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ニューワールド  作者: 池宮樹
ある男の回想 前世から幼年期まで
14/46

閑話 大人たちの回想録

お初にお目にかかる。


私の名前はフィリップ・パラケルスス・ラ・テオフラストゥス。


エルトリン国のワトリアという街の魔法ギルド『導きの英知』のギルドマスターにして、科学と魔法の境界を歩むもの、真理の探求者、『アルケミスト』である。


まぁ私自身の事などどうでも良い事だ。



今日は私の自慢の息子の事について聞いて欲しい。



私は昔冒険者をしていたのだが、エルトリン国のためにいくつかの大仕事を成し遂げた事により貴族に取り立てられ、縁あってワトリア地方の貴族の令嬢を妻に迎えた。


彼女はそれはかわいらしい人で、仕事にも恵まれ、私の人生は幸せそのものであった。


ただ一つ。子供が授からないことを除けば。


私自身はそこまで子供を作ることには固執していなかった。


ただ愛する妻が幸せそうにしてくれていればよかったのだ。


そして妻は私との子供を望んでくれた。


私は様々な文献や研究結果を当たり、効果のありそうなものをいろいろ試してみたが、なかなか妻は懐妊する気配を見せなかった。



そんなときである。


妻が夢を見たというのだ。


「あなた。かわいらしい神様が、私達に赤ちゃんを授けてくださるそうです!」


彼女はうれしそうに私にそう告げた。


神様?確かにこの世界には多くの神が存在するが、神が子を授けてくれるなど………。


そんな話は御伽噺の時代の英雄たちの話の中でしか聞いたことが無い。


その時私は愚かにも、妻の話を妻の願望が見せた都合の良い夢だと判断した。


そしてその夜、妻と私はいつものように愛し合ったが、その後私はその予言のことを忘れてしまっていた。



そして数週間後、自室で仕事中だった私は忠実な執事であるサバンの声で、福音を告げられる事になる。


「旦那様!」


「何事だ、サバン。お前ともあろうものが騒がしい!」


「旦那様!落ち着いておられる場合ではございません!


奥様がどうやら御懐妊とのことでございます!」


これを聞いたときの私の喜びはどうか察して欲しい。


ずっと妻が望んでいた私との子供が授かったのだから。


科学の徒であり、アルケミストである私が、跪いて全ての神々に感謝の祈りを捧げたほどだったのだから。


そしてその後になって気がついた、いや思い出したというべきか。



私たちは神の子を授かったのだと。




そして数ヵ月後生まれた息子が、私の自慢の息子、ジオ・パラケルスス・ラ・テオフラストゥスだ。


この子は生まれる前から、そして生まれた瞬間からずっと私の度肝を抜き続けてくれる事になる。


まず妻が見た夢で告げられた、神から授けられた子という事。


そして生まれた我が子の、うっすら開いたまぶたから見えた瞳の色を見て、私は情けない事にその場で腰を抜かしてしまった。



紫水晶色(アメジスト色)の瞳。


これはありえない。


この瞳の色は我らアルケミストにとって、絶対にありえないものなのだ。


歴史上分かっている、この瞳の色をした人物は、ただ一人だけ。



ヘルメス・トリスメギストス。



かの伝説の錬金術師の王だけなのだから。



この時私は確信した。


私達は本当に神の子を授かったのだと。


何よりも大切に愛を注ぎ、そして私達がその翼を広げるのを妨げないように育てなくてはいけないと。


私はこの時それを、名も知らぬ神に感謝の祈りともに誓った。



その後、まぁでるわでるわ、我が子の非常識についてはまったく尽きる事を知らん。


たった6歳でファイヤーボールの魔法を成功させるわ、教えたばかりでポーションの作成をいとも簡単に習得するわ。

7歳になったばかりで初の実戦をやらかし、さらには冒険者登録まで………。


挙句の果てに魔法職としての才能だけでなく、戦士職としての才もその小さな体に備えていると聞いた時には比喩でもなんでもなく、あごが外れるほど口を大きく開けて呆然としてしまったほどだ。



まったく、あの子の異常さに関するエピソードなら、それこそ1週間語り続けても語りつくせぬほどである。



しかしそんなことは全てどうでも良い。


私達の子は。聡明で勇気があり、そして何よりもやさしい心を持っている。


これだけで十分だ、これ以上なにを望むのか。


親の贔屓目と呼ばれようとも、これ以上の息子はこの世界に存在しないであろうと、私は声を大にして言いたい。


あの子は私達夫婦のみならず、世界に幸せを運ぶ為に生まれたのかもしれんな。


本当に困った、本当にかわいい我が息子。


さぁ今日もメイドのマリエルに連れられて、息子が朝食の場にやってきおった!


「父上~母上~おはようございます!」


さぁ我が愛しの息子よ!さて今日は何をしてこの父を驚かしてくれる?



◇◆◇◆◇◆◇◆



若様のことについてでございますか?


そうですね、少しならお話してもよろしいでしょう。


失礼、私の名前はサバン・トランド。


テオフラストゥス家にお仕えする執事でございます。



そうですな。若様がお生まれになった日の事は、今でも昨日のように覚えております。


奥様が歓喜の涙を流され、旦那様はお喜びのあまり、腰を抜かしてしまわれるほどでございました。


この時の旦那様の事については、秘密でお願いいたしますね?



その日お生まれになった方が我らの若様であるジオ様でございます。


ジオ様は、幼いころより輝くようなと形容するしかない金色の御髪と、見たことも聞いたこともない紫水晶色の瞳をお持ちになった神々しいほどにおかわいらしいお子様でした。


またその見た目の麗しさにもまったくひけをとらぬほど利発な方で、それでいて何より大変におやさしい方でございました。


他の貴族のご子息に残念ながらよくあるような、使用人に対する乱暴な振る舞いなど、私が知る限り一度たりともございません。

それどころか、私ども使用人が若様に何かさせていただこうものなら、毎回きちんと「ありがとう。」と言ってくださるようなお方なのです。


私の経験上、そのような貴族の若君のお話は聞いたことがございません。



そしてこれは旦那様から口止めされていることですが、若様は『天才』であらせられました。


たった6歳で魔法を習得され、家のものでも私とご両親、そしてイナ殿しか知らぬことですが、戦士職としての才能も持ち合わせてらっしゃったのですから。


そんな方は、神話の時代に数人いたらしいというだけ。


しかし若様の才能は、そこでとどまるところではありませんでした。


なんと街の道具屋であるブエロ殿と、7歳にしてポーションの売買契約を結んでこられたのです!


私はその売上金の管理を任されましたので、その凄まじさを他の誰より存じております。


このポーション販売によって若様は3年間で、5万Gもの大金を手にお入れになったのですから。


そしてそのお金をなんにお使いになるのかと思えば、


「将来に備えて従者になってくれる人を買う。」


これでございました。


驚かぬものなどなかったでしょうが、逆に私はストンと納得してしまいました。


あぁ、この為に若様はあのような大金を貯めてらっしゃったのだと。


その後の事は、良くご存知でしょう?


まぁ今日のところはこの辺にしておこうではありませんか。


なんですと?何か若様の子供らしいお話はないか、ですと。



………絶対に他言無用に願いますよ?


若様は幼いころより、女性の添い寝を大変お好みになられました。


若い女性の使用人達は皆、一度は若様の添い寝をした事があるはずでございます。



このお話には続きがございましてな。


若様専属のメイドとしてお屋敷にあがったマリエルだけには、若様は断固として添い寝をお望みにならなかったそうです。


………理由を聞いた者によると、「マリエルに添い寝してもらうのは、どうしても恥ずかしい。」と。



これが我らの若様のおかわいらしい一面でございますよ。



◇◆◇◆◇◆◇◆



ん?私に何か用か?


私の名?イナだ。イナ・サラシス、元冒険者だ。


ん?ジオの話を聞きたいだと?


………まぁよかろう。話してやろう。


私が始めてあの子に会ったのはあの子が8歳から9歳になる直前のころの事だったかな?


その前の私は冒険者をやめ、ワトリアから歩いて一週間ほどのところにある農村で、用心棒兼、読み書きなどの教師をやっていた。


そんな中ある日、突然昔なじみのフィリップ殿より手紙をもらったのだ。


手紙にはこうあった。


「私の息子を鍛えて欲しい。見守ってやって欲しい」と。


それをみた時、私はおかしなものだと感じた。


フィリップ殿の息子なら間違いなくその才能は魔法職のもののはず。


何の間違いかと思ったが、ちょうど教え子の一人であったマリエルが街に出て働き口を探すといっていたので、彼女を送りがてら久々にワトリアに向かった。


そこで待っていたのは輝くような金色の髪と不思議な紫水晶色の瞳を持った少年と、今までの常識との決別だったな。


ジオ、あの子には私の常識というものがまったく通用しなかった。


たかだか8歳や9歳で、既に冒険者であり、さらに信じられなかったのが戦士職と魔法職の才能を両方持っているだと?そんな人間聞いたことも無い!


そして私から見ても、あの子の動きは未熟な冒険者のそれではなく、熟練のそれを思わせるものであった。


それからの私は………、まぁ隠さず言えばあの子を鍛える事に熱中した。

自分の全てをあの子に注ぎ込んだといえる。


まぁ、飲め。一杯おごろう。


あとは………そうだな。


そういう才能の面を除いても、あの子は異常な子供だったな。


私が伴ってきたマリエルを、その場で自分専属のメイドとして雇ったり、ポーションを作ることで大金を既に手にしていたり、まぁいろいろあったが一番度肝を抜かれたのは、『年端もいかぬ奴隷を、計画的に将来の従者として育て上げる。』、この発想だな。


今まで誰もそんな事を考えたものはいなかっただろう。


なんとなくそうなっていた、ということはあっただろうが。


おかげで私は今子守の真っ最中というわけだ。


まったくあの子のおかげで、今の私の人生は退屈している暇もなくなってしまったよ。



………あぁ、効いてきた様だな。何、先ほどくれてやった酒に、ジオ特製の痺れ薬を仕込ませてもらっただけだ。


さてと、屋敷に帰ってからゆっくり聞かせてもらおうか?


どこの誰の指図かをな。



………まったく、ゆっくり酒も飲ませてもらえんらしい。困った弟子だ。

ご意見、ご感想、誤字脱字の指摘など幅広くお待ちしております。

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