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再び両者じわりじわりとにじり寄る。
男はもう右拳は使えない。
竜平にとってこれはチャンスだ。
ポケットに手を触れてカッターナイフの存在を確かめる。
いつでも抜ける。
いつでも刺せる。
懐に入ることができたらの話だが。
男は左一本でも十分に強すぎる。
竜平の警戒は最初と何ら変わりはしない。
油断が即、死に直結する…。
間合いが詰まってきた。
踏み込んで手を出せば当たる距離だ。
竜平はここで大きく深呼吸した。
酸素の枯渇した肺に空気を送り込む。
今度は俺が主導権を握る番だ。
息を吐いた直後、竜平はそう意気込んで、男の懐に踏み込んだ。