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「ほう。」男は言った。「度胸があることは認めようか」
「ペラペラ喋んな、殺すぞ」竜平はポケットをまさぐり、カッターナイフに手を掛けた。だが、まだ出さない。
男が脅しが通じない相手だと竜平は悟っていた。下手に出したらはたき落とされるだろう。
抜く時は男の懐に飛び込むか本当に絶体絶命になった時だけだ。
竜平はその時が来るまで、触れたら即死に直結する、男の豪腕をすべて避け続ける気なのだ。
竜平は構えた。一番自分に慣れ親しんだ構えにだ。
身を半身にして体のヒットポイントを減らし、左を前方に出し、いつでも改心の一撃を叩き込めるように右を握りしめた。
竜平の喧嘩スタイルは我流ボクシングだ。ジムで習ってはいないが彼の兄から教わったものをアレンジしたものだった。