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作者: グロリオサ

この小説は、部活の部誌にも書く予定のお話です!


小学校の頃に書いた小説に手を加えただけなので低クオリティですが、さらーっと読んでいただけると嬉しいです。



__綺麗だ。




君王の紫色の瞳を見たその瞬間、当時平兵団であったリーフは純粋にそう感じた。

闇だらけの中に浮かぶ大きくて青白い月を見上げながら、この月をより綺麗に映す美しいアメジストの様な瞳の持ち主の事を思い出した。

……”あの日”からもう10年は経つ。

リーフは今や現在の新しい王の側近に当たる立派な兵団長となった。

忠誠の証として伸ばした左手の親指の爪は、既に異様なまでの長さとなってしまった。

切ってしまえばいい。断ち切り、自分も新しく出直せばいい。そもそも戦闘には邪魔なのだから。そう思えたらどんなに楽だろう。

しかし、リーフの中にはその選択肢だけは存在しない。

なぜならこの忠誠の証とやらはリーフの一方的なものであり、それを破ったからとはいえ誰もリーフを責めたりはしないからだ。

けれども、リーフは今もその証を守り続けている。

何故かは分かり切っている。だから此処にいるのだ。

リーフの最も尊敬する君王が亡くなったこの場所に……。

「……。」

君王とは全く違う薄緑色の瞳を閉じれば、あの時の光景が今もハッキリと脳裏に映し出される。

君王の瞳が自分を見据え、そしてゆっくりと瞳が閉ざされる。

最後に見たあの目の色が今も自分の頭から消え去ることは無い。

リーフは遂には癖となってしまった己の爪を囓る。

カチリカチリとそれは音を立て、消えた。

「我が王は貴方であります。貴方こそが、我が王であります。」

まるで自分に言い聞かせるようにその言葉を紡ぐ。

ガジガジとまた爪を囓る。

収まらない。抑えが効かない。

それの先は真っ赤に染まっていた。

指と爪の間に唾液に溶けた血が伝う。まるでそれは血の涙。しかし全くそれの味はしない。

リーフの糧である君王のものと比べればそれは笑ってしまうほど安っぽい。それ程の価値も無い。

「フッ……フフフフフ……!」

笑った。狂った。震えた。

その喉の震えによりネックレスとしていた兵団長の証であるアポフィライト

の埋め込まれた指輪がチリリと鳴る。

それすらも笑えてしまう。

今なら本当に些細な事でも笑えてしまいそうだった。

「あんな偽王の為にこんな物を付けていられるか!!これはあの人……君王様の前でこそ美しい!!」

瞳孔は限界にまで開き、口も限界にまでつり上がり、笑い声は梟の声を掻き消した。

まるで束縛から放たれた血に飢えるピラニアの様だ。

「あんな奴は王じゃない……!王は君王様一人なんだ……!」

囓り過ぎてふやけた爪先を見る。

……ゾクゾクと快感の様な物が走った。

快感ではあったが、とても……

「……醜い。」

醜かった。

耳に直接打ち付けるかの様な叫びと、必死に己を守り抜こうと懇願し、濁った水を二、三滴垂らす。

口元は固まり震え、並びの悪い歯をカクカクと此方に向ける。

汚れた地面を這い、後ずさる。

その真っ黒な瞳はまるでブラックスピネルの様だった。

「偽物の王様は……あの時どんな気持ちだったんでしょうね?興味は微塵もありませんが。」

あの時、あの瞬間。ゴクリと唾を呑み込み動くその醜い喉に手を付けた時……その振動はより伝わってきた。爪の先からは特に。


__……そうか。この人は、この王は、死ぬのが怖いのか。やはり、偽物だった。


そう確信した。

「次また地獄辺りで出会うまでには、もう少しマシになっていてくださいね?」

偽王の腐れた魚の様な目をリーフは覗き込んだ。

そこに映るのは偽王の瞳でもリーフの表情でも無い。

偽王の瞳の奥の、もう一人の王だけ。

「やはり……本物は君王様です……!」

優雅に乱れ、まるで狂い咲くムスカリの花の様に華麗に、世の果てへと散って行った今は亡き君王。

彼の最後に至るまでの行動は、この偽王とは明らかに違った。

これが最後なのだと悟り、逆らうこと無く死に行く運命を受け入れ、そして最後は瞼で瞳を隠し、呆気なく消えて行く。

一度開いた花が果実を隠す為に蕾へと戻って行くかのように。

これから醜くなってしまうのであろう瞳を覆い隠す。

……美しい眺めであった。

「君王様……貴方以上に美しい死に方をした者はいません。もう一度、貴方のその姿を、僕に……!!」

貴方に会いたい。

もう一度でいいから会いたい。

会いたい。会いたい。

もう一度。もう一度。

何度も何度も思ったが、君王は何処にもいなかった。

何処に行ってしまったのだろうか。

何処か遠くだろうか。

後を追うにもその場所へ行くチケットなど持ち合わせてなどいない。

ならばどうする?

それは決まっている。

何処に着いてしまうかは分からないし、そこに君王がいる確信も無いが、やることは一つだけだ。

「君王様。今から貴方の側へと向かいます。どうかあの時より……いや、あの時以上に素晴らしい瞳を魅せてください!!」

リーフは己の左腕を噛み切った。




***




その後日。

半壊された城の中で、喉に奇妙な形の穴の空いた王と一人の男の遺体が見つかった。

まるで王の屍を嘲笑うかの様に死んでいた男の側には、割れた長い爪と親指に指輪をはめた左腕があったと言う。


左手親指の指輪は信念。


END






読んでいただいてありがとうございました。

はて?と思う所が多々存在していると思いますが、そこの所は許して欲しいです……。


さてさて、少し長話。

みなさんは爪をどう思いますか?

邪魔な存在ですか?

うちはテスト前などに願掛けとして親指の爪を伸ばしていた……と、言うより今でも時々しています。

割れたら痛いって言う人もいますが、案外すぐには割れないものですよ。

もし10年なんて長い日々爪を伸ばし続けたらどんな長さになるんでしょうか……。

それに親指の爪は硬いですからね。

しっかりとヤスリをかけたら硬く鋭く鋭利な……いわば武器になるかもしれません。

やろうと思えば何だって武器になります。

この小説だって、もしかしたら武器となり得るかも……?


まぁ、それはうち次第ですがね。

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