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ニューワールド  作者: 池宮樹
ある男の回想 前世から幼年期まで
13/46

第十二話 胃痛と契約書

ポーション500個作成完了!ジオだ。


にしても徹夜明けには、今日のお日様は眩しすぎる………。


まぁ昔は3徹、4徹当たり前でやってたんだが………。


ふ、俺も軟弱になったもんだ………。




まぁそんな事はさておいて、あの念話での連絡から4日後、シランたちが無事ワトリアにやってきた。


街の入り口まで出迎えに出たじぃの乗った馬車を先頭に、大きな二頭引きの幌馬車が3台。


二台目の馬車の御者台に座っていたシランが、すばやく降りて俺のところに向かってくる。


にしてもこうして太陽の下で見ると一段と男前だな。

薄い茶色の髪を光がすり抜けてるように見えるので、無駄に神々しい………。


どうも人間性と容姿の端麗さは比例しないらしい、残念だ。


そんな事を考えながらこちらに歩いてくるシランを見てたら、シランの乗っていた幌馬車から赤い髪の少女が二人仲良く飛び出して、俺のところにやってきた。


「ご主人様!」


完璧なユニゾンで俺の事をご主人様と呼ぶ赤い髪の美少女二人………。


まぁ元気になったようで何よりだ。


「アリア、久しぶりだね。

エリアも元気になってよかった、心配していたから。」


「ありがとうございます、ご主人様!

すべてご主人様のおかげでございます。


エリアもアリアともども末永くかわいがってください!」


こちらがエリアなのだろう、俺から見て左側にいた双子の片方が爆弾発言をすると顔を真っ赤にして俯いた。


いや、かわいいんだけどね?

見た感じ7歳か8歳くらいなのにすごい賢い感じがするし。


アリアは俺の事をず~と見てるし、エリアはたまに顔を上げて俺を見てはすぐ俯くってのを繰り返してる。


う~ん、俺は男二人の兄弟の末っ子だったし初めての感覚だけど、妹が出来たらこんなもんなのか?


なんか腋の下がむずむずするわ。


そして何かうれしいかも。



初めての感覚に我ながらどうしていいかわからなくなって、とりあえず二人の頭を撫でてからシランのところへ行くことにした。


「シラン。」


「これはこれは、わざわざのお出迎え痛み入ります。


早速ですが、こちらがご依頼の品でございます。



………ですが本当によろしいのですか?」


俺はシランに頼んでいた品物を確認してからその声に応える。


よし注文どおりだ。さすがシラン、いい仕事だぜ。


「後悔なんてしないよ?


それにシラン。こっちのほうが面白いでしょ?君的に。」


そう俺が言うと、にっこりとあの笑顔を浮かべたシランがそこにいた。



そういう風にシラン(腹黒で一発変換できると思うんだよね。)と話している間にも、彼の肩越しに見える馬車の陰から視線を感じた。


こちらが気づいてるのに気づかれないようにそっと見てみると、馬車の幌からひょっこり顔だけ飛び出すような感じで、フードをかぶった銀髪の少女と、薄いブラウンの髪からネコ耳が出ている女の子が俺のほうを見ていた。


シルウィとリューネだ。


どうやら俺の事を警戒しているらしい。


何気ない風を装って目を合わせてから笑顔で手を振ったら、二人とも驚いた顔でまた馬車の陰に隠れてしまった。



う~~ん、嫌われてるらしい。


俺は昔から子供好きだったから(変な意味じゃなくな。)ちょっとへこむ。


まぁこれからだな、これから。


ん?一人いなくないか?


あ、テトだ。


俺が知らない大人の奴隷達と一緒にいるところを見ると、後ろの馬車に乗っていたらしい。


俺に気づいてこちらに駆け出してこようとするが、荷物を降ろす仕事で捕まったのか、俺に申し訳なさそうに頭を下げて仕事に戻った。


うん、話はあとでゆっくりすればいいさ。


そうこうしてる内に荷降ろしなどの作業も終わったらしい。


総勢9人の奴隷達とシランが俺の前に跪いた。


………そういうの俺あんまり好きじゃないんだけどなぁ………。


これもおいおい改善しなきゃな。胃に悪いわ。


さてと、その辺はひとまず置いといて。



じゃあまずは挨拶からかな?



◇◆◇◆◇◆◇◆



俺と奴隷達のひととおりの挨拶が終わった後、渡しておいた金の残りで護衛の人たちに一杯やってもらうように言って、俺はまずみんなを連れてまず俺の住んでる家を案内した。


ついてきているのは、じぃ、シラン、テト、アリア、エリア、シルウィ、リューネと農園担当の4人だ。


男女2人づつの農園担当の4人にもさっき挨拶を受けた。

前の時は一杯一杯でちゃんと顔を合わすこともできなかったけど、全員まじめそうな人たちで合格。

何でもエルトリン北部地域の農民の子供だったらしいのだが、不作でどうにもならず奴隷として自ら身売りをしてきた人たちだったらしい。

みんないわゆる男前や美人ではなかったけど、非常に好感が持てる人たちだった。


さすがシラン。

それにしても何で俺の人物評価の基準が、一度顔を合わせただけの彼に分かるのか謎だ。


やっぱり妖怪なんだろう。そうに違いない。


そう思いながらふと振り返って奴を見ると、極上の笑顔で俺を見てやがった。


但し目が笑ってねぇ。やっぱり妖怪のようだ。マジコエエ。


テトもさっき4人と一緒に挨拶してきた。


「ご主人様!ありがとうございました!今日からお世話になります!」って言われたんだが

、俺的にはこういう反応が望ましいから頭撫でてやった。


前の時も思ったが、なんか子犬みたいでかわいらしい奴なんだよな。


そして先に言っておく。俺には勿論ショタっ気はねぇ!



閑話休題



まぁ案内するにもうちは広い。

うちの敷地にはマジで東京ドームが何個も入るくらいの広さがあるんだ。


敷地の中には小さな森や泉まであるし、俺が10歳児とはいえ、敷地の入り口にある門から屋敷まで、普通に歩けば10分以上かかるからな。


ということで俺たちは今馬車で屋敷の前まで移動して、みんなに見てもらったら、みんな口を開けて唖然としてた。


普通に豪邸だからな。

こっちで生まれて初めて母上に抱えられておもてに出た時、俺もそのあまりのでかさにびっくりしたしな。


平気なのはシランだけ。まぁ奴が初めからこんなことで驚くとは思ってないけど。


「ふぁ~おおきいにゃ~。」


「確かに大きい。」


猫人族特有の話し方で、驚きを隠せずにいるリューネ。


その後に話したのはシルウィ。冷静な口調だが、こちらも十分驚いているらしい。


そんな二人に俺は声をかけた。


「みんな、そんなに驚いてばかりいてもらっても困るよ。


テト、アリアとエリア、シルウィにリューネは今日からここに住んでもらうからね。


あぁ、4人にもちゃんと家を用意してあるよ、男女別に二軒。


もし、気に入らなかったら部屋も余ってることだし、こっちでもいいけどね。」



ん?空気がおかしい。何かまた変な事を言ったらしい。


こんな立派なお家に住むなんて無理です!とか、うにゃ~こんなところ怖くてすめないにゃ~とか、物を壊したら大変。とか、みんな驚きを通り越してパニックだ。


この程度で驚いてたら、俺と付き合うのは無理なんだけどなぁ。


「さてと、みんな中を見るのは後にして農園予定地のほうへいくよ~。」



俺の今の気分は、さしずめ観光のガイド役だ。


次はOOへ参りますってか?



俺が次に案内したのは、屋敷から10分ほど歩いたところにある場所だ。


近くに小さな泉があって結構俺のお気に入りの場所。


そこに建っているのは、二つの家に、作業場と風呂、そしてトイレだ。


おとついまで作業をしていた大工さん達がいたが、彼らは既に引き上げている。



「ここが4人に生活と仕事をしてもらうところ。


家は男女別に住んで。お風呂も好きに使ってね、清潔にしないと病気になりやすいから。


それでトイレはここですること。」


「あの、ご主人様。よろしいですか?」


4人のうちの一人、実直な顔付きの男が俺に話しかけてきた。


確か名前はジトーだったかな?


「何?」


「私達はご主人様に奴隷として買われました。」


「そうだね。」


「ですのに、何故こんなにも私たちの為にいろいろしてくださるのでしょうか?」


ん~意味分からねぇ。誰か通訳!ということでシランのほうを見る。


アイコンタクト、一瞬で意思疎通。こういうときだけ楽だな!


「そうですね。確かにジオ様のなさっている事は、奴隷にとってはあまりに過分のご配慮ですので、例の件も含めてこのあたりで皆にご説明なさるとよろしいかと。」


ん~そんなに異常か?

俺自身はどうせ働いてもらうなら効率よく、そして気持ちよく働いてもらいたいだけなんだが。


まぁもう少し落ち着いてからのつもりだったけど、そろそろ話をするか。


「じゃあ疑問に答える代わりに、俺からみんなに大事な話がある。


そうだね、ここでいいか。シラン、あれを用意しておいて。」



◇◆◇◆◇◆◇◆



俺がシランに頼んでおいたもの。それは『ミウラの契約書』だ。


それが今俺の目の前にいる9人の目の前においてある。


『ミウラの契約書』とは『契約神ミウラ』によって祝福を受けた契約書。


『契約神ミウラ』は《New World》の世界における神の一柱にして、天秤と鉞を持つ契約神であり、公式設定では、この契約書で誓約された契約は魔法的拘束力を持ち、必ず履行されるとある。


さてなぜそんなものが存在するのか?


なぜなら、MMORPG《New World》にはプレイヤー間の揉め事防止、または解決の為に、この『ミウラの契約書』と『契約書システム』が存在したからである。


例えば、あるプレイヤーに高額アイテムを貸していたが、いつまで経っても返してくれず、挙句これは自分のものであると主張。

プレイヤーは当然運営に訴えて問題の解決を図る。


もしくは、あるプレイヤーにお金を、それも大金を貸していた。

しかし、そのプレイヤーは原因は分からないが、いつの間にかゲームに来なくなってしまいお金は戻ってこない。


こういった出来事は、MMORPGの世界では頻繁に見られるトラブルである。


もちろんこういった事は基本的に自己責任なのだが、損害を受けたほうとしてはなかなかそう割り切ることも出来ないわけで。


そして、後発MMORPGである《New World》がこの問題にあらかじめ対策をうっていないわけがない。


その対策の一つが、この『契約書システム』なのだ。


これはプレイヤー同士が取り決めをウィンドウ画面で書き込み、もし万が一トラブルになった場合の判断基準の大きな参考にする。


最初の例なら、取り決めを破った場合アイテムを強制的に貸した側に移動。


2番目の例の場合、あらかじめ何日以上帰ってこなかった場合、強制的にお金の移動を行うなどだ。


実際この『強制執行』に至るまでに、他の様々なシステムやサービスによって問題の解決が図られるが、約束事の文書化と、万が一の場合の強制執行という安全ネットは、良心的なプレイヤー達にはどちらかというと好意的に受け取られていた。



さて、ここで今現在の『《New World》に限りなく近い現実世界』での『ミウラの契約書』の効力はどうなるのか?


答えは簡単。


『契約書にかかれた誓約は履行される』


これである。


つまり契約書を書いたが最後、どうやっても逃れられないのだ。


しかし契約神ミウラは非常に厳格ではあるが、慈悲深い神でもあるので、一方の意思のみによる悪意ある強制的契約に対しては、逆にその愚か者に断罪の鉞を振り下ろす。


まさに公式設定通り。


そこに俺が今回書き込んだ内容は以下の通り。


『ジオ・パラケルスス・ラ・テオフラストゥス(以下主人)はOO(各自の名前が入る。)に対して以下の権限を持つ。


一つ 主人の望む仕事に従事させる権利。


一つ 主人と彼が関係者と認めるものに対する暴力的行為の一切の禁止。


一つ 主人の仕事や主人との関係から知りえた情報の関係の無い人間への漏洩の禁止。これは主人の元を離れても、この誓約は解除されない。


一つ OOはその行動が主人の不利益にならないように心がけ、主人の為に誠実に仕事を行うことをここに誓う。


主人はOOにたいして以下の義務を負う。


一つ OOに対して年間500Gを支払う。


一つ 主人はOOに不必要な暴力を振るってはならない。。


一つ OOが10000Gと引き換えに、その身の自由を欲した場合、主人はそれに応じなければならない』


まぁ大まかにはこんな感じだろう。


要するに俺が結びたいのは、奴隷契約ではなく、雇用契約だってこと。


自主的に働いてくれるほうが絶対に能率がいいし。


その為にシランにこれを用意してもらったわけだ。


ちなみに解放奴隷制度って発想は、古代ローマ時代には普通のものだったらしい。

古代ローマでは、奴隷だった人の子供や孫が大金持ちだったり、高度な能力を持ち主人に殉じて死ぬ奴隷とかいたそうだ。


自分の自由を買い戻す為なら、人間がんばるだろ?

それに最低でも20年(1万Gを払うのにってことね)ってことにしてあるが、仕事ができる人には少しずつ報酬を上げるつもりもあるし。


つまり、俺はできるだけ人間らしい職場で、人間らしく働いて欲しいんだよ。元日本人としてはさ。


正直、奴隷なんて俺はいらねぇ。




あ~~~~~~~やっとコレで少しは胃の痛いのから開放されるぜ!




「ということで、意味が分かったらサイン頂戴。


内容とか字の書き方が分からない人は言ってね、教えるから」



しかし誰もピクリとも動かない。


あれ~~~~?またですか?


そうやって俺が後ろを振り返るとやっぱりな。


シランだけが、すさまじく、ニヤニヤ、してやがる!


ムカツク!こら!通訳しろ!


俺の目配せ。シランの了解。


そして死ぬほどやばい笑顔。



………最高にイヤ過ぎる予感。



そしてこの後、案の定俺は後悔することになる。この時、この男に話をさせたことを。



まったく妖怪め!



「よかったな!お前達。


お前達は、幸運にもこの世で一番すばらしいご主人様に、お買いいただいた奴隷だったというわけだ。


他のどこに奴隷の為の住まいを整えてくれる方がいる?


他のどこに奴隷の権利を気遣ってくれる方がいる?


他のどこにお前達自身の自由を買い戻す事に、そのお心を砕いて誓約してくださる方がいる?


そう、そんな方は目の前のこのお方以外にはいない。


跪け!この方こそがお前達の主。


ジオ・パラケルスス・ラ・テオフラストゥス様である!」


その声に7人のヒューマンの奴隷たちがそろって俺に平伏した。


残る2人、まずリューネは最初意味がよく分からなかったのだろう。


回りをキョロキョロ見回して、自分ともう一人を除いて自分だけが平伏していない事に気づき、急いで同じようにした。


そしてもう1人、ダークエルフのシルウィはどうしても信じられないのか、最後まで俺のほうを見てポカンと口を開けていた。


美少女が台無しなんだが、その時の俺には突っ込む余裕はなかった。




その時の俺の気持ち?聞かないでくれよ………。


思い出すだけでしくしく胃が痛くなるんだよ………。




その後の事はあまり覚えていない。


とりあえず全員分の契約書を受け取り、相変わらすよくわけが分かっていないリューネを除く全員の『絶対』の忠誠を、俺はいつの間にか手に入れたらしい。


俺は、俺の想定していた状況とのあまりの落差に、その後すぐに逃げ出した。


部屋に閉じこもりましたとも!久々に!



まったく!あの野郎は!なんでいつもいつも!俺の胃に!厳しい事ばっか!するのかね!!


胃痛持ちの10歳児とかおかしいだろ!まったく!




この後、俺のポーション研究に、胃薬が加わったのは言うまでもないよな?

ご意見、ご感想、誤字脱字の指摘など幅広くお待ちしております。

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