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18 女性

 額に浮かんだ汗が流れ始めた頃、ようやく目的地に到着した。緑の葉っぱが生い茂っている土手を上ると、意外と幅の広い川がそこに現れた。電車の中から見たときはあまり大きく感じなかったのに、いざ目の前の雄大な川を眺めると思っていたよりも落ち着く何かがそこにはあった。線路を伝って歩けばすぐ着くと思っていたけれど途中で見失ってしまい、ようやく見つけたと思ってもどっちの方向に辿ればいいのかわからなくなって、それでもなんとか見つけた場所だった。わたしはどこかこんな景色の中に身を置くことを望んでいたのかもしれない。

 わたしは土手の中腹らへんで腰を下ろした。また葉っぱたちを潰してしまうことになるけど、歩き疲れてもう動く気が起らなかったから、謝って許してもらうことにした。汗が浮かんだ肌を風が通り過ぎていくのが気持ちよかった。

 周りにはランニングをしている人や、高校生らしきカップルなどがいたけれど、一番気になったのは一人の子どもだった。少年は水切りをして遊んでいる。石を一つ見つけてはそれを川に向かって投げ、また探しては放ってを繰り返していた。わたしからその少年までの距離は結構離れていて、わたしは土手から少年を見下ろすような形でずっと観察していた。

 その少年の何が不思議だったのかというと、回数にこだわっていないところだ。普通水切りはたくさん跳ねた方が嬉しいのに、男の子は五回跳ねても、また一回も跳ねなくても変わらず石を一つ見つけては、再び水面を切って、石が沈んだのを確認するとまた探すという行動を取り続けていた。

 わたしも交ぜてもらおうかと思ったけど、少年がとても真剣そうだったから邪魔をする気になれなかった。その変わり、一人で黙々と水を切っている彼を温かく見守ろうと思った。

 やがて男の子は水切りを止め、近くに投げ捨ててあった黒のランドセルを背負って、全速力で走ってどこかに行ってしまった。ランドセルが肩に合っておらず、上下に激しく揺れていた。

 わたしは腰を浮かせ、男の子が立っていたところまで歩いた。そして足元を見て、できるだけ平べったい石を探す。表面が三角形のそれを見つけた。厚さもなかなか薄くて重量もちょうどいい。

 わたしは右腕を大きく後ろにそらして、次に鞭を振るかのようにしなやかに腕を伸ばした。そしてタイミングよく小石を離す。もちろん回転をかけて。

 三角形は二回跳ねた。わたしが思っていたよりも全然跳ねなくて少し悔しかった。――そう。水切りはやっぱりたくさん切ることに意味がある。

 気づいたらわたしは次の小石を夢中で探していた。

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