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何が起きたかわからなかった。
ただ、ここにいては危険だという本能に従って距離を取る事にした。
横にステップし、そのままの勢いで後退する。
しかし、男は追撃する素振りを見せなかった。
見ると、先程爆音のしたフェンスが男の出した拳の形そのままにひん曲がっていた。
人間じゃない。竜平は思わず後ずさりした。
しかし男の拳を見ると、大量の血がそこから滴り落ちていた。鉄のフェンスを思い切り殴ったら当然の事だ。折れた骨が皮膚を突き破り、男の右拳は剣山のような刺々とした物体に成り果てていた。
「俺の渾身の一撃を避けた人は君で初めてだ。」男が口を開いた。剣山になった己の右拳を他人事のように眺めながら。
「そうかい。」竜平は素っ気なく答えた。先程のアッパーでまだ頭が割れ響くように痛む。
しかし、ニヤリと笑った。
奴の右拳はもう使い物にならない。
右脇腹ががら空きだ。
あそこをカッターで抉り飛ばしてやる、と。