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14 僕

 目を開けると、変わらず藍色で塗られた空が広がっていた。ただ幾ばくか日の光が先ほどよりも強くなっているようだった。

 折りたたみ式の携帯を開く。思っていたよりも時間が経っていた。少し眠っていたみたいだ。

 僕は緑色のカーペットから身体を起こした。ざらざらと粗い感触がまた心地よい。もうしばらくここにいたかったけれど、その時間はなかった。すぐに向かわなければ間に合わない時間だった。今日が一週間ぶりのずる休みならまだしも、もう二日続けて大学に行っていない。焦燥感があるうちに行かなければ、この先もう二度とそこに行くことはなくなってしまうと思う。

 僕は意を決して立ち上がる。そして近くに置いてあったリュックを背負って公園を後にした。


 結局着いた頃には授業が始まっていた。十分程遅れて教室に入る。この教室は横に広い、いかにも大学の講義室といった所だ。ただテレビでよく映るそれに比べてかなり狭いけれど。授業の最後に提出する出席表を取るために教室の後ろから入る。授業の最初に配布され、余った分は後ろの机に無造作に置かれているから、途中から来ても取り放題だった。その紙もただ自分の名前と在籍番号を書くだけだから、友達に変わりに書いてもらう人も少なくなかった。八十人ほど履修しているはずだったが、ざっと見回しても半分いるかいないかくらいだった。

 教室の一番前、左側の特等席に行きたかったけど、授業が始まっていたからそこまで歩けなかった。僕には目立ってまでそこへ行く勇気はない。左側の後ろから三番目の机に行き、折りたたみ式のイスを下ろして座る。一番目と二番目はすでにグループで座られていた。カラフルで個性的な髪をした人達ばかりだった。一瞬、園芸場に来たかと思った。きれいな花が咲いていると思ったからだ。

 教授の話を聞こうと耳を傾ける。でも頭に何も入ってこなかった。今日は集中できない日だった。最前列に座っている人達は、みんな雰囲気が似ていた。勉強だけが人生のように思っている感じだ。そして一様に必死に手を動かし、顔を上げては首を上下に振っていた。それこそ食らいつく様に。僕も最前列に座ることが多いけど、あそこまではできない。僕が前に座るのは、そこが一番孤立した場所だと思っているからだ。

 ほとんど話は聞き流していたけれど、差別という単語が頭に入ってきた。どうやら今日はその話らしい。教授がだるそうに、強弱も高低もつけず一様に言葉を発する。

 気分が乗らない理由が分かった。自分を周りと切り離している僕にはその話は関係がなかった。

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