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すると、
ぷぎゅ。
と田口は情けない呻き声を上げながら顔面を醜く崩壊させた。
まず鼻の骨が、烈火の中に枝を投げ入れた時の音と共に潰された。尋常ではない量の鼻血が滝のように迸った。反射的に涙を流すほどの鈍痛が田口を襲う。
しかし、男の膝の勢いはこれしきのことでは全く衰えなかった。
ぼぎゃ。雨音に掻き消されない程の大きな音が響いた。その音は確実に人の呻き声ではなかった。
直後、その光景を目撃した竜平の心臓は一瞬にして凍り付いた。
「べぎゃぁぁぁあああぁ!!!!」叫び狂う田口の頭部が変形していた。顔面は男の膝の形に沿って凹み、後頭部がそれを盛り返した様に歪に膨らんでいた。
「いだ、いだいよぉぉ!!だれがだずげでぇぇ!!」口から血のあぶくをこぼしながら、聞くに耐え難い悲鳴を上げる。唇が紫色に膨張していき、切ったところから赤黒い血がどくどくと流れ出た。
「おひゃ、おへひゃ、じに、だぐ、なぃよぉ…」田口はゾンビの様な千鳥足で竜平の方へ歩み寄ってきた。おぼつかない足取りで、ゆっくりと。そして数歩進むと、突然膝を落とし、前のめりに倒れこんだ。大量の血糊を床にぶち撒けてから事切れた。