14/30
14
竜平が男と徐々に間を詰める。靴底から雨水が入り込み、靴下に染み込んだ。不快な感触だ。
男も距離をゆっくりと詰めてきた。レインコートのフードに豪雨が五月蠅い音を立てて叩き付けられる。
分厚い雲が完全に太陽を隠し、その光を遮ると、周囲がまるで夜のような暗闇と化した。
凄まじい豪雨により、公園で遊ぶ子供、脇の道路の通行人、竜平と男以外、人間は誰一人いない。公園の倉庫の屋根に留まっていた烏も飛び去ってしまった。そしてこの豪雨は、2人の体温、聴覚、さらには視覚まで、奪い去ろうとしている。
これならいくら蹴ってもいくら殴っても他の誰も気づかない。
いくら叫んでもいくら助けを求めても他の誰も気づかない。
「絶対殺す」竜平が呟いたが、その声はすぐに雨音に揉み消されてしまった。
そして、男が満身の力を込め、拳を大きく振りかぶった。