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scene.3

 出ていく雪菜を二人で見送って、視線を戻すと自然と二人の目が合う。



「理由は話してくれたのか?」

「ん?」

「話をしてきたんだろ?」

「・・・あー、汐留くんの話ね。一応、話してくれたよ。・・・なんか、要領得なかったから軽く脅しちゃったけど」


少々恐ろしいことを言ってくれるが、部活の時にはよくあるレベルの話なのだろう。昇司は小さく笑っている。


「汐留だったのか」

「うん。うちの部長」

「あいつなら、理由もなく暴れたりしないだろ」

「まぁねぇ・・・て、知ってる子?」


幸隆は、学校の理事をしているが、教師をしているわけではない。

生徒会や特待生などの一部の生徒くらいしか、個人的に面識のある生徒はいないはずである。

だから、昇司は少し驚いた顔をしている。


「一方的にだが」

「ふーん」


結局聞きたいことの答えはもらえていない気もしたが、昇司はとりあえず納得する。


幸隆は、机に戻ってまた書類を見始めた。


「それで?」


仕事は再開するが、会話も続けるつもりはあるらしい。


「あー、うん。なんか、喧嘩売られて無視しようとしたんだけど、一緒にいた友達が殴られちゃったんだって。で、怒れちゃって・・・らしい」

「あいつらしい」


幸隆は小さく笑うが、やはり、腑に落ちない。


「何、そんな仲良しなの?」

「自分の学校の生徒のことを知ってたらいけないか?」


笑ってはぐらかすが、昇司も誤魔化されない。


「いくらゆっきーでも、全校生徒のこと把握してるわけないじゃん」


昇司の真面目な声音に、幸隆は書類から顔を上げる。

昇司は、静かな目で幸隆の反応を待っていた。

そんな親友に幸隆はため息をつくと、観念したようにこぼす。


「・・・・・・孫なんだよ」

「は?」


言葉の意味をすぐに理解できず、昇司は怪訝そうな顔になる。


「前の時の、孫だったんだよ。だから、自然と目に止まりやすくて」


わざわざ前世の事を話すのだ。前世の事自体が嘘だったということでもない限り、この答えは本当なのだろう。

そして、幸隆の話す前世の事を、昇司は疑っていなかった。


「・・・・・・へぇ、ホントにおじいちゃんだったの」


だから、それ以上問い詰めることはせず、茶化す。


「あぁ。孫は七人いた」


昇司の意図を理解したのか、幸隆も笑って返す。


「すげぇじゃん」

「普通だろ」

「そうなの?」

「それで、汐留はどうした?」

「理事長のとこにも報告は行くと思うけど、三日間の自宅謹慎」

「そうか。ご苦労さん」

「どうも」


話がひと段落して、幸隆は今度こそ書類の処理に戻る。


「お前、仕事は?」

「終わらせてから来てますって」

「そうか」

「・・・・・・で?今度は何の夢見てたの」


唐突に、昇司は問う。


「・・・・・・別に」


幸隆の手が止まるのを気にせず、昇司はノートを開く。


「次郎さんだっけ?えっと・・・そうそう、親友の幼名だ。その人が出てきたの?」

「いや・・・」

「でも、名前呼んでたじゃん」


目を覚ました時、確かに、幸隆は「じろう」と呼んでいた。


「・・・・・・あの頃の夢ではあったよ」

「ふーん」

「・・・・・・」


またも煮え切らない答えに、昇司は探るような目を向ける。

しかし今度は、幸隆もそれ以上話す気はないようだ。


「そうそう。最近、寝れてないんだって?」

「雪菜に聞いたか」


だから、また話題を変える。


「心配してたよ」

「・・・・・」

「何?自分が死ぬとこでも思い出した?」


なにやら重いものを背負っているらしい親友の心を、少しでも軽くしてやることができれば。

そんな思いもあって、昇司は明るく尋ねる。


「・・・最期の記憶は、辛いものじゃないよ」

「そうなんだ?」

「あぁ」

「でも、夢のせいで寝不足なんでしょ?」


思っていたのと違う反応に、昇司は首をかしげる。


「最近見るのは(みゆき)や次郎が死んだときのことだ」

「・・・・・・みゆき・・・奥さんと、親友?」


昇司は今までに聞いた話のメモを見て確認の意味で尋ねる。


「いや・・・妻になるはずだった人だよ」

「え?」

「妻は、娘たちの母親は幸の妹だ」

「・・・・・・恋人、亡くしてたの?」

「話してなかったか?」

「聞いてない聞いてない」

「そうか」

「うん・・・」


全部聞いていたつもりだが、幸隆自身も話していないことに気付いてなかったエピソードもあったようだ。


「・・・・・・今は満たされてるはずなのに、な。目が覚めた途端に、不安に駆られる」

「・・・・・・」

「幸も、妻も、次郎も・・・みんな、私より先に逝ってしまったから・・・」

「・・・・・・」


遠い目で、痛切な思いを語る親友の姿に、昇司は何も言えなかった。


「・・・・・・」

「・・・・・・」

「因みに、幸は評判の美人で、次郎と取り合いだった」


少々暗くなってしまった空気を一掃するように、幸隆が明るい声で付け加える。


「・・・三角関係!?」

「二人とも告白する前に、彼女の家の方から俺の許嫁にって申し出てきたけど」

「・・・次郎さんかわいそ」

「・・・・・・まぁな」

「昔はやだねぇ」


それを察した昇司もおどけた態度を見せる。


「・・・雪菜ちゃんは、前の時の奥さんかと思ってたけど・・・恋人のほう?」

「あぁ。幸は、雪菜だよ」

「だから付き合ってるの?」

「別に、それだけじゃない」


昇司の問いに、幸隆は憤慨したようにそう答える。


「まぁ、雪菜ちゃんかわいいしねー」

「取るなよ?」


思いがけず真剣な声に、昇司は悪戯心がわいてにんまりと笑って見せる。


「どうしよっかなー」

「・・・・・・」

「冗談だって、マジになるなよ」


幸隆の目が本気だったので、急いで弁明する。


「ホントだろうな?」

「そんなに心配なら、さっさとプロポーズしちゃえば?」

「・・・・・・まだ、時期じゃない」

「・・・まぁ、まだ理事長職継いだばっかだもんな」

「お前こそいいのか?俺より六つも年上だろうが」


ついつい忘れてしまうのだが、浪人したり留学したりしていた昇司は実は年上なのだ。


「俺はいーの!」


30歳を過ぎて独身でいることを、親にうるさく言われているのだろう。

昇司はうんざりした声をしている。


「・・・まぁ、心配すんな。俺は次郎さんじゃないし、三角関係再び・・・ なんてことは、あり得ないよ」

「・・・・・・そうか」


再び自分の事を言われる前に、もう長く付き合っているのに、いまだに結婚の話を出さない親友をけしかける。


「だから、今から失う心配してるより、大事な人との時間を持つ方が大切なんじゃねーの?」

「・・・そうだな」

「わかったらさっさと仕事終わらせろよ。雪菜ちゃん待ってるぞ」

「そうする」

「じゃあ、またねー」


幸隆の答えを聞き届けて満足したように頷くと、用は済んだとさっさと退室してしまう。

また、自分の事を訊かれたくなかったのだろう。

雪菜を待たせないために、仕事の邪魔をしないように・・・という意図もあったかもしれないが。


幸隆は苦笑して仕事に戻るが、しばらくして手が止まる


「・・・・・・お前だから・・・だから、心配なんだよ」


誰に言うでもなく、呟いて、

幸隆は恋人との逢瀬のために、また書類と向き合った。




Fin


戯曲形式で書いた時は、昇司さんのポケベルのシーンはケータイ電話でした。

一応、現代設定で?

というか、当時まだケータイは・・・という意識もあまりなかったといいますか。


今回、小説に直すにあたって、1987年とか記載して、そこで初めて「あ。このころまだポケベルの方が自然だ。」と思い当たりまして。


職員室の方が、西川先生を呼ぼうと思って、

でも、すでに仕事終えてたから帰宅中かも、ということも考えまして、

とりあえず西川のポケベルに連絡。


職員室からなんか電話しろって連絡が来てるらしいとわかった西川は、外にいたなら公衆電話とか、どっか近くの電話を使って電話するんですね。


まぁ、彼は友人のところ(校内の理事長室)にいたから、内線をかけるわけですが。


このころだとたぶん、メッセージを送れるタイプのページャーはなかったのではないかと思うのですが・・・どうなのでしょう?あるのはあったのでしょうか?

世代じゃないのでわかりません。

調査不足ですみません。



三人称なのですが、視点が定まらない感じですみません。

自分の文章力の至らなさを実感しております。


幸隆さんは私の作品のいろんなところに顔を出しているので愛着も湧きます。

もしかしたら、また同じシリーズの中で幸隆さんを取り上げたものも書くかもしれません。

脇役で終わる可能性も大いにありますが。


しかし、昇司君のことも気に入ったので、彼が出せるシチュエーションとなると限られてきますし・・・

その時の気分とか、読んで下さった方の反応とかに左右されるかもしれません。



それでは、最後まで読んでいただきありがとうございました。


次のページに、登場人物紹介?を掲載してひとまず連載(?)終了します。

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