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アンカネブラでございます

「・・・・・・ここが?」


グランディスタで初めて俺が目にしたのは小さな祠と石像だった。

商いと旅人の守護女神アンカネブラを祀ったそれは日本の道祖神をおもわせる。

なんでもアンカネブラの祠には弱いモンスターを寄せ付けない効果があると言われていて、一定間隔とは言わないものの、ある程度の距離を置いて街道沿いに設置されているのが普通なんだそうな。

神様から貰った異世界知識だとそれ以上の事はわからなかったのできっとみんな詳しい事は知らないんだろう。

・・・・・・多分。


じっと自分の手をみる・・・うん、自分の手なのに自分の手じゃないみたいな不思議な感覚。どんな顔になっているのか非常に気になるところである。

神様がちゃんと条件通りにしてくれてるなら20代の西洋系になってるはずなんだけれども。


特に急ぎの目的があるわけでなし所持品の確認でもしようと思った矢先、ぴかっと祠が光った。

閃光のような強い感じじゃなくて雲を間に挟んだ夕焼けみたいな柔らかい光。

あきらかに怪しい状況なのになんだか落ち着くのでそのまま見ていると光がだんだん消えていき、代わりにそこに美女が立っていた。


水色の髪を結いあげた美女だ。うん。美女としか形容できない。

なんだろうな、デミ・ロヴァートみたいなスタイリッシュな美人さんである。


「お初にお目にかかります。大神様の命により案内を仰せつかりました、アンカネブラでございます」

「あ、どうも、自分は・・・・・・えーっと、なんて名乗ったら違和感ないですかね?」


さすがに日本人の名前だとこちらの世界で違和感がありすぎる。


「そうですね・・・」


ちょっと考えると眉間に皺がよる。でもそれが可愛くみえるとかどんな美女補正なんだ。美女すげー。

商いと旅人の神様ご本人みたいだけど老神だったドドラガリとは随分違うな。もちろんこっちのが良い。


「では神代の古語から取りましょう。セルシス、というのはいかがですか?」

「セルシス、ですか」

「新しき風、芽吹く命を差す言葉です。旅人にふさわしい名前かと存じます」


そう言ってにこりと笑うアンカネブラ。

美しすぎて目がつぶれるわ。つーかそんな顔されて、いや、他に名前の候補ないですかとか言えない。


「じゃあ、今からセルシスと名乗りますよ。よろしく、アンカネブラ」

「はい、こちらこそ、よろしくお願いいたします」


それから二人で近くの街まで歩くことになった。

商いと旅人の神様であるアンカネブラ本人に案内されるとか、なんて豪華なツアーなんだろうか。

東京都知事と回る、はとバスツアーみたいなもんか。違うか。


街道を歩き、時には寄り道しつつ談笑する数時間の散歩は楽しかった。お互いに様々な事を話しながら歩く。

歴史や国の違い、食べ物や風土、気候。アンカネブラの話しは異世界知識を貰っている俺からすると知っていることも多かったが、知識があるという事と知恵として身に着けているのとでは意味が違う。

食べられる木の実、薬の材料や毒のあるものなど、その場でアンカネブラが手に取って教えてくれた。

見渡すかぎりの草原も、知らない森の木々も、とても鮮やかで新鮮にうつる。


簡単な魔法の使い方や魔力操作も教えて貰ったが、先生が良かったので特に困難なく使用できた。あとは馴れの問題だろう。


アンカネブラは食べ物の話しが一番好きみたいで、特に俺が話したおでんに興味津々の様子だった。

一度日本まで食べにくれば良いのにと言ったが神様にもいろんな制約があるため難しいらしい。

材料と機会があればこっちの世界で一度作ってあげるといったら声を出して喜んでいた。

美女が喜ぶのは良い事だ。心が和む。


しばらくそんな風にして街道を進んでいると遠くに壁が見えてきた。

城塞都市?いや、城郭都市だっけ?

ともかく、日本ではボードゲームでしか知らないカルカソンヌみたいな商業都市ダンブランにつく。


ぶっちゃけスタート地点としてダンブランを選んだのは消去法だ。


東にある大帝国は征服王と呼ばれた帝王が崩御したらしく、領主同士での覇権争いが激化していると聞いた。いっそ新帝国を建国する英雄になってみるか?とか、覇気ある領主に使えて王佐の才を振るってみるか?なんて神様がテキトーな事を言っていたのだけれど、残念ながら俺はそんな英雄志願ではないのでお断りである。そもそも国が乱れてるところになんて行きたくない。日本人舐めんな。


西は東と違ってすべてが統一されているわけではなく小さな国家群のような様相だった。その中でどこにしようかと検討したのだけれど残念ながら選択肢はあんまり・・・というか全然なかった。

本当にゲームだと思って、なにごともなさそうな小さな村から開始できたら幸せなんだけど現実的にはそうもいかない。中世世界だと聞いておきながら世間と隔絶した地方の村からスタートするのはリスクがでかすぎる。

インフラなんて曖昧な言葉を使う気にはならないのだけれども、せめて物流面くらいは考えないと凶作で簡単に死にかねない。


となると、交易の中心地になっている大都市を選ぶのは当然だ。

金銭に価値があり、働くことでそれを獲得する余地があり、住民が多少は豊かで法を順守する精神がある、のが最低条件。

その中でも可能な限り戦争が無く、それなりに目に見える安全がある街を探した。


結果は1つ、そう1つだ。選択肢は無かった。いやマジで?マジで?

神様に2度聞き直したけど返答はイエスとのこと。

いや、まあ1つでもあったんだから良し・・・・・・かなぁ。


未知の世界に未知の土地、それも旅の醍醐味だと言えば面白くもあるか。

神様に付き合ってもらって散歩している現状ですら得難い体験なのは間違いないしな。



街道はそのままダンブランの門へ続いており、槍を持ったいかにも兵士ですという人達が立っている。


「わたくしも中までご一緒致しますのでご安心ください」

「え、いや、逆に目立つんじゃない?アンカネブラみたいな美女と二人だと」


今の俺の身なりは冒険者と商人の中間くらいの物だ。

金属で補強した仕立ての良い服とブーツ。背負い袋には旅に必要な保存食やお金が入っている・・・はず。

武器は小太刀が二本。

傭兵や冒険者を気取るわけじゃないから両手剣とか持ちたくなかったし、かといって短刀くらいだと短すぎて怖かったので間を取って小太刀にした。

もちろん日本刀の拵えではなく、グランディスタでも怪しまれない装飾で、である。


基本的には一人で旅ができる事を前提にしている。

何者かと誰何されたら旅人だ、とか、馬ごと荷を奪われた商人だ、とか言えるような風体だ。

そんな俺が美女と二人旅とかどう考えても違和感がある・・・よな?


「ご安心くださいセルシスさま」


そういうとアンカネブラがたったか兵士の立つ門に進んだ。やむなく俺もついていく。


「身分証を」


顔面に向こう傷がある兵士Aさん・・・いや、ぶっちゃけ荒くれAさんとか山賊Aさんみたいにしかみえない方が、そう言う。

もちろん俺の手元には身分証などナッシング。


「どうした?身分証はないのか?無ければ銀貨2枚だ」

「はい」


アンカネブラは馴れた様子で二人分の銀貨4枚・・・いや、5枚?を兵士に渡した。


「・・・・・・ふん。この街へ来た目的はなんだ?」

「ひとまずは巡礼でございます。セルシス様は商いと旅の女神アンカネブラに愛されておりますれば、なにかこの街で商うこともあるかもしれませんが」

「奥で記帳して行け」


ぶっきらぼうな兵士だったが悪い人ではないのかもしれない。

いや、追加の銀貨1枚が効いただけか?


「神殿は7つある。泊まるなら多少高くても商業ギルドの近くにしておけ、安全だ。街の中で困ったら冒険者ギルドのレスターを頼るといいだろう。門番のゼラから紹介されたと受付に言えば断わらん」


そういってゼラが俺に歯を見せて笑う。


「歓迎するぞ、アンカネブラの巡礼者。ダンブランの風がお前の肌に合う事を祈る」


めっちゃ良い人だった!!

山賊顔とか思って、ほんとすんません。


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