4.鉢かづき
私の命はもう長くはないでしょう。この病を発症した時からわかっていたことです。今の医学にこの病を治す術はありません。それはわかっていたことです。幸いこの病は他人にうつるようなものではありませんし、時折発作が起こる時以外は普通に生活できますから、娘との時間を過ごすことができました。
心配なのは後に残される娘のことです。
私と夫はよくある政略結婚でしたので、私亡き後再婚するにしてもご自由にどうぞと思います。伯爵家の当主に妻がいないのは色々と不便ですしね。
でも、その後妻が先妻の娘を冷遇しないとは言い切れません。特に後妻に子ができた際に先妻の子を邪魔に思うのはよくあることです。
神は身分、性別、種族を一切問わず、一生に一度だけ望むアイテムを手に入れる権利を私たちに与えてくださっています。
私はその権利を残される娘のために使おうと思います。
領地のダンジョンの浅層は草原でした。深層に行けばもっと違う光景が見られるのでしょうけど、私が求める宝箱は恐らく浅層でみつかるはずです。幼い頃は冒険者になりたいと言って両親を困らせたのを思い出しました。政略結婚の駒でしかない侯爵令嬢が随分と無邪気な我儘を言ったものだ、と今になると笑えます。政略結婚も悪いものではありませんでした。物語のような激しい恋はしたことがありませんけど、嫁いだ伯爵家も夫も私を大事にしてくれましたし、可愛い娘も生まれました。
同行してくれた家の騎士たちが現れるモンスターを駆除してくれますが、この程度なら私1人でもどうにかなりましたわね。腕を一振りすると凍り付いたモンスターが落ちてきます。私は氷魔法を上級まで使えますし。
「奥様、あそこに宝箱がございます!」
「ええ、ありがとう」
騎士が指し示してくれた方を見ると確かに宝箱がありました。幼い頃に読んだ冒険小説のようでちょっとわくわくいたしますわね。
深層で手に入る高額換金されるような汎用アイテムの入った宝箱なら鍵がかかっていたり、罠がしかけられていることもあるそうですが、浅層で手に入る個人のための宝箱にはそのような仕掛けはございません。だからこそ、一生に一度だけの、自分の望みを叶えるためのアイテムを手に入れる時期を誰もが悩むのです。
そっと宝箱に手を触れると、何の抵抗もなく開きました。
中に入っていたのは、何でしょうか、これは?
大きな黒いボウル、でしょうか?
取り出してみると、大きさの割にはとても軽いですが、どうみても黒光りする大きなボウルです。これは一体何なのでしょうか?これをどう使えば私亡き後娘を守ることができるのでしょうか?
「奥様、とりあえずは神殿へ参りましょう。アイテムは神の啓示を受けなければ使うことができません」
「そうですね、眺めていてもわかりませんし」
神殿の祭壇にアイテムを載せ、神に祈りを捧げると天から光が降り注ぎ、ミスリル板に文字が浮かび上がりました。
“ハチ”
“悪意から身を守り相応しい伴侶と出会うことができる”
ああ、神よ!なんと素晴らしい効能でしょう!
この“ハチ”というアイテムが私の替わりに娘を守り、将来夫となる人と巡り合わせてくれるのですね!
ですがどうやって使えば良いのでしょう?
個人のためのアイテムは使用方法を探ることが試練であると言われていますが、本当ですのね。
私は領地にある考察屋を廻りましたが、一向に使用方法はわかりません。考察料の3万ギルはどうでも良いですが、私にはもう時間がありませんのに徒労感だけが募ります。
「王都近くのローエンブルク街の“異世界アイテム取り扱い考察店”ならもしかするとわかるかもしれません。考察屋は柔軟な発想力と広範な知識と人生経験が必要だと言われているので年寄りが多いのですが、あの店の店主はまだ年若い女性です。ですが、判明したアイテムの使用方法は群を抜いていますので、少し距離はありますが訪ねてみられてはいかがでしょう。お役に立てず申し訳ありません」
5軒目に訪れた考察屋の老店主に言われ、私はその足でローエンブルクに向かいます。最近発作が起こる感覚が短くなってきました。私にはもう時間がないのです。
ローテンブルクに到着し教えられた店の扉を開けると、チリンチリンと扉の上部に取り付けられたベルが鳴ります。
「いらっしゃいませ。異世界アイテム取り扱い考察店へようこそ。店主のルナ・イザヨイと申します」
20代半ばくらいでしょうか、癖のない長い黒髪をきちんと結い上げた落ち着いた雰囲気の細身の女性が座っています。銀縁の眼鏡越しに見える切れ長の黒い瞳は怜悧な印象を与えます。
「ロヴェール街の考察屋からの紹介で来ました。アイテムの使用方法を考察していただきたいのですが」
「ご存じかと思いますが、必ずしも使用方法が判明するとは限りません。判明しなかった場合も考察料の3万ギルの返金はありません。よろしいですか?」
「はい。承知しております」
私は3万ギルを支払い、店主の前のテーブルにアイテムを載せます。
「“ハチ”です。効能は“悪意から身を守り相応しい伴侶と出会うことができる”です」
「・・・鉢?」
店主が困惑したように“ハチ”を手に取って眺めまわしています。ですが店主の”ハチ“の発音は何か違って聞こえました。もしかして、この店主は何かに気づいてくれたのでしょうか?!
「お願いします!私にはもう時間がないのです!この“ハチ”の使い方がわからなければ死んでも死に切れません!」
「お客様、立ち入ったことをお聞きしますが、何か不治の病にでも侵されておいでですか?残される娘さんがいらっしゃる?」
まあ!何故私に娘がいるとわかったのでしょう?!不治の病だというのは、もう時間がないと口走ってしまいましたからそこから推測されたのでしょうけど、娘がいるとは一言も言っていませんのに!
「はい、そうなのです。私はもう長いこと病を患ってきましたので、これが自分の寿命だと諦めがついているのですが、残される娘のことだけが心配で宝箱を開けたのです。私が死んだ後、夫はきっと再婚するでしょう。それは家のことを考えれば仕方のないことですし構わないのですが、残された娘がどうなるかだけが心残りで・・・!」
良い方を後妻に迎えてくれる可能性もありますが、家督争いもありますし、私は残される娘にできるだけのことをしてやりたいのです。
「なるほど、鉢かづき、ですか」
「“ハチカズキ”?」
「鉢かづき、です。わかりましたよ、この鉢の使い方が」
「ありがとうございます!成功報酬ですが、私はおそらく娘がこの“ハチ”によって身を守られ将来の夫となる殿方と出会うのを見届けることは叶いませんので、魔法契約でよろしいでしょうか?使用方法が正しかったことが証明された時点で、この店の口座に1億ギル振り込まれるよう手配させていただきます」
「よろしいでしょう。では契約を」
私はこの日のために準備していた魔法契約書を店主に差し出します。店主が契約内容を確認して頷き、サインをして契約完了です。契約書は金色の炎に包まれて消えました。
「では、使用方法を説明させていただきます。この鉢に娘さんに残したい品を入れて娘さんの頭に被せてください」
「・・・は?娘の頭にこの“ハチ”を被せる、のですか?」
「そうです。使い方が正しければ、この鉢はその後娘さんの頭から外れませんので、娘さんの顔を見るのはお客様にとって最後になるでしょうから、そのつもりで被せてくださいね。将来娘さんが伴侶となる方と出会って心を通わせた時にこの鉢は外れます」
私は屋敷へ帰り、娘を呼びます。私の時間が残り少ないことは娘もわかっていましたから、本当はもっと一緒の時間を過ごしたかったのですが、この“ハチ”の使用方法を探るためにずいぶんと時間を費やしてしまいました。
「ソフィア、私の可愛い子。この”ハチ“は神が私亡き後も貴女を守るために授けてくださったアイテムです。今からこの”ハチ“を貴女の頭に被せますからじっとしていてくださいね?」
「お母様、なんですか?これは。これを帽子のように被るのですか?」
「そうです。不自由でしょうが、我慢してくださいね」
訝し気な表情の娘の頭に、この家に嫁いでくる際に持ってきたエメラルドのパリュールを包んで入れた“ハチ”を被せると、本当に店主の言った通り”ハチ“は娘の頭から外れなくなりました。中に入れたはずのパリュールも何故か落ちてきません。ああ、店主の言った使い方は正しかったのですね!これでやっと安心して眠れます。
私の名はソフィア・ロヴェール。ロヴェール伯爵家の娘です。私は先日母を亡くしました。母は亡くなる3日前、私の頭に”ハチ“というアイテムを帽子のように被せました。そしてその瞬間から”ハチ“は私の頭にぴったりとくっついて外れなくなってしまったのです。重さはほとんどありませんが、前が見えませんし、顔や髪を洗うのにも苦労します。周囲からも奇異の目で見られます。でもこれは母が一生に一度しかない自分のためにアイテムを手に入れる機会を、私のために使って手に入れてくれたアイテムなのです。神から授けられるアイテムには不思議な使用方法のものが多いですから、奇異の目では見られますが、これが母からのアイテムだと説明すると皆首を傾げながらも納得してくれます。ただ母はこの”ハチ“の効能を教えてくれなかったので、私はこの”ハチ“がいつまで私の頭にくっついているのか、なんのために被らされているのかはさっぱりわかりません。
そして母の喪が明けてから父が再婚することになりました。伯爵家に女主人が不在なのは困りますから、覚悟していたことです。縁戚の子爵家の未亡人だそうです。
「ソフィア様はなぜそのようなボウルを頭に被ってらっしゃるの?」
「亡き母に与えられたアイテムで、何故か頭から外れないのです」
継母にも訝し気に訊かれますが当然ですよね。私はこの“ハチ”のことを訊かれるのにもう慣れてしまいましたけれど。
「ねえ、ソフィア様。ソフィア様のお母様が以前夜会で素晴らしいエメラルドのパリュールを身に着けてらっしゃるのを拝見したことがありますの。旦那様からこの家に代々伝わるアクセサリーは見せていただいたのですけれど、あのパリュールはその中になかったのです。ご存じありませんか?」
「申し訳ございません、存じませんわ」
あのパリュールは母が生家の侯爵家から持ってきたもので、私が受け継ぐべきものです。母が生前どこかに隠したのでしょう。この継母に取られずに済んでほっとします。この継母は今のところ特に私を虐げてきたりはしませんが、この家の女主人としてこの家のものは全て自分のものだと思っているのです。
継母との仲はなんとなくギスギスしていますが、私が”ハチ“を被っていることで、特に何かされることもなく過ごせています。亡き母が私のために神から与えられたアイテムですから、何か危害を与えようとしたら神罰が下る可能性もありますからね。一生に一度だけ手に入れることのできる神のアイテムいうものは、与えられた者の想いに乗じてその御力を振るうものなのだと言われているのです。継母は亡き母がこの”ハチ“の正確な効能を周囲に明かさなかったことで、疑心暗鬼に駆られているのでしょう。
お世辞にも良いとは言えない関係を築いていた私と継母ですが、継母が異母弟を生んだことでその関係は薄氷を踏むようなものになりました。侯爵家出身の母を持つ私が婿を取ってこの家を継ぐより、自分が生んだ息子を後継ぎにしたいのでしょう。
ある日私は何者かに川に突き落とされたのです。幸い“ハチ”が浮いて身体が沈むことがなかったので、私は無事岸にたどり着いたのですが、このまま継母と同じ屋敷で暮らすことに私は危機感を覚えました。“ハチ”のおかげで溺れることはありませんでしたが、”ハチ“を被っていることでなかなか婚約者も決まりません。
「お父様、私は王都の魔法学院の寄宿舎に入ろうと思います。この”ハチ“の外し方も研究したいですし・・・」
「そうか。魔法学院なら外し方もわかるかもしれないな。そんなものを被っていると嫁ぎ先もなかなかみつからんしな」
父はあまり家族に興味のない人です。領主としてのお仕事はきちんとされていますが、亡き母のように無償の愛を注いでくれる人ではありません。亡き母のことは格上の侯爵家から政略で嫁いできた人としてそれなりに大切にしていましたし、継母に対しても似たようなものでしょう。継母は男子を生んだことで評価は上がっているでしょうけれど。私のことは、この“ハチ”を被っている限り政略結婚の駒として使うこともできないと思っているのでしょうね。
魔法学院での生活は穏やかに楽しく過ぎていきました。“ハチ”の外し方はわかりませんが、珍しいアイテムに皆興味津々ですし、ここでは魔法が全てです。このまま”ハチ“が外れなくても、魔法関係の仕事に就けばそれで良いのではないかと思い始めました。
「その“ハチ”というアイテムは本当に珍しいよね。何より使い方が判明しているのが凄いよ、どこの考察屋がみつけたんだろう?」
「外し方はわからないですけどね」
「きっと何か条件があるんだろうなあ、研究し甲斐があるよな!」
同級生のアーサーはエクセクラン公爵家の4男だそうですが、4男なので好きなことをさせてもらっている、とアイテム研究を専門にしています。自分でも宝箱を開けに行きたいけれど、一生に一度の機会をどこで使うのか悩んでいると笑っていました。亡き母は自分のためではなく、私のために一生に一度の機会を使ってくれたのだと思うと、感謝の気持ちが湧いてきます。ただ、なぜこのような“ハチ”を被ることになったのだろうとは思いますけど。
卒業を間近にして、王都の魔法省に就職が決まったと父に連絡をすると、伯爵家の令嬢が城の侍女ならともかく、魔法省などという研究職に就職などとんでもないと領地から父がやってきて一喝されました。”ハチ“を被っていても構わないという男爵家へ後妻に行けと言うのです。
「ずいぶん古い考え方をする父君だね」
「私のことに興味がないのよ。“ハチ”なんか被っているから政略結婚の駒にもできないでしょう?」
アーサーがうーんと唸ります。
「なら私と結婚しないか?その“ハチ”の研究をしたいし、私は君の“ハチ”の下の顔にも特に興味がないから、“ハチ”を被っていても問題ない、むしろ“ハチ”があるからいい!アイテムオタクの魔法馬鹿だけどこれでも公爵家の出身だし、男爵家の後妻に行くより政略結婚の駒としての価値もあるだろう?」
「アーサー、そんな理由で結婚を決めるものじゃないわ。私は母の実家の侯爵家を頼ってロヴェール伯爵家から籍を抜こうかと考えているの。せっかく難関試験を合格して魔法省に就職が決まったんだもの。エクセクラン公爵家だって、いくら4男でもこんな“ハチ”を被った嫁は嫌だと思うわよ」
「私は君と一緒に魔法省でアイテムの研究をするのを楽しみにしていたんだよ。“ハチ”を被った嫁が嫌だというなら私も公爵家から籍を抜いてもいい」
アーサーの熱意に押し負けて、私はアーサーに連れられてエクセクラン公爵家へ赴きます。私ももし叶うのなら気の合うアーサーと結婚できればうれしいですし。
「ロヴェール伯爵家の令嬢なら家柄は問題ないが、その頭に被っている黒いボウルのようなものは何だね?」
ああ、最近はこれがアイテムだと知っている人ばかりと接していたので、久しぶりの質問です。
「これは”ハチ“というアイテムです。亡き母が被せてくれたのですがそれから外れなくなってしまったのです」
「神のアイテムか・・・アーサーが気に入ったのもわかるが、その“ハチ”を被ったままエクセクラン公爵家の嫁として社交界に出られるのはなあ・・・」
実に真っ当な評価です。私は予想通りの公爵の反応に苦笑します。
「父上!私はエクセクラン公爵家を継ぐわけではありませんし、研究者として魔法省に勤めるのです。わざわざ社交界に出てソフィアの”ハチ“を見世物にする必要もありませんし、ソフィアは私と一緒に魔法省に就職が決まっているのですから、私のアイテムと魔法に対する情熱への理解もあります。ソフィアを逃したら私は恐らく一生独身です!」
あ、あら?意外と切実ですね?私がアーサーの勢いにちょっと引いていると、公爵夫人が頷きます。
「そうですね。アーサーのように見た目のパッとしない爵位もないアイテムオタクの魔法馬鹿に嫁の来てがあるとは思えません。本人たちが良いと言うのならそれで良いのではありませんか?」
公爵夫人、実の息子に辛辣です。アーサーの見た目がパッとしないのは、見た目に構っている暇があれば研究をしたいからだと思いますが。
「それにその”ハチ“というアイテムは、亡きお母様が貴女のために手に入れてくださったアイテムなのでしょう?自分亡き後の娘を想って手に入れたアイテムですもの。悪いものではありませんわ、きっと」
ああ、お母様。このような訳の分からない“ハチ”を被っての生活は楽なものではありませんでした。好奇の目にも晒されましたし、良い縁談も来ませんでした。でも川に落とされた私を助けてくれましたし、何よりこの”ハチ“があるからこそ私に求婚してくださる殿方と出会えました。見た目や生家の身分に関係なく私が良いと言ってくださる殿方です。
“コロン”
私が亡き母への感謝の念を募らせていると、それまで何をしても外れることのなかった”ハチ“が頭から転がり落ちました。
「あ、あら?”ハチ“が外れた・・・?」
「ソフィア、君はそんな顔をしていたんだね・・・!」
「まあ、前ロヴェール伯爵夫人にそっくりですね!なんて美しい緑の瞳・・・!」
「公爵夫人は私の母をご存じなのですか?」
「ええ、もちろん。フルトラン侯爵家のリヴィア様でしょう?美女で有名でしたもの、ねえ旦那様?」
「うむ、そうだな。その”ハチ“が外れたのだから、うちのパッとしない4男のアーサーではなく、家を継ぐ予定の高位貴族の嫡男との縁談がいくらでも湧いてくるのではないか?」
「父上!」
公爵がおどけたように言い、アーサーが焦ってくってかかっています。
「いえ、この”ハチ“は外見や身分ではなく本当の私を見てくれる人に導いてくれました。このままアーサー様との結婚をお許しいただけますでしょうか?」
「ええ、もちろんですよ!せっかくそのきれいなお顔を隠していた”ハチ“が外れたのですもの、何枚もドレスを作って一緒にお買い物やお茶会をして遊びましょうね!私のことは良ければお義母様と呼んでちょうだい!」
公爵夫人が笑顔で手を叩き、公爵も肩を竦めて笑っています。久しぶりに“ハチ”が外れた視界はこんなに明るいのですね。
床に落ちた“ハチ”を拾い上げると、中に布包みが入っています。何年も被っていたというのに、全くわかりませんでした。
「何か入っていたのかい?」
「ええ、何でしょうか?」
包を開けると、そこには母のエメラルドのパリュールがひとつも欠けることなく輝いていました。私が大きくなったら、嫁に行くにしても婿を取るにしても私にくださると母が言っていたパリュールです。
「これはお母様のパリュール・・・!」
ネックレスのエメラルドにぽつりと涙が落ちました。
じわじわと、お母様への想いが沸き上がってきます。思えば、この”ハチ”を被ることで、これまで母のことも自分のこともあまり深く考えないようにしていたような気がします。
「お母様、お母様、お母様・・・!」
とめどなく流れる涙をアーサーがおろおろしながら拭いてくれます。
「君の母上は本当に君の幸せを願って神の宝箱を開けたんだね・・・」
「母が子を想う愛は無償なのですよ・・・」
公爵夫人も涙ぐんでいるのが見えます。
お母様、私はこの“ハチ”のおかげで新しい自分の家族を手に入れることができたようです。私の幸せを願ってくれてありがとうございます、ずっとずっと大好きです。




