15 僕
周りの喧騒によって意識が現実世界に戻される。ほとんど考え事で授業が終わってしまった。教授の前にある机にみんな出席表を持って行っている。机の前はバーゲンセールの時のような状況になっていた。
人が落ち着いてから僕もその紙を出しに行く。教室にはもうほとんど人がいなかった。みんな早く教室から出ていきたいみたいだ。ここは酸素が薄いらしい。
机の上には出席表の花が咲いていた。四方八方、上下逆さまに、明らかにさっきまで教室にいた人数よりも多いそれが散らばっていた。僕も適当に紙を置き、机に戻って教室を出る準備をする。
校舎から出ると否応なく強い日差しが差し込んできた。ピークは過ぎたようだけど、それでも十分強くて、寒いのが好きな僕には辛かった。空に一つの雲がないのが恨めしかった。
早く帰ろうと、駅までの最短ルートを僕は歩く。色々な道を通って確かめたから、その道は僕の知る限りでは一番の近道だった。
車一台がやっと通れる細い道を歩いていたら、駅まであと少しというところで、向かい側からトレーニングウェアを着た大学生らしき五人の男女の集団がやってきた。おそらく同じ大学の何かの部活だろうけど、僕は運動にまったく興味がないから、見ても何のスポーツの集団か分からなかった。
僕は邪魔にならないようにギリギリまで家の塀に身体を寄せた。向こうも僕に気付いたのか一列の陣形を作ってすれ違う準備をしている。女の子が二人まず先に並んで、がたいのいい男子が後ろにくっついている。
一人、二人と僕の横を通り過ぎていく。息が上がっていて、結構真剣に走り込んでいるみたいだ。僕はそんな人達の邪魔にならないよう、さらに家の塀に身体を近づける。
四人目が通り過ぎ、とりわけ身体の大きい最後の一人が僕に近づいてきた。彼はなぜか僕の顔をちらちらと見ていた。たまにそんな人に出会う。僕に知り合いなんていないから、喧嘩を売らないよう目を背ける。僕は向日葵の下にいる、誰も名前を知らない雑草のようにひっそりと気配を消した。