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ニューワールド  作者: 池宮樹
ある男の回想 エルトリン学院時代編
18/46

第三話 入学式後が大変だった

へ~ここが俺が3年間暮らす部屋ですか~。


いい~お家ですね~、いや~じつにいい!


建物O訪って知ってる? 知らない? あっそう、歳がばれるな。


ジオ12歳だ!文句あるか!



まぁ冗談はさておき、めちゃくちゃ広いな。


学生寮は四棟あり、三階建てと平屋建ての建物が存在し、それぞれに男性寮、女性寮がある。


俺の部屋は平屋建てのほうの一人部屋で、さすがに実家の俺の部屋には負けるが、学生の寮の部屋にしては破格の大きさである。


道具類を置く場所やポーション作る場所も十分以上にあるな。


ん~、………父上が手を回してくれたか? 気楽でいいけど。抜け出すにも便利だし。


あ、この足音は………。


その音に気づいた俺は、部屋の入り口に駆け寄り、声がかかる前にゆっくりドアを開けた。


「お疲れ様、マリエル。」


そこにいたのはやっぱり俺の荷物を運んできてくれたマリエルだった。


俺が声をかける前にドアを開けたから、少しビックリした顔をしたが、すぐに優秀なメイドさんの顔に戻った。


「はい、若様。こちらで今回お持ちしたお荷物は全てでございます。


あとはおいおいということです。」


「うん、マリエルお疲れ様。ありがとう。」


俺がマリエルにお礼を言うと、マリエルが満面の笑顔で笑ってくれた。


あ、忘れてた。渡さなきゃな、アレ。


「マリエル。あのね、これ『念話石』っていって同じ石をもってる人同士なら、離れた場所でも話ができる石なんだ。


それでさ、これを使って、あの子達と一緒に朝起こして欲しいんだ。ダメかな?」


そういいながら、俺が念話石をマリエルに渡すと、困ったような笑顔で、


「まったく若様はいつまでも経っても朝がダメなんですね。


かしこまりました、毎朝あの子達と『にぎやかに』起こして差し上げます。」


と最近は俺に見せなくなった『おねえさん』の笑顔で約束してくれた。



うん。3年間、朝にこの笑顔を見れなくなる。


家帰ろうかな、マジで。


俺の学園生活、最初の一歩目で大きすぎる難関だよ。


………よし!耐えた!


さてと、眠いだけだとは思うけど入学式とやらに行きますかね?



◇◆◇◆◇◆◇◆



そしてあまりにも予想通りな、学園長のお決まりのお話が終わり、俺はあくびをしながら講堂を出た。


父上とマリエルはもう帰った。


帰り際の父上に、「くれぐれも、くれぐれも!『手を抜く』ようにな!」と激励されてしまった。


どんな親やねん。どんな激励やねん。


まぁ俺が息子じゃ仕方ないか。



にしてもやたらめったらでかいな、ここ。


講堂、授業棟、生徒達の寄宿舎の三つが集まると、まるで城かと錯覚しそうになるくらいにでかい。


まぁ、どうでもいいしさっさと食堂に行きますかね。


昼飯食ってないから腹減った。


そう思いながら歩き出したのだが、後ろから俺に近づいてくる足音が。


「あなたが、ジオ・パラケルスス・ラ・テオフラストゥス?」


その声に振り向いてみると、そこには気の強そうな女の子が腕を組んで立っていた。


鼻筋の通ったきれいな顔立ちの女の子で、同年代の女の子にしてはすらりと背が高く、ナチュラルウェーブのブロンドの髪を後ろに流したおでこちゃんだった。


「え~あ~うん。まぁ。」


彼女は、俺の顔をまるで値踏みするような目で見てくる。何だこいつ。


「そう………、あなた、まるで女の子みたいな顔してるのね。


それに本当にすごい髪の色と、あと………不思議な目の色ね。確かに。



まぁいいわ、私の事はもちろん知ってるわよね?」


ん~、あなたはどこの自意識過剰さんでしょうか?


ワタシ、アナタ、シラナイアルヨ。


それに俺は男だから、女の子みたいとか言われて喜ぶ男の娘じゃないやい!


「え~と、初対面だし、知ってるはずがないと思うんだけど?


それに一方的に人の名前を呼ぶのは勝手だけど、いささか礼儀がなってなくないかい?」


初対面の人にはまず丁寧な挨拶から。


社会生活のいろはの い ですよ!



至極まっとうな俺の返事だったはずなのだが、その言葉に目の前のおでこちゃんは露骨に表情を変えた。


まるで俺に摑みかからんばかりの勢いだ。


「そう!そんなところまであなたは『おちこぼれ』なのね!


自分の『元・許嫁』の名前も知らないなんて!


いい!覚えておきなさい!


私がクリスティン・アレシエル・ラ・サーペンディアよ!」


そういい残すと彼女は、ふん!といった感じで俺に背を向けて行ってしまった。



………え~と。許嫁?そんなもん聞いたこともねえよ!


父上!どうなってですかぁああああああああああ!



◇◆◇◆◇◆◇◆



あ~もう、衝撃の事実でしたね、まったく。


今まで許嫁がいたなんて俺聞いたこともなかったわ。


まぁ一応うちも貴族だからなぁ。いてもおかしくはないわな。


そういえば俺のお披露目をやる、やらないで、昔母上の父上、つまり俺のおじい様がうちに乗り込んできたことがあったな。


毎年2度程、俺の顔を見に来てくれる気のいい爺さんだ。


それだけにあの時はなんであんなにもめてんだ、と不思議に思ったもんだが。

小一時間、両親と大声で話してたのは知ってるけど、最後は仕方ないって笑顔で俺の頭撫でて帰っていったんだよな~、おじい様。


まぁ貴族的な生活とか俺には面倒なだけだし、父上にはどうせ私が初代の新興貴族だから、俺は家を継ぐことなど考えなくていいって言われてるし。


一応貴族としての作法なんかはちゃんと一通り仕込まれてるから、もし家を継ぐことになっても問題はない。


まぁ許嫁とか、俺にはマリエルがいるし、どうでもいい話ではあるんだが。


さすがにあの剣幕はビックリする。


何か事情でもあるのか?あとで父上に念話で聞いてみるか。



まぁそれよりもまず飯だ。上手い飯こそ明日へのエネルギー源だ。


寄宿舎に戻った俺は、自分の部屋には行かずそのまま食堂に向かった。


そこは大学の学食を思わせるような大きな部屋で、立派で大きな樫の長テーブルがいくつも並んでおいてあった。


お~~~、Oリーポッターみてぇ、と俺が驚いていると、また後ろから声をかけられた。


「おい、そこの平民。道を開けろ、どけ。」


その声は子供にしてもかん高い響きを含んでおり、その言葉の内容とあいまって俺の神経を猛烈に逆撫でした。


「おい、貴様!聞いているのか?」


「………何か?」


そう声を抑えながら後ろを向くと、そこにいたのは白い豚だった。


丸々と太った豚みたいなガキ。


仕立てのいい服を着た直立二足歩行の豚が、人間の俺を睨みつけていた。


「貴様!平民の分際で、この私を無視したあげく、その物言いは何のつもりだ!」


ふむ、本格的に死にたいらしい。

俺はいつも狩りを始めるときに感じる、あのスイッチが変わる感覚を覚えていた。


殺すか?


ほぼ反射的に、護身用に持ってきた手のひらサイズの短剣を摑む。


どうにもこういう馬鹿だけはキライだ。

本当なら事を穏便に済ますほうがいいのだろうが、何故かまったく我慢できる気がしない。


「貴様!もう許せん!ティリス!かまわん!やってしまえ!」


子豚がそういうと、後ろに控えていた栗色の髪の女性が、申し訳なさそうに俺に頭を下げてから、腰からショートソードを抜いて切りつけて来た。


彼女の首には、あの『従属の首輪』。


それにボブカットか。俺好きなんだよねあの髪型。


そして豚のほうは、なるほど馬鹿貴族か。


そんな事を思いながらも、俺は彼女の剣をかわす。


どう見てもためらいがちに剣を振っていることもあり、俺の力を持ってすれば目をつぶっていても避けられる代物だった。


それにしてもここは学生寮の食堂の入り口で、今日が入学式ってこと分かってんのか? この豚。


当然回りは騒然とし、野次馬達が危険のない距離をとりながら集まってくる。


中には状況のやばさに気づいて、教師を呼びに行ってくれた人もいたようだ。


まぁあの豚をバラすのには躊躇はないのだが、この奴隷のお姉さんに罪はないし、さすがに入学初日にこれから3年間お世話になる食堂の入り口を汚すのもアレなので、反撃せずにかわし続けていると、やがて鋭い声が俺たちにかかった。


「双方そこまでだ、ベテン、そちらの少年も」


その声の主は、12歳にしてはあまりにも落ち着いた雰囲気を持った黒髪の少年で、間違いなく良家の子弟であることを感じさせた。


「この男が失礼した。すまないが君の名前は?」


「君も貴族なら、先にそちらが名乗るのが礼儀だろう?」


そう俺が返すと、豚は泡を食ったようにわめきたてようとしたが、少年は苦笑いして俺の軽く頭を下げ名を名乗ってきた。


「失礼。私の名は、ヘルガー。ヘルガー・ブライトス・ラ・エンデルフォンだ。


そうか………黄金の髪に紫水晶の瞳、君がテオフラストゥス家の一人息子か。


確か………。」


そういって俺の名前を思い出そうとしているヘルガーという少年。


その後ろではベテンと呼ばれた豚が、俺が貴族だと知ってオロオロし始めた。


マジでバラしたい。


そしてどうやら、先ほどのおでこちゃんといい、俺が知らないうちに俺の名前はずいぶん有名になっているらしい。なんでだ?


「ジオ。ジオ・パラケルスス・ラ・テオフラストゥスだ。


で、なぜ君は俺の名前を知っている?

そして何故俺がテオフラストゥス家の一人息子だと分かった?

先ほどからの度重なる無礼への謝罪の代わりに答えてもらおうか?」


その俺の言葉に何か耐えられなくなった豚が、俺に食って掛かってきた。


お前は人間の言葉をしゃべるな。豚小屋で糞でも食ってろ。


「貴様!成り上がりの家の息子の分際で!

ヘルガー様は代々エルトリンの宮廷魔術師を輩出するエンデルフォン伯爵家のご子息だぞ!


貴様ごとき成り上がりの男爵家の息子が、よくもそんな口を………。」


豚が唾を撒き散らしながら長口上を続けたいようだったが、それを止めたのはヘルガー少年だった。


まぁそれ以上続けていたら、俺が息の根ごと止めていたがな。


俺が成り上がりの息子なら、お前は二足歩行の豚だろうが。


あと俺だけでなく、うちの家にも喧嘩を売ったな? 今。


「黙れ、ベテン。


わが国の英雄たるフィリップ・パラケルスス・ラ・テオフラストゥス殿に対して、貴様は今なんと言った?事と次第によっては私が貴様を許さんぞ?


済まない、この男の非礼を許してやって欲しい。


そして君の質問への答えだが、君は有名人なのだよ。


英雄、フィリップ・パラケルスス・ラ・テオフラストゥス男爵の一人息子は、社交界にも宮廷にも一度も姿を見せないテオフラストゥス家の秘蔵っ子だとね。


『テオフラストゥスの隠れ子』。それが君のエルトリン貴族の間での通り名なんだよ。」


なるほどな。あとで父上に聞くことが増えたな。


今日はこの少年の顔を立てるのが正解か。


豚はバラしたいが、しかたない。


そう思ったらスイッチがまた切り替わる感覚がして、自然と俺は戦闘態勢を解いた。


「疑問に答えてくれてありがとう。俺はもう行ってもいいかな?」


「あぁ、また。私達は同級生だからな。」


ではまた、と返して俺は食堂から自室への廊下を歩いていった。


それにしても少なからず俺の殺気を浴びていたはずなのにな、あの少年。


よく平気だったな。


ん?豚はって?ああゆう馬鹿には、殺気に気づくっていう高度な神経がないだけだ。


それにしても、ヘルガー少年はともかく、あの自称元・婚約者や何故か人間の学校に紛れ込んだ豚と同級生か。


う~ん、登校拒否でもするか?


そんなことを考えながら俺は自室へと戻っていったんだが、その時は後ろから俺を見ていた視線にまったく気づかなかった。


あの頃のあの子にちゃんと見えてたかは、かなり微妙なんだけどな(笑)。




さてと、飯よりも先に父上に尋問だ。


念話じゃ埒があかんな。


まったく入学初日から家に帰る事になるとは、思いもよらなかったぜ。


………腹減った。

お読みいただきましてありがとうございます。

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