17 女性
ホームに降りたのはわたしだけではなかった。台風が来たら今にも壊れそうな小さな駅だったけれど、他に五人が降りていて、みんな出口へと向かっていた。わたしも彼らの後をついていった。
細長い物体の間を彼らは通って行く。注意深く見ていると、それを通る前に、ある部分に何かかざしている。カバンから伸びたカードケースをそこに当てる高校生もいれば、財布をかざすサラリーマンもいる。わたしは右手のポケットに手を入れてみた。四角く硬い何かが手に触れた。それを引っぱり出してみると折りたたみ式の財布が出てきた。
わたしはドキドキしながら財布をみんなが当てていた箇所にかざしてみた。何かを読みとったのか、かわいらしい機械音がした。わたしはそのまま前へと進んだ。
まっすぐ前に突き進むと、あっという間に建物から出てしまった。顔がヒリヒリとしてとても痛い。太陽がわたしをいじめる。辺りを見渡すと二本の木が日陰を作っているベンチを見つけた。わたしはとりあえずそこに腰を下ろすことにした。
ベンチに座って、駅の周りの様子を確認した。住宅街の中に申し訳なさそうに駅がたたずんでいて、歩いている人達は主婦らしき人が多く、みんなスーパーの袋を持っていた。おそらく夕食の支度だろう。
中には小さな子どもと一緒に歩いている人もいた。男の子が小さな買い物袋を両手で持って、お母さんの後ろを必死に歩いていた。でもそんな頑張りも空しく、徐々に差は開いていく。すると母親は立ち止まって後ろを振り返った。その間に男の子は母親との距離を詰める。母親はその様子を微笑ましく見ている。そして男の子が自分のところまで来るとしゃがんで何か聞いた。男の子は首を大げさに横に振る。女性はまたやさしく微笑み返すと、前へ歩き出した。おそらく男の子が疲れていないか心配したに違いない。そんな優しさに男の子は強がりを見せた。もうとっくに限界なのに。だってさっきから袋が地面につきっぱなしだ。穴が開かないか心配だった。
親子の様子が見えなくなると、電車から見えたさっきのあの景色のところへ行くためにはどうしたらいいか考えた。周りは家やアパートが乱雑に並んでいて、初めてここに来たわたしには一つひとつの道の区別がまるでつきそうにない。近くの人に道順を尋ねても辿りつける自信はまったくなかった。
しばらく頭を抱えて悩んでいたけれど、目的地に行くとても簡単な方法を思いついた。それはものすごく単純だった。線路から見えたのだから、線路に沿って歩けばいつか着くはずである。
わたしは意を決して立ち上がった。そして木陰から一歩先へと出る。さっきまで意地悪していた太陽が今度はわたしを温かく見守っているような気がした。