第十一話 おみやげと準備
ワトリアよ!俺は………やめとこ。
エルトリンシティからやっと帰ってきたジオ君です!
あの胃が死ぬほど痛くなった日から11日!ようやく帰ってきました!
まぁ理由はあまりに脳みそが高速回転したせいか、すげぇ熱が出てそれが引くまで家に帰れなかったんだよ。
知恵熱なんて生まれて初めてです。都市伝説かと思ってたわ。
ゲートを使って俺だけ帰るって手もあったんだけど、父上が「私が看病するのだ!」って言いだして、結局エルトリンシティにさらに7日滞在する事になった。
3日目には熱も引き、5日目には体も元通り動くようになったんだが、父上が心配してなかなかベッドから開放してくれなかったから、俺はもっぱらこっそり隠れて『念話石』を使ってシランといろいろ話をしていた。
シランの話では、エリアちゃんの容態は安定してきており、他にも同じ症状だった数名の奴隷も命を取り留めたとの事で、俺としては本当に良かったと思った。
その他にも『奴隷市場』の主人(シラン曰く「見た目が少し豚に似てらっしゃるのが大変残念なのですが」だそうだ。)が
「わしが楽しみに取っておいたモノまで売ってしまうとは!」とか
「しかし、これだけの上客の獲得の為なら仕方ないのか………。」とか
言っていたことも教えてくれた。
まぁ初めての客なのに、3万G(日本円で3000万くらい。日本なら一軒家が買えるなぁ)近く一気に使ったからな、俺。
それにしても間一髪だったのか? どうも彼の今の主人は、自分の商売モノに手を出す大馬鹿者らしい。
今となっては俺の買った子達に指一本触れさせるつもりはない。絶対に。
あの子達はもう俺の身内だからな。
他にも俺の依頼の品が既に用意できた事、約一月後にシラン自身が護衛隊を率いてみんなをワトリアに連れてきてくれることになった。
父上にも奴隷購入の顛末について(大事なところはぼかして)話した。
元々俺が今回のエルトリンシティ訪問で、将来の為に従者が欲しいって言ったら父上も母上も大賛成してくれたので、今回俺は何の心配もせずに彼らを買いに行くことが出来たのだ。
10歳で奴隷を買いに行く息子を誉める両親ってどうなのよ………とも思ったが、
元冒険者でもあり、自身が俺が目指すアルケミストでもある父上は、前衛役の必要性からいい考えだと俺の考えを絶賛してくれたし、
母上は危ない事ばかりしている俺を忠実に守ってくれるなら奴隷でも悪魔でもいいとか、怖い事を言ってまったく反対しなかった。
今回の件、実は俺が考えていた最大の難関が『両親の許可』を取ること。コレだった。
その最難関が実はウェルカムで、あっさり行き過ぎたのにはさすがの俺もビックリした。
うちの両親は本当に親バカだと思う。
あまつさえ俺が用意した金で足りないといけないからって俺が用意した金以外に、さらに5万Gをじぃに渡していたのには、さすがに呆れた。
ありがたいね、親って。
そして前の世界の父さん母さんごめんな。親孝行できなくて。
………たださすがに従者候補だけで5人、しかも全員年端のいかない子供というのは予想をはるかに超えていたらしく、話をした時には唖然とされたが。
閑話休題
そしてようやく6日目に体が治った事を、しつこいくらいに父上に確認された上で外出許可をもらい、父上たちと一緒にエルトリンシティの商店を見て回った。
父上大フィーバー。マジで一日中連れ回された。
父上と俺は共同でまず母上へのおみやげを選び、その他にも家の者たちへのおみやげを。
そして俺はもちろんこっそりマリエルのおみやげを買った。
喜んでもらえるかな。喜んでもらえるといいな~♪
その様子を見たじぃが
「やっと若様が子供らしいお姿を………。」とかいいながら涙ぐんでいたり、
イナ先生が
「あの子の面倒を見始めて1年………、初めて子供だと思えた………。」とビックリしてたりしたのは見て無ぬ振りをしておいた。
いつもゴメンネ二人とも。
そうしてまた馬車で揺られる事3日、今日ワトリアに戻ってきた。
ん?4日じゃないのか?って。
母上のイライラがピークだとかで、1日分は急いでもらった。
やばかったからな。
本当は俺一人だけでもゲートキーパーで帰るって言ったんだけど、父上に帰りの道中も含めての今回の王都訪問だからダメって言われて諦めた。
街のゲートをくぐり、街の北側にある街の実力者達の住む住宅街に入る。
ちなみに《New World》のゲーム内にはこういう区画は存在しなかった。
厳密には中心部はディスプレイ越しの記憶どおり。
でもその外延部にはなかったはずの路地があったり、食料品を売る市場があったりと、街の形も俺の記憶とは大幅にに変わっており、人間が暮らす都市としてよりリアリティのあるファンタジー世界の街に変化していた事が、最初に俺がこの世界で驚いた事である。
北側の住宅街は一つ一つの区画が半端じゃなくでかくて、それこそ東京ドームが何個も入る大きさであり、もちろんうちの屋敷もその例に漏れない。
馬車ごと門をくぐって家に入る。
敷地の奥のほうで大勢の人間が働いているのは、頼んでおいた奴隷の人たちの為の家の工事が始まっているのだろう。
そうして家の前まで来ると母上とマリエルをはじめとした家の人間が総出で俺たちを迎えてくれた。
やばい、なんか超うれしい。
俺ははじかれたように馬車のドアを開け
「母上!ただいま帰りました!」と、
そういってから母上の胸に飛び込んでいった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
翌朝。
「若様、朝でございますよ。」
やさしい声に目を開いてみると、目の前にニコニコ笑っているマリエルがいた。
あぁ!なんか今回の一連の苦労が全て報われた気がする!
「おはよう!マリエル。ただいま!」
「はい、おかえりなさいませ若様。昨日は良くお眠りになれましたか?」
「うん!起こしに来てくれてありがとう!」
ん~マリエルの顔を見るとなんだかすごく安心するんだよな~。
胸がポカポカしてくるというか。そしてドキドキするというか。
「ではお服をお着替えになりますか?よろしければ万歳してくださいね?」
無理、無理!恥ずかしいから!
「いいよ!いつも通り自分でやるから!」
俺がそう言うとマリエルは少しそのかわいい顔をしかめて、
「若様あちらでお熱を出されたとか?まだご無理はいけませんよ?」
と「め!」って感じで心配してくれたんだが、さすがにもう体は大丈夫だし、そして何より朝から羞恥プレイはつらいぜ!
あ、そういえば………。
「マリエル。あのね。ちょっと大事な話があるんだ。
食事の後でまたこの部屋に来てくれないかな?」
小さく首をかしげて俺を見るマリエル。
「はい、かしこまりました。ではお着替えが終わりましたらお食事に参りましょう。」
さてと、じゃあさっさ着替えないとな。
ただ………。
「マリエル、恥ずかしいから後ろ向いてて!」
◇◆◇◆◇◆◇◆
マリエルに後ろを向いてもらってる間に、戦士系職の能力を最大限に発揮して、高速で着替えた俺が朝食に向かうと、そこには父上と母上が待っていた。
父上は凹み気味で母上のご機嫌をとっているが、母上はまだ機嫌が悪い。
昨日の親子の感動の再会は、熱烈な母上のハグで幕を開けた。
その後みんなにただいま~と言うと、みんな笑顔にうっすら涙を浮かべて、俺たちの帰りを喜んでくれた。
そして、すぐに母上にはおみやげを渡した。
母上へのおみやげはサファイアのネックレス。
母上が飛び上がらんばかりに喜んだので、(「ジオちゃんのプレゼント!ジオちゃんのプレゼント!」と言って喜びまくっていたので、一緒に選んだ父上が哀れだったが)俺もうれしくなってすぐに身につけてもらうと、母上の青い目とおそろいでとても似合っていた。
ちなみに値段は3万G。父上が2万G、俺がかなりごねまくって1万G出した。
これで俺の貯金は運転資金を除けばほぼ0に。我ながらずいぶん派手に使ったもんだ。
だが母上の喜びはプライスレス。後悔とかするはずがない。
そのあたりまではよかったんだが、俺の向こうでの話になったあたりからドンドン加速度的に機嫌が悪くなり始め、病気で倒れた俺の看病を、父上がかっこよく(?)した話のあたりで「それは母親の役目よ!」と大きな声で若干キレ始め、最後に空気の読めない父上が俺とエルトリンシティでウインドウショッピングして楽しんだあたりのくだりで、ついに母上が爆発し。
拗ねて部屋に閉じこもってしまった。
そして一晩経ちました。
そして今に至る。
う~ん、拗ねてる母上もかわいらしいんだが………。
今日は母上と添い寝だな。機嫌とらなきゃな。
そんな事を思いながら帰宅してから最初の朝食のパンを食べる俺であった。
そんなこんなありながら朝食後。
俺の目の前には今マリエルが座ってる。
本当なら少しマリエルに甘えて、マリエル分を補給したいところなんだが、それはいつでもできる。
まぁ結構死活問題ではあるんだが。
酸素がないと人間が生きていけないように!俺にはマリエル分が必要なんだよ!
石投げるな!ロリっていうな!犯罪者じゃねぇ!俺は10歳だ!
不毛だ、話を進めよう。
「マリエル、えっとね。まずこれおみやげ。いつもありがとう。」
そういって俺は腰に下げている皮製のポーチから、ローズクオーツのネックレスを取り出してマリエルに手渡した。
かわいらしいピンク色の石が、マリエルに似合うと思って買ってきたんだ。
おみやげって最初に聞いたときのマリエルの顔はすごく喜んでくれてたはずなのだが、ネックレスを渡したとたん、一瞬すごいうれしそうな顔をしたかと思ったら、その後すごく考え込んだ顔になり、最後には泣き出してしまった。
え?何で?何か俺まずい事したのか?
もしかして気に入らなかったのか?
やっぱダイヤのネックレスのほうがよかったのかな~と、あれこれ悩んでらちがあかないのでマリエルを見たら、マリエルは涙を流して俺のほうを見ながら首を振っていた。
何で?どうして?WHY?
「マリエル!どうしたの?それ嫌いだった?」と俺が言うと
マリエルは涙をこぼしながらもう一度大きく首を振った。
「若様、私は一介のメイドでございます。
お気持ちは大変、この上もなくうれしゅうございますが、いかに私が若様付きのメイドであっても、こんな高価なものをいただくわけには参りません!」
と涙交じりの声で言われてしまった。
あ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~。
そういう方向ですか。
マリエルも堅いなぁ、そこがいいとこでもあるんだけど。
どうやって説得しようかなぁ………。
怒ったマリエルと泣いたマリエルには自分が絶対かなわないことを俺は良く知っている。
はっきり言って『あの』シランでさえ、『この』マリエルに比べたら楽な相手である。
やっべぇ………どうしよっかな………。てゆっか涙を流すマリエルもかわいいなぁ………。
やばいやばい、意識を戻さないと。
こうなるとマリエルはてこでも動かない。
だが今回は本当に感謝の気持ちと、自分が好きな相手に自分の選んだかわいいアクセサリーをつけて笑って欲しいという男の純情でおみやげを買ってきたので、俺としても笑って受け取って欲しいのだ。
万事休す………。えぇい、ままよ!
どうしようもなくなった俺はマリエルに抱きついた!
ビックリして俺を見るマリエル。
「若様?どうして私を抱きしめてくださるのですか?」
マリエルがビックリしながら困ったような顔で俺を見る。チャンス!
「マリエル泣かないで!あのね、これはマリエルにすごく似合うと思ったから買ってきたの!マリエルを泣かせようと思って買ってきたんじゃないんだ!」
そういって幼女スペシャル(既に固有スキルだな)を発動しながらマリエルに泣き止むように頼む。必死だぜ?俺は。
「マリエルお願い。俺、それをつけたマリエルにニコニコ笑って欲しいんだ。
だからもう泣かないで、ね?」
そこまで言うとマリエルは、ようやく落ち着いたのか俺のほうに笑顔を向けてくれた。
まるで濡れた蓮が咲いたような笑顔ーーー。
惚れた弱みとはいえその笑顔は反則ですヨ………マリエルさん………。
「あとね、マリエル。さっき言ってたでしょ?
俺マリエルに大変なお願いがあるんだ。
今度奴隷の人たちがうちに来るのは知ってるでしょ?
その中の俺の従者候補の子達は、男の子が1人に女の子が4人。
みんな俺よりも小さな子達ばっかりなんだ。
だからね、マリエルにその子達のお世話を頼みたかったんだよ。
みんな体はもちろん心にも傷を負った可哀想な子達なんだ………。
だからね、マリエル。その子達のお姉さん代わりになってあげて欲しいんだ。
だからそのネックレスは、その大変なお仕事をやってもらう為に、先にあげるごほうび………ってことでもらってくれないかな?」
俺がそう言うとマリエルは涙声のまま、俺の耳元でささやくように言ってくれた。
「はい、若様。私、喜んでその子達のお姉さんになります。
大丈夫です、実家で6人も弟や妹の面倒をみてきたんですもの。
いまさら兄妹が5人増えても問題ありませんから!
………だからこのネックレスいただきますね?
若様、本当に大事に致しますから………。」
そういってマリエルは泣き笑いの顔で俺を強く抱きしめてきた。
ってどういう状況?なんで俺マリエルにぎゅっとされてんの?
今までマリエルに泣き止んでもらおうと必死だった頭が急激に冷静に!
ぐああああああああああああああ、なんて事してんだ俺!
それにしてもいい匂いだな………。
まぁすんごい幸せだからしばらくこのままでいいか………。
◇◆◇◆◇◆◇◆
その後の半月ちょっと俺は、奴隷のみんなの為の準備に追われた。
薬草園で働いてくれる男女それぞれ2人に住んでもらう為の小屋の建設。
あと外にトイレを作り併設する形で、ごみを焼くところと、焼いた灰を捨てる穴を掘った。
さらにシランに連絡して、あちらにも同じものを作ってもらった。
成功したら鶏と豚も飼おうかな。ついでに肥料も作れるし。
………実際には初めてなんだよな、日本じゃ危なくてなかなかできんしな、コレ。
あとは小さな作業用の小屋と風呂。井戸も掘ってもらった。
これで気持ちよく働いてもらえると思う。
テトたち5人には屋敷の空き部屋に住んでもらって、まずは基本的な教育から始めるつもりだ。
教材は俺が記憶から引っ張り出したもので作った。
読み書き、算数、基本的な自然科学の知識あたりだ。
それにしてもおっかしいな~。
俺一回死んでやたら記憶力が良くなったらしい。
まぁ便利だからいいけど。
ということでこちらも手配済み。
母上にかわいらしい女の子が4人来ますよって言ったら、
「うれしい!娘ができるのね!それも4人も!」って言ってはしゃいでいた。
いつまでも俺の母上は若い。息子としてはうれしいやら、恥ずかしいやら………。
そうこうしているうちにシランから連絡があった。
俺に頼まれたものはすべて手に入ったこと。
エリアちゃんの体調が旅に耐えうるものになった為、明日にはエルトリンシティを出て、こちらに向かう事。
ようやく彼らが俺のところにやってくる。
もうひとがんばりするか!
そんな事を思いながら、俺は猛烈な勢いでブエロのおっさんに納品する各種ポーションの作成を続けるのであった。
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