善良に従う悪の話
婚約破棄なるものが流行しているがそれは三流のやることだ。二流は話合いでの解消。
一流は・・・・
「諸君、エリザベーターはこの王宮の庭園にメイドと二人でいる。花の匂いでも嗅いでいるのだろう。好きにしたまえ」
「「「「「ヒヒヒヒヒヒィ」」」」
「殿下、本当によろしいのですか?」
「メイドも入れて二人か・・・」
「おっと、ここで殿下呼びは禁止だ。伯爵令嬢だぞ。存分に味わいたまえ」
エリザベーターはただ善良なだけの役立たずだ。無能と言っても良い。
清濁併せ飲む我は学園で低位貴族の不良貴公子たちと仲良くなった。使用人達は弱みを握って言う事を聞くようにした。
逆らえないようにするのが肝要なのだ。
一流は悪を使いこなす。
王族たる我が伯爵令嬢と婚儀を結び婿で入る。
全く不公平ではないか?
「フフフフフ、ゲル様、悪い人ですわね」
「いいから、キャサリン、膝の上に乗れ」
「は~い。悪い王子様」
我はこのテラスでエリザベーターを待つふりをする。
来るのはエリザベーターが貞操を失った報せだ。
キャサリンは第六子だがガードナス侯爵家だ。
我はこのまま王族に留まり侯爵の後ろ盾を得て王太子の地位を狙う。
「そろそろ、お茶会の時間だ」
「フフフフフフ、ボロボロになったエリザベーター様がいらっしゃるかしら」
「見物だな」
だが、来たのはエリザベーターとメイドだった・・・
「ゲルドフ殿下、参りましたわ・・」
ドレスの乱れはない。
理解が追いつかない。
ドレスを着替えたか?いや、そんな時間はない。
もしかして、不良貴公子たちが寝返ったか?
いや・・・平然を装って情報を聞き出そう。
だが、向こうから話しかけた。
「グスン、殿下、庭園で殿方達が倒れていますわ・・私の前に現われたと思ったら急に倒れましたわ」
「な、そんなはずはない!5人もいたのだぞ!」
「5人・・・それよりも殿下・・その令嬢はどなたかしら?」
「ヒィ、これは違くて!」
しまった。キャサリンを膝の上に乗せたままだった。
エリザベーターは背中を見せて帰ろうとする。
「待て!エリザベーター、何があったか教えろ!」
その後、報告を受けた。
「貴公子達は心臓を何かで撃ち抜かれていました。小さな鉄のツブテのようだと役人の調査結果です」
「婦人を襲う不届者を女神様が鉄槌を下したと言う者がおります」
しかし、これでエリザベーターは婚約者から外れる。
向こうから解消の申し出が来るだろう。そしたら父上は応じるはずだ。
ガードナス侯爵と話合いをした。キャサリンを王妃にしてやると言えば興味を示す。
しかし、父上は許さなかった。
「・・・婚約解消はあいならん。そもそもこの婚約は王命ぞ」
「何故ですか?何故、兄上は公爵令嬢、一歳違うだけで伯爵家なのですか?」
「それはザルム家には黒髪族の末裔が付いているのだ・・・力を取り込むのだ」
「黒髪族?」
「ああ、今回のお前の凶行で伝承が本物だと不幸にも分かった。詫びに行き婚約の続行を願え。王命ぞ」
父上は知っていたのか・・・
黒髪族。
女神様の御許、異世界、遠い東方諸国から来たとされる種族だ。時々現われる。
髪は月のない夜のように漆黒だ。
黒髪はこの地の者でもいるが何か違う。
そう言えば、エリザベーター付のメイドは黒髪だがどこか混ざっていた。
黒髪族には勇者三職、冒険者級、田舎暮級、高等遊民級がいると聞くが・・・
種別は何だ?
我は考えながらエリザベーターのタウンハウスに行った。
王都郊外、野原がチラホラ見える土地だ。
元々エリザベーターのザルム伯爵家はワインを作る貧しい家門だ。
王族たる我がワイン屋になれと言うのか?
怒りをこらえて屋敷を訪れた。伯爵夫妻が門の前で出むかえてくれた。
「ようこそゲルトフ殿下、ですが娘は部屋に籠もっております」
「報せますが、来るとは限りませんわ。お部屋を用意しましたわ。そこでお待ち下さい」
「待たせてもらおう・・・いや、その間、屋敷をまわりたい」
「はい、どうぞ。使用人をつけます」
「いや、良い」
黒髪族を探すのだ。屋敷を見回るが黒髪の者が・・・いた。後ろ姿だ。
「おい、そこのメイド、顔を見せろ」
「・・・・」
メイドのお仕着せ服を来た少女がいた。13歳くらいだろう。
目は碧眼だ。黒い瞳ではない。
顔はどこかで見覚えがある。エリザベーターに付いていたメイドだ。
髪は短い。肩に掛かるくらいだ。典型的な貧民ではないか?
しかし、月夜のような色ではないな。
メイドはこちらを見つめている。どこかとぼけた顔だ。いや、表情がないのか?
【アリサ!ここではやめなさい!】
伯爵の声がした。
気がついたら髪を触っていた。
何だ。この少女は・・・アリサと言う名か。
やめろってどういうことか?我じゃないのか?
「ゴホン、殿下も男であるのは分かりますが、当家のメイドに手をださないで頂きたい」
「いや、髪にゴミがついていたのでな」
「娘は会わないそうです。どうか、お帰り下さい」
「分かった」
「アリサがお荷物をお持ちます。さあ、門までご案内しなさい」
「分かった」
「伯爵殿、荷物とは我の贈物か?」
「娘は受け取らないそうです」
全く、一度の浮気でヘソを曲げやがって。
さあ、これで暗殺確定だ。
王都の一流の暗殺者に依頼しよう・・・
「おい、馬車はどうした?」
王家の馬車がない。門の外に止めておいたのに護衛騎士もいない。
「お前は帰る必要はない」
少女の声と同時にパシュ!と風を斬る音がした。
「ウワ!何だ。これは・・」
膝が割れたようだ。何かが貫通したようだ。これが鉄礫?
地面に跪く格好になった。
背後から少女とは思えない低い声がした。
「祈れ。女神教徒だろう?死ぬ前に祈らせてやる・・・」
「な・・・」
振り向こうとしたが怪力で肩を押さえられている。振り向けない。身体強化魔法か・・
「・・・既に王家から処断の密命が出た」
「そ、そんな。まさか・・・」
黒髪族の異種、軍事系か・・・・
ただ、殺しまくる種族だ。悪だ。
「なあ、話を聞け。我は一流だ。悪を使いこなす自信がある。役職か?それとも報酬か?何なら我と婚姻して王家の子を産ませてやる。いいぞ、好き放題に出来る」
バシュ!とまた音がした。肩に何かが貫通した。
「グハ!これは何だ!」
「9ミリ拳銃サイレンサー付だ・・・」
「我は一流だ。悪も気にしない」
「一流は悪と善を使いこなす。使った形跡すら残さない・・・お前は一流と思っている四流だ・・・」
「待て、待て・・・!」
我はここで終わりか?たった一回浮気をしただけで・・・
「お嬢様を殺そうとした罪を償え」
「違う!手籠めにしようとしただけだ!」
パシュ!パシュ! パシュ!パシュ!カチャ!カチャ!
「あ、しまった・・・」
・・・全弾撃ち尽くした。一発は残せと父様の教えだったのに。
「なるべく遺体を傷つけるなと言われたのに・・・旦那様は怒るだろうな・・」
いつしかこの世界に渡って来た父様はこの地の村娘と結婚した。私は父様のスキルを受け継いだ。
とても強力な武器を召喚出来る・・・だから善に従えとの父様の遺言だ。
「まだ、まだ、三流だ・・・感情をコントロールできない」
☆☆☆王宮
「陛下、ゲルトフ殿下、帰路、魔物に襲われました。護衛騎士が止めるのも聞かずに突撃を敢行したそうです」
「うむ。それではお付きの者を処罰しなければならない。病死にせよ」
「御意」
「陛下、ガードナス侯爵とキャサリン嬢病死でございます。代替わりの申請が来ております」
「うむ・・代替わりを認めよ」
「それと・・・第三王子殿下の婚約者がまだ決まっておりません」
元々ザルム家には不思議な力がある。魔物のスタンビートを一瞬で壊滅させた。盗賊が寄りつかない。
それを王太子、王太子妃教育限りにしたのは失敗だった。
王子は家に入ってから秘密を教わる・・・では遅かったか?
「カールを呼べ。イザベラ嬢もな」
「御意」
第3王子のカールには婚約者はいない。
王太子の婚約者のイザベラ嬢にエリザベーター嬢を慰めてもらうか・・・
余は二人に言い聞かせた後。王妃の墓参りに行くことにした。
妃が腹を痛めた子を殺したのだ。余も悪であろう。
・・・王国年代記にはゲルトフ王子が病死した日に二人の貴族が亡くなったとだけ記録されている。
それ以外王国は平穏無事であるとこの日の記録には強調されている。
最後までお読み頂き有難うございました。




