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「ひぃっ…!ひぃっ…!ひいっ…!」男は犬の様に喘ぎながら必死になって流れ出る小腸を腹へ押し戻そうとした。
が、無駄だ。小腸は男の想像を絶する早さで出てきていた。
死ぬ。
男の脳裏にその二文字が突如姿を現した。
そしてその二文字が男をおかしくさせた。
「ひ…ひ…ひ…!!ひゃはひはははひはひゃひゃひ!!!」男は突如狂ったように笑い始めた。真っ暗な空を仰ぎ、雨水を全身に受け。足元では小腸が蜷局を巻いて。男は笑った。
「殺す!コロす!お前だけは絶対殺す!!」そう吠えながら、男は骨がむき出しになった血塗れの右拳を大きく横に振りかぶった。
この時、男が被っていたフードが不意に外れた。
ずっとフードの陰になって見えなかった男の素顔が今、明らかになった。
だが、竜平はその素顔を確認した間もなく、狂った男の最期の右フックを喰らい、水浸しの暗闇の地に伏した。
そして男も右フックを完全に振り切った後、ブツリと事切れ、自分が作った血溜まりの中に沈んだ。