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豪雨の中の決闘から1ヶ月が過ぎた。
竜平は市民病院のベッドで横になり、点滴を受けていた。
しかし彼の体はぴくりとも動かず、窓の外の遠い虚空を見つめている眼球はすっかり黒ずんでいた。
唇からは止めどなく涎がゆっくりと溢れ出ていた。
植物人間だ。
脳の損傷で自分で四肢を動かす事が出来ず、言葉も発せられなくなっていた。
ただ胸だけが呼吸の一定のリズムに合わせてゆっくりと上下している。
輝きを失った目玉が見つめている虚空は空だった。
その空は今日もどんよりと淀んでおり、ニュースではまた雨の予定だった。
彼の視界にほんの小さく、洗濯物を急いで取り込む老婆の姿が映り込んだが、何も感じる物は無かった。