬鹿だよね!
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世界樹の森に踏み込んだ南方の騎士たちは眼前に広がる光景に呑まれていた。
大河のように波打ちながら戦場を分断するソルジャーアントの群れを前に、人間もエルフも言葉無く立ち尽くす。
この世の地獄にも見えるその光景を見て肝を冷やした南方王ラマクは早々に撤退の命を下した。
エルフを殺し、その身に血を浴びる意志を持って戦場に来た彼にとって、蟻にその身を食い散らかされる未来など耐えられるものではなかったからだ。
去りゆく兵たちとは逆に、戦場に入ってきた一人の女と≪蒐集者≫ゴーマが対峙する。
「・・・・・・どうやって?」
「歩いてだよ?」
「そんな事を聞いているのではないのですよ。『鏖』リオ。あなたは南方王都で雑魚どもの命を救うべく行動を起こしていたはずでしょう?どうやって神将アマリア様の未来視を欺いたのですかな」
「んー?もしかしてリオちゃんが何か誤魔化して、誰か違う人を向かわせたんだとでも思ってる?あはは、ゴーマって頭いいけど馬鹿だよね!」
「・・・・・・では、その馬鹿にもわかるようにご教授下さいませんか。王都にいたはずのあなた方がどんな手段を持ってここまでやってきたんです?『翅蟻旅団』のリオ様」
丁寧な言葉とは裏腹に火花が散るような殺気を持ってリオを見据えるゴーマ。
隠す気のない殺気の中に浮かんでいるのは同量以上の恐怖だ。
「簡単だよ。ポータル増やしちゃっただけ」
「・・・・・・なんですって?」
「だからポータル増やしちゃったの。術式だってそんなに難しいものじゃないしね、最初に帰還用のポータルをこの森の中に書いておいて、あとは王都でそれに繋がるポータルを作ってちちんぷい!」
「そんな簡単にできるわけがないでしょう!!竜族の秘術をなんだと思っているんですか!!!」
「だってリオちゃん天才だも~ん。秘術だろうとなんだろうと簡単なものは簡単だよ?ゴーマが使ってる符術で言えば・・・んー、128枚くらいを基盤に使えば大丈夫じゃないかな。複素数を用いて振幅と位相の変化量を求める必要はあるけど、まあ簡易術式で事前に計算式だけ用意しておけばそんなに面倒な事じゃないしね。今回なら自分が同行してるんだし綻びがあればその場で直しちゃえば問題なしなし!!」
満面の笑顔で胸を張るリオを見てゴーマは深いため息を吐く。
「・・・やはり、あなたは規格外ですね。最も多くの同輩を殺してきたあなたがまさかエルフの味方をするとは。いつから用心棒のような真似をするようになったんです?『汚らわしき』リオ」
「塔の忌み名とか久しぶりに聞くとくすぐったいね。『盗人』ゴーマ。最も多くの師匠を殺してきたお前が言うの?お互い冒険者になったんだし用心棒みたいな真似だってお金になるならやっても良いんじゃない?」
「一緒にしないで頂きましょう」
ギラリ、と包帯の中から覗く赤い眼に狂気の光が宿る。
「私が冒険者などと言う下賤な仕事をしているのは新たな力を得るためですよ。気に入らない弱者を殺してきたあなたとは違う。私は挑み続けた。そしてあの深淵を見た!!次元界の果て!黄金の地に座すラグナレクさまを!!・・・・・・わかるまい。あの方の素晴らしさが。まつろわぬ神々に敗れてこの偉大なる大地を追われた大神の名を知らないでしょう?ねえ『殺戮の魔女』リオ。原初の神の・・・・・・」
高らかに語るゴーマの言葉をケラケラと笑うリオが切り捨てる。
「新たな力を得るなんてココロザシがあれば下賤な仕事を肯定できるの?それってお金欲しくて働くのと何か違うの??だいたいココロザシなんてあっても無くてもどっちでもいいよね。仕事は仕事だもん。職に貴賤は無いってセルシスが言ってたよ。それぞれが役割分担して仕事をしているから世間は上手くまわってるんだって!!面白い考え方だよね!!!ねえゴーマ。人間って思ったより凄いんだよ!寂しかったり楽しかったり色んな事があるの!!知ってた?師匠だって教えてくれなかった事が一杯一杯あるんだね!世界って面白いこと一杯なんだよ」
そう言うと、リオはぴたりと笑いを止めた。
小首を傾げたまま無表情のリオが言う。
「だからねゴーマ。世界を壊そうなんて事、されたらリオちゃん嫌なんだ」
殺気の欠片もない、無機質で感情の抜け落ちた冷たい声がゴーマの肝を冷やす。
「戦うつもりですかな?遊び歩いていたリオ様と違い、こちらは術を極めて、より高みに昇っておりますよ?」
「ゴーマだけじゃなくてね、リオちゃんセルシスの敵になるなら神様だろうとなんだろうと徹底的にやっちゃうからそのつもりでいてね。本当だったらこんな事は言わないで殺しちゃった方が良いんだけど、セルシスだったら多分・・・・・・」
そこまで言いかけた所で思い出したようにキョロキョロとリオが周囲を見渡す。
セルシスを送り出した世界樹に繋がるポータルを確認し、魔力の流れと転移者がいない事を入念に確認してから安心したように笑う。
「あはは、セルシスがいないか確認しちゃった。見られたら怒られちゃうからね。知ってたゴーマ?自分より弱い相手に守ってもらうってなんだかドキドキするんだ。こうね、おなかの下の方から上に向かってじわって温かくなっていくの。面白いね!セルシスってば弱いくせに誰も殺すなとか言うんだよ?おかしいよね。生かすか殺すか選ぶには強くなくちゃいけないのにさ。でも良いんだ、リオちゃんはセルシスの仲間だからね。セルシスがやりたい事ならなんでも手伝ってあげる。リオちゃんも弱く振る舞ってあげるし、セルシスに守らせてあげるし、ちゃんと助けてあげるんだよ。仲間って大変だよね。こんなにたくさん仕事があるなんて師匠は教えてくれなかったから」
ひゅん、とゴーマが投げた式符から大蜘蛛と火喰い鳥が群れになって飛び出した。
解放された魔獣たちはリオに触れることなく、全身を蟻に埋め尽くされて動きを止める。
「化け物め!!!!!!」
「うん。ゴーマは邪魔だから、セルシスいないうちに殺しとくね」
恐怖にひきつれるような叫び声を上げたゴーマが無数の式符から出し惜しみなく魔獣を召喚していく。
災厄になりうるベヒモス、エルダーマンティコア、下位の龍種さえ解放する。
「前はA級冒険者相当の式鬼を100体くらいが限界だったっけ?ずいぶん増えたね。蜘蛛や鳥や有象無象で1200体くらいいるのかな?S級っぽいのもちょっといるけど数は少ないね」
「死ね!!!リオ!!!!」
怒涛の勢いで走り出す百鬼夜行。
襲い掛かる魔獣の群れを見てもリオは顔色一つ変えない。
「ねえゴーマ。そんな紙屑並べてどうするつもりだったの?A級冒険者なんて何千人いたって十秒とかからず殺しきれるじゃない?」
その黒く塗りつぶされた蟻のような瞳の中に、小さな金色の輝きが灯る。
魂を恐怖にひきつらせたゴーマは絶叫した。
「疾く疾く疾く疾く、刻み、擲ち、朽ちた墓標に三振りの斧、火祭り、御霊、白地に朱の陰、千の刻印と十一の契約、落日の空から真銀の海に沈め!!」
新たに数百枚の式符から数多の異形が召喚される。
リオの瞳が輝きを増す。闇を塗り変えるような黄金の瞳がゴーマを射抜く。
「連なり隠れ宵闇に座す黒の王。万華を侵し、纏え、荒ぶれ、喰い尽くせ。火の根を食む者、煮えるは血、纏うは死」
暴力的な魔力が容易く防御のマナを突き破る。
「孕め。黒金蟻鬼兵」
直接身体の中に蟻を召喚された魔獣たちが、くの字に折れて転げまわる。
腹を突き破った蟻たちが心臓を咀嚼し、喉を千切るほど呼び出された蟻の群れが肺の中まで埋め尽くす。
「殺すだけなら簡単なんだよ。呼吸をして血が循環してる生き物なら気道と心臓のどちらかを潰せば死ぬ。殺さないって難しいよね」
ゴーマの吐しゃ物にも無数の翅蟻。
涙を流して転げまわる同胞の姿にリオは何一つ感じることはない。
「さよならゴーマ」
情の欠片も見せぬまま≪冒涜者≫リオが言った。
いつもありがとうございます。
次回は来週になります。宜しくお願い致します。




