決意の五人、外を目指す。
天気は天晴れと誰もが賞賛しそうな快晴。
そんな空を、淀んだ灰色をした細い飛行機が飛んで行く。
その下には幼児も遊べる様な穏やかな公園があって、ベンチ付近には、思春期も終わりに差し掛かった頃の男女が談笑していた。
空を飛ぶそれを眺める彼は、頭上数十メートルに飛行機が飛ぶなんてあり得ない、そんな時代を知らない。
彼を囲う友人たちも、博識な一人を除いてはその事実を知らないのである。
シズマ・ハイアロンソ。これは彼の名前だ。
何故、この地日本で横文字の名を使うのか、それは至極簡単なことで、帝國の国策の一つにある『人種無差別』に理由がある。
『人種無差別』とは何か。
帝國が人種差別をなくすため、各国の人種の比を均等にすることである。
具体的には、帝國が強制的に国民を他の国へと連れやり、例えば日本における黒人、白人などの人数比を均等にする国策だ。
シズマも、そんなご都合だらけの国策の被害者である。
「さあ、本題に入ろう」
そんなシズマの一声に、談笑は打ち切られる。
彼らには一つの壮大な計画、言い換えるならば野望があった。
これを誓い合ったあの雨の降る夜を、五人は忘れていない。
「決行は明日だ。まず最初に一言……風邪は引くなよ」
途端、坊主頭の深鳥 新以外の髪が風に揺れた。
風邪を引くなと言った途端、風が吹く。そんなダジャレた状況にミスト・シーナは少しばかり吹き出してしまうが、シンは勘違いする。
「ミッシーひでぇ、笑うなよ!」
「ちがうってば!」
ミッシーはミストのあだ名である。
それは彼らも、彼女自身も気に入っている。五人出会った頃から唯一続いたものといえば、このあだ名のみと言っても過言ではないだろう。
(また僕の話は聞き流されるのか……)
シズマはいつものように頭を垂らす。眼下にいるのは蟻の大行列だ、が、野望のことしか頭にないシズマにはそんなもの見えすらしなかった。
「ほらほら~、シズマっちゃん落ち込んじゃったじゃん!話は聞いてあげなきゃだめだよ?」
二人を止めに入るのは未園 美夏だ。
お姉さんみたいだって専ら評判だけど末っ子なのがギャップ萌だよね、と常日頃シズマに問いかけるが、決してそれは嫌がらせなんかではなく、むしろ好意の裏返しだという事に、残念ながらシズマは気が付いている。
しかし、分かってはいても思春期ゆえの甘さが、シズマの気をミカの方へ持って行ってしまう。
自身が体験したことによって、吉野 大に言われた「好きって言われたら好きになんだよ、特にお前みたいな奴は」という言葉の意味を理解した。
そんなダイは、今しがたミカがとった行動に目を奪われているシズマを見て、微笑みとも嘲笑ともとれるような口の動かし方をする。
そんなダイこそ、博識の彼だ。
「はっ、話を戻す……とにかく明日だ、明日。存外向こうが大したことないなんて言ったって、一応訓練を受けた兵だ。クソガキの僕たちが舐めてかかれば、十秒で拘束だって有り得る」
シズマはそこまで息継ぎなしで言い切った。
そうでもしなければまた、シンとミストに邪魔されると思ったからだ。
事実、二人は付け入る隙がなく、少し残念そうに顔に影を作る。
そうまでして二人が野望の話を先延ばそうとするのは、五人でやろうとしていることが怖いからだ。
シンは足元の小石を目にせず探し当て靴でジリジリ踏む。ミストは砂を押し固められた地面につま先で穴を申し訳程度にあける。
勿論、小石や地面に罪はないが、二人にも悪意があるわけでもない。
不可抗力に無意識に、ただただ不安をそれらに見立てて痛みつける。
(大丈夫……じゃないかな、シズマも)
内心そう思うミカも、いつも先頭にいるシズマが、いつ重圧に潰されるか、なんて不安で気が気でない。
「シズマ。お前は俺達を不安にさせるために呼んだのか?」
全員の顔つきが若干変わる。
それくらいにダイの顔つきは真剣だった。
「違うだろ」
ダイは、どうすればいいかなんてそれ以上助言するつもりは全くない。
それでもシズマが十分だと言わんばかりに大きく頷いたのは、言わなくても分かるからなんて綺麗事でもなんでもなくて、単にダイの言葉で全員の不安がある程度飛ばされたからである。
(僕にできるのは、士気を高めること)
そもそも、士気の欠ける者などこの中にはいないことは全員理解している。
やはりシメは必要で、その役割はリーダー的地位にいる者、つまりここでいうシズマにあるから、それだけだ。
「みんな、一回しか言わないから聞き返すなよ?特にシン」
「ったりめぇよう!」
(不安だ)
全員がそう思う。
「ならいい。じゃあ、シンのために一言だけだ。……帝國に、帝國の朝焼けを五人で見よう」
その言葉を聞いて、各々片口角を吊り上げる。
「ああ」
「おう!」
「うん!」
「いえい!」
返事こそバラバラだったものの、完全に彼らは一つになる。
明日明朝、シズマたちは脱国するため、国を敵に回す。