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7.琵琶

 僕は音楽家の家に生まれた。父さんは宮廷楽師、母さんは歌手で、兄さんは作曲家だ。僕は幼い頃から色々な楽器を習い、どれもそれなりには弾けるようになった。1番適性があったのは歌で、変声期を終えてからは、少し掠れた声で歌う恋歌がとても色っぽいと言われるようになった。

 

でも僕が本当に歌いたいのは恋歌じゃないんだ。


 いや、恋歌もたまには良いけど、本当は英雄たちを讃えるサーガを歌いたい。強大なモンスターと死闘を繰り広げる勇壮なサーガ、戦いに赴く前の恋人との最後になるかもしれない逢瀬、勝利の美酒に酔いながらも失われた命を思い一人涙する英雄、そんな曲を、歌を、歌いたい。演奏したい。


 楽器演奏の腕は宮廷楽師には及ばず、女性に人気の恋歌ばかり歌うのでは、良いところ裕福な貴族夫人の愛人止まりだ。よっぽどこの人のためだけに歌いたいと思えるような相手に囲われるというのならともかく、飽きられたら終わりの愛人稼業は遠慮したい。


「吟遊詩人として各地を巡ってみたらどうだ?貴族のようにお上品に最後まで席を立たずに聴いてくれる客ばかりじゃない。気に入らなければ演奏の途中でもいなくなるし、当然金ももらえん。お前の薄っぺらい演奏じゃ、お前の好きなサーガは迫力がないから客はつかんだろうが、恋歌を歌えば女性客はつくだろうから食うには困らんだろう。修行だと思ってやってみろ」


 父さんに言われた薄っぺらい演奏という言葉が胸に突き刺さる。

 どんな楽器もある程度は弾けるようになる。でもある程度止まりなんだ。燃えるような恋歌や失った恋を嘆く歌は歌えても、戦いを鼓舞するような勇壮な歌を歌うと一気に場が白けてしまう。血が湧きたつようなサーガを僕は演奏できない、歌えない。


 自分が得意な歌と好きな歌は違うことも多いものよ、と母さんは困ったように笑うけど、母さんは奇跡の歌い手と呼ばれている。普段は恋歌を歌うことが多いけれど、騎士団が遠征に行く前に戦いを鼓舞する歌を歌えば騎士たちが熱狂するのを知っている。 




 父さんの言った通り、吟遊詩人として街や村を巡り歌っていると、恋歌には女性客が目を輝かせて聞き入ってくれるが、1曲くらいはとサーガを入れると皆退屈そうな顔になるのがわかる。酒場でリクエストされて歌っても、迫力ねぇな、と野次られて終わる。誰もが知っているこの国の英雄、戦姫テレサのサーガなのに。子供の頃からすごく好きな曲なのに。




 最近は恋歌しか歌っていない。ちょっと前から滞在しているこの街では、上品な貴族の老夫人がメイドを連れて聴きに通ってくれている。“笑って”とか”手を振って“とかの些細なことが書かれたとても煌びやかな紙を振って応援してくれて、ちらほらとそれを真似して応援してくれる女性が増えてきて、歌っていてもとても楽しい。もうこのまま女性客のために恋歌ばかり歌う吟遊詩人として生きていってもいいかもな、とも思う。




「もともと的当ては巧い男だったけど、宝箱からみつけた弓で村を襲っていたモンスターの急所を一発だってよ!」

「すげえなあ、俺も宝箱探しに行ってみるかな」


 酒場での何気ない会話。

 宝箱から手に入る人生に一度きりのチャンス。

 神から齎されるアイテムの話は昔からたくさんある。手に入れたアイテムで英雄になる話はそれこそ山ほどある。

 僕は英雄にはなれないだろうけど、自分のためだけのアイテムを手に入れる話は曲のネタとしては良いかもしれない。大したものが出なくても、それが笑いを取ることもできるだろう。




 僕には戦闘能力はないから、冒険者ギルドで護衛を雇うことにする。最近はあの貴族のご夫人が演奏会後にたくさん心づけをくれるから懐も温かいし。最初に10万ギル硬貨を皿に入れてくれた時はビックリしたけど、貴族の愛人になる楽師が多いのもわかるよな。平民の心づけとは桁が違う。


 幼馴染だという剣士と弓使いと魔法使いの3人組のパーティを雇い、3人の勧めで神殿で寄付金を払いセシリアさんという巫女を雇う。4人は同じ孤児院の出身らしい。


「マリウスさんは最近流行ってる吟遊詩人よね?西の広場で演奏してるのを聴いたことがあるわ。“どんな時も君を守るよ~♪”て聴いててドキドキしちゃった♡」


 弓使いのバーバラさんが親し気に話し掛けてくれる。


「聴いてくださってありがとうございます。もっと歌や演奏が上手くなるようなアイテムが手に入ればと思って、宝箱を探しに行きたいのですが」

「えー?あれより上手くなるの?!聴いてて倒れる女の子が続出しちゃうんじゃない?!」

「おい、セシリアが始めるから静かにしろよ」

「はーい!」


 魔法使いのロビンさんに怒られ、バーバラさんがごめんね、と舌を出す。


「すぐ終わりますからねー!」


 巫女のセシリアさんがにこやかに鞄から小汚い鉄の輪と藁の束と大きな釘を取り出した。


「恋歌の参考にはならないだろうけど、セシリアの戦い方は面白いわよ」

「もうバーバラ!私はいつも真剣なんだよ!」

「そうだ、セシリアはある意味最強だ!」

「まあ、ある意味な」


 幼馴染4人組が親し気に話しながら、セシリアさんはろうそくを3本取り出しそれぞれを鉄の輪の突起に刺して火を点け、そして何故かそれを頭に被った。


「・・・あの、何をしているんですか?」

「しっ!黙って見ていて!」


 黙って見ていてと言われても、木漏れ日で明るい森の中で神殿の巫女さんがろうそくをくっつけた鉄の輪を被って、にこやかに藁の束を木に押し付けてそこに大きな釘をぶっ刺そうとしているこの光景に何を言えと言うのだろう?これは一体何の儀式なんだ?


 “コーンンン”


 釘を木に刺しただけとは思えないような大きな音が周囲に響き渡る。


「終わりました!行きましょう!」


 セシリアさんが何事もなかったかのように鉄の輪を頭から外し、ろうそくの火を消して鞄にしまう。


「あの、今のは何だったんですか?」

「このアイテムの効能で、この階層全体のモンスターに呪いを付与したんですよー!」

「え?階層全体のモンスターに呪いを付与って、そんな簡単にできるもんなんですか?」

「できるわけないだろ、セシリアのアイテムが特別製なだけだよ」


 セシリアさんの持つアイテムは宝箱から手に入れたもので、人々を守る力が欲しいと願って手に入れたものらしい。なんだかじわじわと感動が込み上げてくるのがわかる。英雄は最初から英雄なんじゃない。誰かを守りたいと心から願って行動するから英雄になるんだ。


「セシリアさん、いつかセシリアさんのことを歌にしてもいいですか?」

「え、ええ?!私のことを吟遊詩人さんが歌にして歌うんですか?!い、いったいどんな歌に・・・?」

「あっはっは!それいい!面白そう!できたら聴きに行くぜ!」

「ほら、無駄話してるうちにもう宝箱がみつかったぞ」


 3人が呪いで弱ったモンスターを倒しながら進むうちに大きな宝箱があるのが見えた。浅層でみつかる宝箱は個人のためのものだ。換金用のアイテムは浅層にはない。


 宝箱を開けると、そこにはリュートを大きくしたようなずんぐりとした楽器と、おそらくそれを弾くためのものであろう大きな三角の板のようなものが入っていた。


「楽器ですか?」

「うん、リュートみたいだけど、初めて見る楽器だね」

「とりあえず神殿に行くか」




 神殿に行くと、アイテム鑑定の間は順番待ちの人でいっぱいだった。宝箱を開けるためにダンジョンに行く人はずいぶんとたくさんいるらしい。ちょっと前まで僕の世界は音楽だけだったから、吟遊詩人としてあちこち行ってみろというのは、他のものにも目を向けろということだったのかもしれないな。


 祭壇にアイテムを置いて神に祈りを捧げる。

 天から光が降り注ぎ、ミスリルの板に文字が浮かび上がった。


 “ビワ”

 “バチ”

 “栄枯盛衰の物語を語り継ぐ楽器。味方を鼓舞することができる”


 サーガを弾くための楽器とは・・・

 もう諦めて恋歌のみを歌う吟遊詩人としてやっていこうかと思っていたのに、神は残酷だな。




「あの、マリウスさん?私の”カナワ“と違って、楽器だから弾けばいいんでしょうけど、使い方に悩むようなら、ローエンブルクの考察屋さんに行ってみるといいですよ。よく当たると評判なんです!」


 何とも言えない表情をしていたのだろう、セシリアさんに心配そうに言われる。

 いくつもの楽器の弾き方を修めてきたけど、この楽器は初めて見るし、考察屋に行ってみてもいいか。知らない楽器を初見で下手に触って壊したり変な癖がついたら困るしな。




 セシリアさんに教えてもらった店の扉を開けると、チリンチリンと扉の上部に取り付けられたベルが鳴る。へえ、良い音だな。


「いらっしゃいませ。異世界アイテム取り扱い考察店へようこそ。店主のルナ・イザヨイと申します」


 長い黒髪をきっちりと結い上げた細身の女性が座っている。テーブルの上に載せられた手はほっそりとしているが、その指はやや節が目立つ。


「神殿からの紹介で来ました。アイテムの使用方法を考察してほしいのですが」

「ご存じかと思いますが、必ずしも使用方法が判明するとは限りません。判明しなかった場合も考察料の3万ギルの返金はありません。よろしいですか?」

「はい。大丈夫です」


 僕は3万ギルを支払い、店主の前のテーブルにアイテムを載せる。


「“ビワ”と“バチ”です。効能は“栄枯盛衰の物語を語り継ぐ楽器。味方を鼓舞することができる”です」


 店主はそっと“ビワ”を手に取る。あれはおそらく楽器を持つことに慣れた人の手だ。


「・・・薩摩琵琶かな」

「“サツマビワ”?」

「同じ種類の楽器であっても大きさや形、音に違いがあるでしょう?これは琵琶という楽器の中のおそらく薩摩琵琶でないかと」


 たしかに楽器は大きさが様々だ。吟遊詩人が持つのは竪琴、リュート、笛が多いが、それは持ち運ぶ前提だからであって、僕が普段弾いている竪琴は持ち運びやすい小さなものだが、大きいものほど弦の数も増え音域も増えるから、弾ける曲も増えるが難易度も上がるし、当然持ち運びには向かない。


「店主さんは弾き方がわかるんですか?」


 宮廷楽師の父の下、大小さまざまな楽器に親しんできた僕でも初めて見る楽器なのに。


「専門ではないのであまり上手くはないですが、持ち方と弾き方の基礎くらいなら」


 うん、この人は僕と同じようにいくつもの楽器を修めてきた人だ。適性を見るためにいくつもの楽器に触れさせられるのは、音楽をやる家の宿命だしな。兄さんはどの楽器にも適性がなかったけど、替わりに作曲の才能に全振りしてたし。


「僕に“ビワ”の弾き方を教えてくれませんか。これは教えてもらうことへの報酬になるのかな、それとも成功報酬になるのかな?」


 神様が僕にこの”ビワ“を与えてくれたということは、僕には”ビワ“の才能があるということではないだろうか。どの楽器もある程度しか弾けなかったこの僕が!


「歌や楽器の演奏が聴く人の心に響くのは、その曲とそれを奏でる人の技量によるものですからね。私に教えることができるのは基礎だけですので、その後技量を磨くのは貴方自身ですから、基礎を教える報酬ということでよいですよ。ただし、教えるのは店が終わってからになりますが」




 それから僕は”ビワ“を習いに店に通った。ルナさんは多くを語る人ではなかったが、おそらくかなり良い家の出身なのだろう。僕のように音楽家の家というわけではなく、教養として一通り修めている、そういう感じがした。

 そして”ビワ“は素晴らしかった。重厚でいて澄んだ音色、時に激しく、時に悲しく、”バチ“で荒々しくかき鳴らす。左手の位置をほぼ固定したまま高いフレットの間に渡された弦を3本の指で締めたり弛めたりして音の幅を作り出すという技法は初めてで、指の感覚と音感だけを頼りに正確な音程を出すことは容易ではなかったが、音色に独特の揺りを付け、思うように音が出せた時の感動は言葉も出なかった。


「才能がある方というのはすごいですね。もう私に教えられることは何もありません」


 ルナさんが笑って言ってくれるが、すごいのはこの人だろう。音楽家の家に生まれた僕が見たことのない異国の楽器を、基礎だけだと言いながら軽々と弾くのだから。弾ける曲はあまりないと言いながら、見本にと弾いてくれた“ダンノウラ”という曲は、異国の言葉で歌われたにも関わらず、激しく悲痛にかき鳴らされる“ビワ”の音色と歌声から、戦いに負けて海に飛び込む子供を抱いた女性の姿が見えた。それをルナさんに言うと、まさにそういう場面を歌った曲なのだと言われた。これこそまさにサーガを弾くための楽器。あとは僕がひたすら研鑽を積むだけだ。




 あちこちの街や村を巡り、恋歌だけでなく、“ビワ”を使ったサーガも受け入れられてきて、僕はまたあの貴族のご夫人のいる街に来ていた。あちこちを巡るのが吟遊詩人だから、またこの街に歌いにきます、と言ったら、あのご夫人は涙を浮かべて旅費の足しにするように、と100万ギル硬貨をくれたけど、100万ギル硬貨なんて店で使えないから、慌てて出発前にギルドの口座に預けに寄る羽目になったのは良い思い出だ。


 適度に賑わっていて良い街だったんだけど、今日はなんだかピリピリしている。


「おおい、街に入るなら早く入れよ!森の奥からオーガの大群が出てきてると情報があったから、もうすぐ全ての門を閉めるからな!」

「入ります!」


 慌てて街に入らせてもらう。森というと東門の方か?僕は南の街道を来たけど、東門の方は人でごったがえしてるんじゃないか?


「吟遊詩人か?領主様のお屋敷に戦えない年寄りや女子供が避難してるから、良ければそっちに行って何か歌ってくれないか。討伐の準備で冒険者ギルドも騎士団もピリピリしてるからよ」

「わかりました!」


 街の中心にある領主様のお屋敷に行くと、門番の言っていた通り、老人や女性や子供たちが庭まで溢れていて、皆不安そうな顔をして泣いている子供たちもたくさんいた。

 近くにいた騎士に、何か歌っても良いか許可をもらうことにする。


「ここで歌わせてもらっていいですか?」

「吟遊詩人か?子供たちが怯えてるからな、できれば落ち着かせてやってくれ」


 快く許可をもらえたので、まずは子守歌を歌う。何人かの子供が泣き止んでこちらを見ている。恋歌しか人気がないと思っていたが、“ビワ”を弾くようになってから僕の歌は子守歌や郷愁歌にも人気が出てきて、最近では女性だけでなく子供や老人も喜んで聴きにきてくれるようになってきたんだ。


「マリウスさん?大変な時にこの街に来ちゃったのね。でも助かったわ、子供たちが寝てくれた」


 前にこの街で歌っていた時によく聴きに来てくれていたアンナさんが、疲れた顔で笑ってくれた。


「体調の悪い人は言ってくださいねぇ!お屋敷にベッドを準備しますからぁ!」


 あれはマリリンさんか?2人はいつも貴族のご夫人のお供で一緒に聴きに来てくれていた。


「マリウスさんがまたこの街に歌いに来てくれたと知ったら奥様が喜びますぅ!今は奥様、オーガ討伐の準備でお忙しいので、終わったら是非ご挨拶してくださいねぇ!」


 マリリンさんの言葉に耳を疑う。え?奥様ってあのご夫人だよな?結構なお年だと思ってたんだけど、オーガ討伐の準備って何してるんだ?!


「民を守るのが貴族の勤めだって奥様はいつも言ってますからね。先頭に立って戦う気満々ですよ」


 そりゃ本来貴族はそういうもんだけど、父さんが宮廷楽師だったから貴族との拘わりがそれなりにあったから、その本来の役割を忘れていそうな貴族もたくさんいるのを僕は知っている。


「あ、奥様が来ましたよぉ!」


 屋敷から出てきたのは、僕の知る小柄で細身の上品な老婦人だったが、その小柄な身体には簡易の胸当てを付け、その背には巨大なモーニングスターを背負っていた。


「騎士の役目は何ですか?!」

「「「民を守ることです!!!」」」

「この街を守るのは?!」

「「「我々の役目です!!!」」」

「よろしい!暴虐なモンスターには死の安寧を!私たちの手には勝利と栄光を!準備は良いですか?!」

「「「はい!テレサ様!!!」」」


 その小柄な後ろ姿には巨大な白い炎が見えた。

 そこにいたのは、いつもニコニコと孫を見るように僕を応援してくれていた老婦人ではなく、民を守護し騎士たちを勝利へ導く女神だった。


「テレサ様だ・・・!」

「おお、テレサ様が出てくれるのか・・・!」


 老人たちがまるで神に祈るかのように老婦人を見つめる。


「あんた、吟遊詩人なら歌えるだろ?“戦姫テレサの歌”を歌ってくれよ!ご本人が出陣するんだぞ?!」

「戦姫、テレサ様、ご本人・・・?」


 あの、いつもニコニコとキラキラ光る丸い紙を振りながら僕を応援してくれたご夫人が?!

 テレサ様は、歓声を挙げる民衆に応えるように左手を振り、右手で巨大なモーニングスターを振りぬいた!


「オーガの群れごとき恐れるに足らず!行きますよ!」

「「「おう!!!」」」


 ”うおおおおおおおおお!”

 ”テレサ様!テレサ様!テレサ様!”


 止まぬ歓声。

 熱狂する人々。


 あれが、英雄だ。

 本物の英雄だ。

 騎士も冒険者もその小柄な後ろ姿に付き従う。

 どこかから、”コーンンン“という特徴的な音が響いてきた。きっとセシリアさんもこの戦いに参加しているのだろう。弓使いたちが街壁の上に並んで弓をつがえている。

 

 血が沸き立つ。

 

 背中に背負っていた“ビワ”を降ろして構える。

 ”ピイン“と澄んだ音が鳴る。

 奏でるのは、戦姫テレサを讃える歌!

 

 “彼女は奇跡”

 “彼女は女神”

 “彼女はあの月よりも輝く”

 

 “ビワ”を力強くかき鳴らす。

 声を張り上げて歌う。

 誰もが知っている曲だ。全員が歌う。なんという高揚!なんという一体感!




「体が軽い・・・」

「いつもより力が出る感じがする・・・」

「あの戦姫テレサの歌じゃないか?支援魔法が乗ってる感じがする」

「ご本人も絶好調だしな」


 並の騎士が3人がかりでオーガ1体を倒すのに、先代領主夫人であるテレサ様はその小柄な身体で巨大なモーニングスターを振り回し、一撃で次々とオーガを屠っていくのだ。かつてテレサ様に憧れて騎士になったという騎士団長は、その雄姿に感涙しながら後に続いている。


「あれで“もう年ですから鈍りました。これではオーガ程度しか粉砕できません”とか仰ってたんだよなあ」

「剣や槍だとすぐ折れるからって理由でモーニングスターらしいぜ・・・」

「現役時代はエンシェントドラゴンと一騎打ちして勝利したんだろ?それで先代公爵が惚れこんで、身分差を押しのけて求婚したって聞いたけど」

「”君のモーニングスター捌きに惚れた“って言って求婚したらしいぜ?じいさんから聞いたけど、よくそれで受けてもらえたな、て逆に感心したわ」


 本来死を覚悟しなければならないほどのオーガの大群を前にして、騎士や冒険者が他愛ない会話をしながら戦えるほど、街から聞こえてくる歌による支援効果は高かった。神殿の巫女によるオーガへの呪い付与も、その凶悪な効果を遺憾なく発揮している。街壁に陣取った凄腕の狩人が次々とオーガを一撃で倒しているのもこの戦いに余裕がある理由だ。


 何より、この戦いの先頭には生ける伝説がいる。

 田舎の子爵家の令嬢でありながら、その小柄な身体に不釣り合いな巨大なモーニングスターを振り回し、何度も国を救い、若くして王国騎士団総団長の座に上り詰めた英雄が。


「あ、終わったみたいだぞ」

「倒れるまで5撃か、俺たちなら瞬殺されてるんじゃないか?それに呪いの効果か、どのオーガもちょっと動き鈍かったからな、神殿の巫女さんがやったんだろ?」


 一際巨大なオーガを先代公爵夫人であるテレサが5撃で沈め、溢れんばかりにいたオーガはリーダーを失ったためか散り散りに逃げていった。




 戦姫テレサが、推しに感動でキラキラ輝く目で見つめられ、自分を讃える歌を捧げられ供給過多で意識を失い、慌てたメイドたちに支えられるまであと数時間・・・


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― 新着の感想 ―
キャラたちの繋がり、よき。 そして店主さんの教養パネェ…いいとこのお嬢様だったのかな?
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