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君と言う存在

私は、駅の時刻表を指で追った。もちろん、指で追ったところでさっぱり読めやしない。

「スマートフォンで調べたら。

簡単にわかるよ」

かけるくんは背中のリュックを指差した。

「そうか、その手があったか」

スマートフォンはやはり便利だと思う。

わざわざ時刻表を読んで苦戦する必要はなかった。

何て親切な機械なのだろう。

出発した駅から到着の駅まで、乗り換えから何まで全て教えてくれるなんて。

やはり、多くの人に使われるのはそれなりの理由があるのだ。

私は改めて納得した。

今日は、かけるくんに電車の乗り方を教えてもらいに駅までやってきた。

アナウンスが駅構内に響き、目的の電車がやってくる。

扉が開くのを確認してから、私達は足を踏み入れた。

こうしていると、まるでカップルだ。座席にまばらに座る男女を見て、何だか恥ずかしくなる。かけるくんはと言うと、全く気にする素振もなく広告を読んでいた。かけるくんの肩にかかるバッグには、電車のキーホルダーが二つ。車内が揺れるたびに、カチャカチャと音を立てたいた。



既に、出会ってから一ヶ月が過ぎようとしていた。二人とも、特に話をする訳でもなくずっと黙って電車の乗り降りをした。会話と言えば、定番な話題は「今日の朝ごはんなんだった」とか「明日の晩御飯は?」

など実にどうでもいいことばかり。かけるくんから話題を振られることはめったになく、私からいつも話しかけている。だからと言い気まずい雰囲気ということはなく、同じ空間が心地良く、話すこと自体がと言うより、そのような時間が楽しくて、嬉しいものだった。土手に着いた頃には、夕方になって居た。向こうの川の上の鉄橋を電車が通り過ぎていく。カシャっとカメラのシャッターを切る音が聞こえた。かけるくんは持っているデジカメでまだ走り去っていく電車を狙っている。ああ、私もカメラ持ってくればよかった。

しょうがないので、鞄からスマートフォンで電車の後ろ姿を収めた。アルバムにまた一枚君との思い出が追加される。夕日をバックにした赤い電車。

「かっこいいね」

私はかけるくんにその写真を見せた。

「ほんとだ、かっこいい」

私は地面に腰を下ろした。

かけるくんは座らず次の電車が来るのを待っている。

「私、かけるくんのおかげで電車の魅力が少し分かっちゃった」

夕日に照らされる電車はあの時確かにカッコ良く見えた。






一ヶ月を過ごした私は君のことをすっかり知った気になっていた。


勝手に君という存在を決めつけていた。


































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