第五話 おねえさんはメイド様
いちま~い、にま~い、ぐへへ。いつ見ても金貨の輝きはええのぉ………。
何でも出来そうな気がしてくるわぁ………ウケケケケケケ………。
ん? 気配を感じる!はっ!いつの間に!
………どうもこんにちわ!僕の名前はジオ!10歳だよ!
(危ない危ない、もう少しで無垢で純真な俺のイメージが………)
ということであのはじめてのオツカイと商談から3年が経った。
その間にあった大事な出来事をいくつか先に話しておこうと思うから、ちょっと聞いてくれ。
あぁ………お茶菓子はそこ。急須はここで、お茶の葉はそこの棚の中だ。セルフで頼む。
まず『俺の野望の為のステップ』、もういちいち長いから計画って言い換えちゃうけど、計画1、つまりレベル上げはその後もそこそこ順調に来ている。
初日に3まで上がった俺のレベルは、3年たった今では18。
ん? ペースが遅くないかって?
みんな間違えちゃいけないぜ、俺は、まだ、10歳だ!
………なかなか遠出とか出来ないんだよ、さすがに。
それにレベルは上に行けば行くほど上がりにくくなるからな。
まぁそれでも今はワトリアの街からすぐ行ける狩場の中では、一番敵が強いデフ盆地入り口で、イアナゴブリン相手にレベル上げとアイテム収集に勤しんでいる。
(ゴブリンやオークは種族と狩場によってその強さが本当に天と地ほども違う。
イアナゴブリンは全体から見ると弱い部類だが、レベル13~20くらいの1次転職前から転職後のおよそ30台前半まで幅広くお世話になるゴブリンだ)
あと今俺は基本的に狩りで魔法を使っていない。
前世補正(簡単に使えた魔法とかポーションの調合とかの不思議能力のことを俺はこう呼んでいる。またの名を幼女☆ボーナス)のない戦士系としての能力を鍛える為に、武器を使った戦闘で奴らを倒している。
………まぁもちろん最初は安全の為ネズミからやったんだけど、魔法と違ってまじで生き物を殺してる感覚が手に伝わる初体験の後、俺は吐きまくってしまい、その後も一週間部屋に閉じこもってしまった。
(刃物でグサ!は俺のNO1トラウマだから………)
その後、家で食べる為に鶏さんを絞める時や、豚さんを解体する時などに立ち合わせてもらったりして、3ヶ月かかってなんとかトラウマを克服したのも、今ではもう昔の話だ。
………人型のゴブリンを初めてスチールダガー(1400G、つまりおよそ日本円にして140万くらいはするEグレード最強の片刃の幅広なナイフだ。
基本、武器を含む装備はこの世界ではかなり高い。
元の世界の感覚に例えると、一般的な日本人が本格的な軍用拳銃を買うような感覚だと思ってもらえれば、この感覚の差が少しは埋まると思う)を使って倒した時も、また一週間閉じこもったけどな。
今はもう大丈夫どころか、むしろスポーツ感覚でやってる自分に少し驚いている。
ゴブリン相手に経験をつんだおかげだろうか、かなりこの世界の『戦い』ってやつに慣れたからだと思う。
今ではそういう場面になると、スイッチが切り替わる感覚で冷静になれるようになった。
やっぱり何事も経験は大事で、コツコツ積み上げないとな。
7歳の時にアスリート並だと感じてた身体能力だが今では野生のサル並だと自信を持って言える。
今の段階でこうなのだからレベルが上がるにつれ、どこまで行くのかが今から楽しみだ。
目指せ天O突破!おっと危ない、著作権の侵害は犯罪だ。
今は弓を打ち込んでダメージを与えながら、おびき寄せつつナイフで止めを刺すっていうやり方で頑張っている。
次に計画2、ポーションで大もうけ計画だが予想以上に儲かっている。
ポーションの売り上げは絶好調でこの3年で50000G以上儲けた。
50000Gだ。もう一回言おう!50000Gだ!
元の世界換算でおよそ5000万円(およそ1G=1000円だからな。)、こちらの世界でも『一般人』にとってはかなりの大金である、ていうか普通の家が数件買える。
但しあくまで『一般人』ならだ。
冒険者に必要な金額というのは、かなり一般人とは隔絶している。
《New World》では、グレードが上がるごとに装備の値段がおよそ10倍必要になる。例えばEグレードの武器が1000Gだとする。じゃあそれに相当するDグレードのものなら10000Gということだ。
グレードは俺の知る限りSグレードまでありE>D>C>B>A>Sと上がるのでSグレードの武器は100,000,000G、つまり1億G必要になるというのがこの世界の相場であると思っておいてくれ。
防具は全部集めておおよそその半分くらいが相場だろうか。
な、隔絶してるだろ?Sグレード装備とか、もうどこかの国の国家予算レベルだからなぁ………。
まぁそんなもんでも使わなきゃ、伝説のドラゴンとか魔物のボスなんてものとは戦えないってことだな。
閑話休題。
そんなわけで上を見れば切りが無いが、駆け出し冒険者としては異常なほど今の俺は金を持っている。これをどういう風に使うかはもう少ししたらゆっくり話したいと思う。(ちなみにスチールダガーを含む装備は全部自分で買った。全部で5000Gくらいしたが先行投資だと思えば安いものだ)
あとは………9歳の時に父上と母上に将来の夢とそのために俺がやってることを話した。
夢に関しては大いに誉められ(父上はテーブルに滝が出来るほど泣いていた)、計画つまり実際こそこそやってた事については当然だけど死ぬほど怒られた。
まぁその後イロイロあったが、最後には許されて今は万が一の為の護衛付きで冒険に行くことが許されているのが現状だ。
護衛の人は、父上が雇ったヒューマンの戦士系1次職レンジャーのイナさんだ。
レンジャーはヒューマン戦士系一次職の中でもスピードと器用さに優れた戦士職で、短剣や弓を使いこなして戦うスピード型の職業である。
ちなみに見た目は、いぶし銀を地で行くナイスミドルなおじさまだ。
なんでも父上やブエロのおっさんの昔の知り合いで、元冒険者だが今は引退して悠々自適の暮らしをしていたらしい。
今の俺と比較するとかなり強い上に、戦士職の武器の使い方戦い方、レンジャーとしての技や経験を教えてくれるので、俺は普段は『先生』って呼んでいる。
(スキルはまだヒューマンの戦士系基本職『ファイター』としてのものしか使えないけどね)
あ、大事なこと言い忘れてた。
俺に戦士職としての才能も、魔法職としての才能もあるらしいって分かった時、父上が珍しく厳しい顔をしてできるだけ誰にも漏らさないようにって約束させられた。
ありえないことだからなぁ………コレ。
幼女チートだもんなぁ………。
ということで俺は対外的には
『魔法ギルドのギルドマスターの子供にも関わらず、魔法職の才能に乏しいからしかたなく今から戦士職としていろいろ鍛えられてる魔法のオチコボレ』ってことになってる。
まぁ非常にイイ隠れ蓑だから俺は結構便利に使っているがな………。
おかげで父上がギルドマスター追われそうになったりもしたそうなんだが、火種のかけらも残さずもみ消したそうだ。
ギルド関係者のガキどもの多くにはバカにした目で見られるが、はっきり言って気にもならない。
だって喧嘩にすらならないから。(やつらはレベル1以下のひよこ以下の存在だからな、まだ)
そして最後に………大事なことを言わなきゃいけない。
落ち着いて聞いてくれ。
実は………
好きな女の子が出来ました。
◇◆◇◆◇◆◇◆
落ち着いたか?ブラザー。
うん、分かってる。
前世24歳+こっち10歳で実際34歳の三十路過ぎたおっさんが何をって言いたいんだろ?
うん、分かってる。
でも今から言うこと聞いたらもっと怒ると思うよ。
落ち着いて聞いてくれ。
相手は、『超かわいくてやさしい巨乳の黒髪美人な俺の専属メイドさんのマリエルちゃん、14歳だ。』
OK。モノを投げないでくれ、頼むから。
まぁまじめな話、24歳以上の歳のおっさんな自分と見た目どおり10歳の自分が自分の中では違和感無く存在している部分があるんでロリではないと思う。
あと彼女エルトリン国内の農村の生まれなんだが、家族が多くて口減らしのために町に出て働こうとしていたところ、それならってことでその村で引退生活しながら子供たちに読み書きなんかを教えてたイナ先生が、昔なじみに会う(父上が俺の為に呼んでくれた)ついでってことで一緒にワトリアに出てきたところ、それならって事で俺の専属メイドとしてうちで雇ってもらったっていうのがことの始まりだったりする。
………だって、一目ぼれだったんだもん。
イタイ、イタイ。石を投げないでくれ。
実際人手が必要だったってこともある。
俺は自分の訓練や狩りに出かけることも多くて、ポーションの納品とか注文を受けたりとかっていうことの代行が欲しかったのは本当の話。
あと冒険者として立つ後々の事を考えると、俺を裏から支えてくれる信頼できる人間は絶対に必要だったんだ。
留守の間集めてきた素材を売ったり、市場に出物が出たら買ってもらっておいたり、他にも料理、掃除、洗濯などやってもらいたい事は数え切れない。
この世界で冒険者として生き抜くには、そういうサポートをしてくれる人間は必須だと俺は判断したんだ。
なぜならこの世界は『ゲームの中』じゃない。
『《New World》というゲームに限りなく近い現実』だからだ。
実際の戦争でも兵站、つまり補給とか後方支援がしっかりしているところが勝利するだろ?
そういうことだと思う。
ローマは兵站で勝つ、ですよ。
そんなこんなでマリエルは良く頑張ってくれている。
明るくてやさしくて包容力のある年上の『おねえさん』タイプで、俺の好みのもろど真ん中どストレートだし、仕事も丁寧でかなり頭もいい。
計算も俺が少し教えたらかなり出来るようになったしな
マリエルは俺に対して、まるでやんちゃな弟に対するやさしいお姉さんのように接してくれる。
兄弟が多くて、マリエルを一番上に下に7人とかいるって言ってた。
前世でも兄貴しか兄弟がいなかったし、『おねえさん』は俺にも結構新鮮だ。
どこをとってもマリエルはかわいい。
前も含めて俺の人生の中で絶対一番かわいい!
今は俺の片思いだけどいつか口説き落として絶対に俺の嫁にしてみせる!
………自信まったくねぇや。
でも!異論は認めない!マリエルは俺の嫁!
お、規則正しい足音が聞こえる。
これはマリエルかな。(念のために言っておく。俺は変態じゃない、これは戦士としての訓練の成果だ)
コンコンとドアがノックされる。
「入ってマリエル」
ドアの向こうの人物にそう言うと、失礼しますといいながら『俺の嫁(予定)』マリエルが入ってきた。
紺のメイド服に清潔な白いエプロンと白いカチューシャが良く似合ってる。
髪型は黒くてつややかな黒髪を三つ編みにしてる。
肌なんかも真っ白で、目も髪とお揃いの真っ黒のお目々がきらきら輝いてる。
うん、今日もかわいすぎる。
そう思いながらマリエルを見つめていたら、マリエルはにっこり笑いながら
「あらあら若様。もうお昼前でございますよ?
ベッドから起きてくださいませ。旦那様がお呼びでございます」とやさしく教えてくれた。
マリエルは俺の事を『若様』って呼ぶ。いいだろ!
おっと、現実に戻らないと!
父上から呼び出し?もしかしてあの件か?
よっし!もしそうなら待ちに待った『俺の野望の為のステップ3』の始まりだぜ!
俺は寝転んでいたベッドから飛び起きると、マリエルを連れて父上のところへ向かう。
さりげなく手をつないでな。子供の特権だ、許せ。
◇◆◇◆◇◆◇◆
父上の自室の前に着いた俺はノックしてからドアを開けた。
「父上、お呼びですか?」
「よく来たな息子よ!」
そう言うと父上は椅子から立ち上がり、俺のほうへやって来て俺を抱き上げた。
重くなったなぁといいながらおろしてくれる。
まぁいつもというか毎日の事なんだが、いい加減10歳にもなるんだしやめて欲しいと思うのだが、父上がやめるまではそのままにしておくことにしている。
以前母上にそう言ったが、母上は
「あなたはもうすぐこの家を出て、この世の中で最も危険な仕事しながら生きていくつもりなんでしょう?あと少しの間だけ私たちにあなたをかわいがらせて欲しいと思うのはいけない?」って言われて諦めざる得なかった。
但し!マリエルのいるところではできればやめて欲しいんだ!恥かしいから!
ほら今も何かほほえましいもの見てるような目で俺を見てるから!
俺は父上のヒゲ攻撃をなんとか回避しながら話を聞きだして行くことにした。
「父上、お話はもしかしてあのお話ですか?」
そう俺が聞くと父上は俺をようやく解放しながら、
「そうだ息子よ。今回のエルトリンシティ行きにお前も同行させる事にした」
と答えてくれました。
おっしゃあ!来たぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああ!!
内心でガッツポーズ100回!1年越しでお願いし続けたビックイベントがついに!
「本当ですか!父上!」
俺の顔には満面の笑み、父上の顔にも満面の笑み。
「そうだぞ~息子よ~。私はお前に嘘は言わないぞ~」
「ありがとう父上!」
そういって抱きつく俺!でろでろに笑み崩れる父上!
こうして俺の黒い腹の中を隠して、俺の『俺の野望の為のステップ3』がついに始動の時を迎えたのであった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
エルトリンシティは、ワトリアからは馬車で4日程離れたところにあるエルトリン城の城下町だ。
正直俺の実力なら一人でも十分いけると思う。(行くだけなら楽勝)
大体レベル20前後になれば拠点をワトリアからエルトリンシティに移すのが普通だからな。
だが俺は何と言ってもまだ10歳だし、父上や母上に必要以上の心配はかけたくない。
一人で行くとなるとまぁ確実に家出扱いされるしな。
この場合『合法的に1回行く』って事に意味があるんだ。
そして一度行けば、後はいつでも好きな時にいけるようになるから。
『ゲートキーパー』って分かるかな?
町ごとに存在する特殊な魔法使い達で、有料ではあるが魔法で違う町やダンジョンの入り口に送ってくれるそれはそれは便利な方たちだ。
但しこれにはいくつかルールが存在する。
まず使用開始の為のクエストを受ける事、これは『お使いクエスト』の一種なのですぐに終わるので問題ない。
あとそのクエストの最後に登録料1000Gを要求される。
これもその便利さを考えればまったく問題無い。
問題なのが次の2点だ。
『ゲートキーパーから飛べるのは、町でもダンジョンでも一度行った事のある場所だけ』
『ゲートキーパーの管轄する範囲はそれぞれ決まっている』
つまり『自分で行った事のないところには移動できず、行った事のある場所でもエリア外だと一度には移動できない』ということだ。
つまりA、B,Cという町があるとする。
AからBへの移動は可能だが、AからCに一気に移動する事は出来ず、その場合Bを経由してCに移動しなければならないということである。
簡単だけどこれがゲートキーパーについての説明だ。
これと自分の現在地から最も近い町に移動する『帰還のスクロール』が《New World》内での移動の基本だといえるだろう。
………まともに一回一回歩いて帰ったりしてたら、まじでリアルに日がくれるからな。
登録自体は既にワトリアで済ませてあるし、実は狩りに行くために日常的に使ったりしてる。
週3くらいでな。
デフ盆地まで(片道1人50Gと帰り用帰還のスクロールが一枚150G)×2(先生の分ね。)、半日頑張った時の稼ぎがドロップの金だけでおよそ3~400Gなので十分黒字になるので時間が節約できてすごいお得なんだ。(ちなみにワトリアからデフ盆地入り口までは近いとはいえ、歩いて半日以上はかかるからトータルでは絶対にゲートを使ったほうがプラスなんだ)
そう、今回最も大きな目的はワトリア~エルトリンシティ間のゲートの開通、コレだ。
一度開いてしまえばいつでもエルトリンシティに行けるようになる。
さらに強い敵が出て稼ぎがおいしい狩場も使えるようになるし、ワトリアにはない品物を扱ってる店や施設もこれからは利用できるようになるって寸法だ。
そう、『あの施設』はワトリアには無い。
『あのシステム』を利用すれば俺の計画がまた一気に加速する。
………現代日本に生まれた人間としては、ちょっと躊躇わないでもないんだけど、な。
よし!待ってろよ!エルトリンシティ!
あ!じぃ!俺の預金全部おろしてきて欲しいんだけど~♪
お読みいただきありがとうございます。
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