第一章 第一話 [中学二年の憂鬱]
――――『愛憎』。
中学二年の秋、その言葉を本当の意味で知った。
辞書で調べると愛と憎しみ、という言葉が出てくるが私の『愛憎』とは全く似ているようで、全く違うものにも見えるのだ。その言葉を知った以上、用いらないことはできない。――――当てはまるようで、どこかピースがずれてはまらない。
何故私が中学二年という、青春真っ盛りで恋も友情も部活も全てが楽しくて仕方ない齢で『愛憎』という言葉を理解したのか。理解できてしまったのか。大人になってから考えても、自分でも皆目見当つかない。
好きな人を恨んでなんか、憎んでなんかいない。
しかし私がそれを実感してしまったのは事実であり、また同時にそれに嫌悪感を抱いたのもどうしようもない事実である。
強いて言えば、愛した相手より、愛してしまった自分を恨み憎んでいたのかもしれない。
私はそう思う。
野木丘中学校二年三組出席番号二十二番の寺河夏蓮は、―――私は、そうだと考える。
『どこが好きなの?』
その質問には答えられない。
だって好きというのに、理由などないのだから――――などとのたまうつもりは一切ない。
むしろ指では数えきれない、足の指を足したってたりない理由が私にはある。
・笑顔が好き
・低い声が好き
・しゃべり方が好き
・目元が好き
・キノコ類が食べられないところが好き
・優しいところが好き
・人をいつでも気遣えるところが好き
・誰にでも同じ態度で人を選ばないところが好き
・字が綺麗じゃないところが好き
・不器用なところが好き
・バスケットが好きなのが好き
・何にでも真摯に向き合えるところが好き
・大人っぽいところが好き
・照れて顔を赤くするところが好き
・コツンと優しく頭を突く手が好き
・鉛筆の持ち方に癖があるところが好き
・平均より小さな身長を気にするところが好き
・名前を呼んでくれるのが好き
・目が合うと少し笑ってくれるのが好き
・授業中に手を振ると振り返してくれてその後、集中しろと言われるのが好き
・カレーライスはカレーよりライスの方が好きなのが好き
・野球はプロ野球より高校野球の方が好きなのが好き
・腕をまくりをして似合うのが好き
・困ったときに首の裏をかくのが好き
・暑がりなのが好き
・大きな背中が好き
・細い指が好き
・手の大きさのわりに小さな爪が好き
・妹を大事にしていることが好き
・時間に厳しいところが好き
・実は根っからの真面目なところが好き
・からかわれて焦っている顔が好き
・悪いことを思い付いて口角をあげるのが好き
・思わずキスしたくなる尖った耳が好き
・足が速いのが好き
・英語が得意なのが好き
・理数系が駄目なのが好き
もうきりがないので、これくらいにしておこう。
しかし、一点だけ。嫌いで、憎くて、悔しくて、頭にきて、お腹が痛くなることがある。
それは、―――――あなたが私のことを好きではないことだ。
何故私を見てくれないのか。
何故私はあなたの目に映らないのか。
何故あなたは私の気持ちに気づかないのか。
何故あなたは違う人を好きなのか。
わからない。宇宙はどこまで広がっているかわからないことがわからないくらい、到底わからない。
理解できない、理解など端からしたくない。絶対に。
本当はわかっているのかもしれないけど、それを認めてしまえば私の感情に存在意義がなくなる。消滅してしまう。
あなたが振り向いてくれないことと、あなたをイコールで結んでしまえば答えは一瞬で出るだろう。一目瞭然で理解することができるだろう。
しかし私はそれをするのに、小さな子供がおもちゃをねだって聞かないように、私は認めようとしなかった。
それほど幼いという理由もあったのだろうが、それさえも認めたくなくて、私の想いが届かないのは相手が悪いのであって自分の意地の悪さではないと信じて疑わなかった。
しかし『愛憎』という言葉を覚え理解した以上、あなたが私になびかない答えをだしておかねばならない。その答えを出したところで私があなたを思う気持ちに変わりはない。
【あなたに恋をする私+他の女性に恋をするあなた×教師であるあなた=恋愛には発展しない】
―――ね、簡単でしょう?
お読みいただき、ありがとうございました。
実はこの話、どうなるか自分もわかりません。
パッと思い付き、書きたい!という衝動的に書き始めたため、先のことは全く考えておりません(笑)
なんとなーくの設定はイメージしていますが、細かなところは後々みたいな節があるので不安しかありません。
次回もお会いできたら幸いです。ありがとうございました。
飴甘 海果