・・・・・・・・・ほんど?
ようやくセルシス登場です
そりゃあもう見事な土下座だった。
ジャンピングとかスライディングだとか余計な雑味を一切感じさせない、ジャパニーズ土下座スタイル。
いわばブラックコーヒーのような、キリッとした、洗練された土下座。
違いのわかる男たちがダバダダバダと群がってきて「ステキーダイテー」なんて言うに違いない。
バーベキューで使いそうな鉄板で焼かれたりはしていないが、完璧な謝罪だと言っても誤解はないだろう。
「びええええええええええええええええええええええええええええええええん」
問題は、こいつは違いのわかる男じゃなくて話のわからん女だという事だ。
色々と言いたい事はある。だが、俺ももう大人だ、その辺の事は飲み込もう。
だからさ、なあ、ちょっと、ほら、もういいだろ?な?な?
「うわああああああああああああああああああああああああん!!!!!!!」
なんというか、どうしてこいつは、俺の想像の遥かに斜め上を行ってくれるんだろうか。
思い返せば魔宮の森でもそうだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「わかんないな~。きみ、敵なの?」
「ここで生き残ってる人を襲うって言うなら、俺は君の敵だ」
毅然とした態度で俺は言った。
たとえ戦う事になっても、これ以上誰かを死なせるのは嫌だった。
「敵か~。凄いね!久しぶりに正面から敵って言われちゃった!!知ってる?敵って怖いんだよ。敵には何をしても良いんだって。敵の家族も敵だし、敵の仲間も敵だし、敵に繋がってる奴は全部敵」
ちょっとこいつの思考回路がわかってきた。
ああ、くそぅ。フェイじゃないけど、もうちょっとマトモでも良いんじゃないか?
こいつは俺たちと見てる世界が違いすぎる。
しかし、そんな事を考える俺の斜め上まで≪冒涜者≫リオは突き抜ける。
「だから、ごめんなさい!!」
ぺこりとフードの頭が下がった。
頭の中が真っ白になる。きっかり3秒後に再起動した俺の脳が最初にした事は周囲への警戒だった。
不意打ちでぐさり。ありえる・・・・・・はずだけど、特に異常はない。
頭を下げたまま動かないリオをもう一度確認してからフェイを見る。
フェイはお化けを見るような眼で≪冒涜者≫の挙動を注意しながらゆっくり戻ってきた。
「・・・どういうこと?」
「知るか!お前こそどんな魔法使ったんだよ!?」
小声で会話しながら俺もフェイもリオを見続ける。
頭を下げたまま微動だにしないその姿が、理解の範疇を超えていて恐ろしい。
「なんか謝ってたけど、そういう人なの?リオって」
「謝ってるのなんざ初めて見るぜ・・・・・・≪冒涜者≫リオに、面と向かって敵だなんて宣言するバカも初めてみたけどな!!」
「しょうがないだろ。黙って見てらんないんだから!・・・・・・とにかく、どうしたら良いか一緒に考えてよ」
「どうもこうもねえだろ。謝ってんだから」
「謝ってるんだからどうすんのさ」
「謝ってるんだから・・・・・・・・・・・・どうしようもねえ」
お互いに混乱しているせいで会話がおかしい。
もうね、こっちは戦うのが大前提だったわけですよ。どんなに戦いたくなくても≪冒涜者≫リオが蟻の群れか何かをけしかけてくると思ってたわけ。
それを切り札でなんとかして、距離を詰めて一撃・・・とか、まあ、考えてたんだけども。
よく考えたら一撃は無理か。なんでかわからないけどフェイの攻撃止められてたし。
「そういえば、さっきの、なに?てっきりフェイの剣でリオが死んだかと思ったくらいなんだけど結局無傷だったよね??」
苦い顔でフェイが言うには、リオは物理的な攻撃を完全に止める魔力障壁を展開できるんだそうな。
召喚魔術と同様に≪冒涜者≫リオが編み出した秘術らしい。
「なんでそれ知ってて、わりと無策に正面から攻撃してんの」
「うるせぇ!俺だって冷静じゃいられない時くらいあるんだよ!!・・・・・・今日は色々ありすぎて限界なんだ」
焦燥感みたいなものをフェイから感じる。
確かに平静ではいられないよな。俺だってダーナたちが心配なんだから、俺より付き合いがずっと長いフェイなら、その何倍も心配になるだろう。
「・・・・・・飢うぇぇぇぇええぇえええぇえ怨えん」
地の底を割って溢れてくる呪詛のような声がした。
鳥肌が立つような感覚に襲われながら周囲を見回す俺とフェイ。
虫の声一つ聞こえない死の森の中で、うおおおおおお怨おん、虚うろおおおおおおおん、と、恐ろしい声だけが響き渡る。
「・・・・・・ダチ公」
ごくり、と生唾を飲んだフェイが指を差す先では、四つん這いになったリオの姿。
妙に前傾姿勢、かつ、フードのせいで表情がわからないのが恐ろしい。
「もしかして・・・あれ?」
「声かけてみりゃわかるんじゃねえか」
「どうみても大地を腐らせる呪いの儀式をしてるような雰囲気なんだけど」
「声かけてみりゃわかるんじゃねえか」
「邪魔したらこっちまで呪われそうだよ?」
「声かけてみりゃわかるんじゃねえか」
会話しろコノヤロー。
無理。不可能。視界に入れてるだけでSAN値が無くなりそうですよ?
「ごべんばざいいいいいいいい、ゆるじでよおおおおおおおおおおおおおおおお」
動揺している俺たちにとどめを刺すようなリオの声が響く。
えーっと、なんで?いや、ちょっとマジで意味がわからないんですけど。なんでガチ泣き??
「なんとかしろ!!怖ぇ!!」
「えーっと、許す!!!許すよ!!!!」
ぴたり、とリオの慟哭がやむ。
「・・・ぼんどび!?」
ぐすりぐすりと泣き続けるリオを宥めて話を聞いてあげると、どうもリオの師匠さんが教育していく中で「敵が多いと世間を生き抜くのが面倒になるから、敵は作っちゃいけないよ」と教えていた・・・らしい。
そこだけ聞いているとまともな教育に思えるんだが、どうしてこんな怖い育ち方をしてしまったのか。
「ぞれでね!ぢぢょーがびっでだんだよ。でぎはごわいげど、だがばはたのぼじいっで」
もうなんか怖いとか別の次元に吹っ飛んでいったのでハンカチを出して顔を拭いてあげる。
あ、奪って鼻かみやがった。いいよ、返さなくて。あげるあげるー。
しかし話せば話すほど師匠はマトモじゃないか。敵は怖いけど仲間は頼もしいってのも良い表現じゃない?
「師匠が言ってたんだよっ!仲間を探せって!!知ってる?仲間って言うのは、傷ついた時に無償で助けてくれたり、泣いてる時に涙を拭いてくれたりするんだよっっっ!!」
がしっ、と、リオが俺の手を両手で包み込んだ。
「キミ、リオちゃんの仲間だったんだね!」
おいダメ師匠、だめだろ、こういうポンコツを世間に放ったら。
再研修制度とかねえのかな?OJTからやりなおさないと現場だしたらアカンレベルですよ?これ。
俺がリーダーとかSVだったら絶対にOKださないレベル。いや、そもそもお断りするレベル。
殺傷能力と思考能力のバランスが恐ろしく噛み合ってねえんだけど。
「ねえ、フェ・・・」
「なんだよ!?ダチ公はリオの仲間だったのか!いやー、知らなかったぜ。そりゃ悪かったな・・・・・・・・・よし、問題解決したことだし魔宮に急ごうや」
う ら ぎ り も の め !
「ふふん、良いでしょ~。リオちゃんの初めての仲間なんだよん。あはは!あ、名前教えて」
セルシスですよ。
なんだろう、この、地雷を踏み抜いてしまった感じ。
仲間になってから名前聞かれるとかおかしくない?逆じゃない??そこに違和感ってないの??
あ、でも会った事ない状態でもネット彼氏になれたりするんだよね、いまって。
俺は無理ですよー。この違和感を大事に生きていきたい。危険回避に必要な気がするもの。
メンヘラとかヤンデレとかあるけど、S級冒険者≪冒涜者≫リオの一撃がそっち方向に向いたら俺の死が確定しちゃう気がする。加護とかなくてもわかるよー。デッドエンドのフラグ踏んだよー。
「おお、良かったじゃねえかくそお・・・リオ。なあ、ちなみに、あっちの連中もセルシスの仲間なんだわ。仲間の仲間を食べようとか、良くないよな?」
「仲間の仲間!?・・・聞いたことがある。師匠が言ってたよ、それはリオちゃんの子仲間だって」
その下は孫仲間になるんですかね?師匠、一度体育館裏でお話ししましょうか。お互いの人生について。
「あーっとだな、俺たちは魔宮に行かなきゃいけねえんだわ。でも、ここの子・・・子仲間?がいると、邪魔で行けねえ。だから・・・」
「じゃあすぐに食べちゃうね。ちょっと待ってて」
「「違う違う違う違う」」
俺とフェイの言葉がハモり、冒険者たちから悲鳴が上がる。
そりゃ怖いよな。というか、この冒険者の皆さんは生き残れたけど冒険者続けていけるんだろうか。
魔神に襲われて死にかけるわ、生き残ったと思ったら蟻に喰われそうになるわ、体力も魔力も使い切ってて装備もボロボロで森の中から自力で移動して逃げる事もできないとか、わりとやめたくなる状況じゃね?
なんてことを考えながら、フェイのやりたい事を察した俺も協力し、懸命にリオを言いくるめる。
「わかったよん!この子仲間たちを生きた状態で、四肢もこれ以上失わずに、呼吸したまま、無事にダンブランまで送り届けてあげれば良いんだね。リオちゃんにまーかせてっ!!そのあとは??セルシスを助けに来ればいい??」
「・・・・・・そのころには全部終わってるだろうから好きにしていいぞ。ただ、人間は襲うなよ」
「はーい」
「あとは・・・まあわかんねーけど、もし俺がやられてたら後は頼む」
「まかせて!リオちゃん仲間のために頑張る!!」
むん、と力こぶを作るリオ。
疲れた。なんか、魔神と戦ったあとみたいだ・・・・・・あ、ついでに魔力障壁の作り方聞いとくか。
使えたら役に立ちそうだし・・・いや、でもなぁ。覚えたって練習する時間ないから無駄かな?
失敗したら即デッドみたいな魔術を覚えてすぐに使うとかないな。うん。ないわー。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
魔力の暴走か感情の暴走か知らないが、鳴きながら声を出すたびに、リオのローブの袖からザー、ザー、と蟻がでてくる。
はっきり言おう。めっちゃ怖い。魔神将と戦ったとき以上に怖い。
「そろそろ手が痺れてきたので許してもらえないもんですかね」
腫れた頬に片手を添えて泣き続けるリオ。
いや、ほんとごめんなさい。女の子なぐってごめんなさい。
事故なんですよ。あのさ、you完全物理防御使えるじゃん。止められると思ったんです。
あと、なんかよくわかんねえビキニ姉妹が悪いんですよ。
あいつらが言った事を鵜呑みにしたんです。わかるかな?俺も被害者的な・・・。
あ、睨まないでください。はい。俺が悪いです。100対0で俺が悪いんです、はい。
「一杯奢るから、勘弁してくんねえかなぁ」
「でぃおぢゃんおざけのばないぼん!!!!!!!!!!!!!」
どうしたらいいのだろうか。
グランディスタにユニバーサルなスタジオってある?略してUSGみたいな。
ジョイなポリスとかナンジャなタウンとかあったら奢らせて頂きますよ。下心なしで。
「ご飯奢ろうか、食べたいものとかあれば・・・」
「でぃおぢゃんおばがずいでないぼん!!!!!!!!!!!!!」
ああ、俺があげたハンカチがぐしゅぐしゅどろどろの恐ろしい事に・・・。
「飴ちゃんあげるから泣くのやめろって、な?」
「・・・・・・・・・ほんど?」
おいいいいい、こっち!?あああああ、もうさ、ちょっとマニュアルないの?わっかんねえよ!無理だ!
フェイ助けてー!!!!!
とす、っと。不意に俺とリオの間に矢が撃ち込まれた。
咄嗟に意識を集中して気配を探るとしっかり囲まれている様子。矢が飛んできた方を見れば、褐色の肌に銀髪のエルフが幾人もならんで弓を構えている。
ああもう!!森の中で騒ぎすぎたのは申し訳ないが、もう少し友好的に接触したかった!!
「すみません!すぐに静かにしますから!!」
「抵抗するならば命は無いと心得よ」
「うわあああああああああああああああああああああん!!」
リオが叫んで腕をかざすと、袖口から小さな蟻が風に波打つカーテンのように噴き出して数人のエルフを飲み込んでいく。
ちょ、ばか、おま!?
威嚇でも牽制でもない殺意の籠もった矢が雨のように降り注いだ。
魔力で身体強化したリオが矢をかわそうとするも、太腿をかすめた一撃に動きが止まる。
リオの二の腕に矢が突き刺さった。
「うあっ!」
胸を貫くはずの一矢をかろうじて魔力障壁ではじいたものの、次の矢は確実にリオの命を奪うだろう。
俺がいなければ。
螺旋なす時の神レプロンの加護★★★
・望む一歩を踏み出すことができる。歩みが世界を作ると知れ。
割り込みながら小太刀を抜き、飛来する矢を次々と叩き落とす。
その矢の雨に隠れるようにして数フレーム遅れて飛んできた別の矢が俺の肩に深々と突き立った。
狙い澄ましたその一撃は叩き落とすには間に合わず、かわせば後ろのリオに当たる軌道だ。
「・・・セルシス・・・・・・!!なんで守ってくれたの?」
「仲間を守るのは当然だろ」
修羅場が続くってのはどういうことなのかアンカネブラを問い詰めたくなってきた。
異世界グランディスタって場所は、どうあっても俺に優しくないらしい。
痛みにこらえて歯を食いしばる。
敵はエルフが一ダース。上等じゃねえか。
「武器を捨てろ。捨てないと後悔するぞ」
出し惜しみはしない。
戦うっていうなら、今回は全力で相手になってやる。
タイトル変更するかもしれません(思いついたので)
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