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2.総絞り束ね熨斗文様振袖

「3年続きで冷害だ。これ以上領民に税を課すことはできん。マリアンナは今年成人だというのに、デビュタントのドレスも準備してやれん・・・」


 お父様ががっくりと項垂れます。ここ数年で白髪も皺も一気に増えたように見え胸が痛みます。


「私の昔のドレスを直すにしても、私とマリアンナでは身長が違いすぎますしねえ・・・」


 お母様が困ったように頬に手を当ててため息を吐きます。私はお父様に似たのか女性としては背が高く、お母様はとても小柄なのです。


 私はマリアンナ・ラヴェル。ラヴェル子爵家の第一子として生まれました。優しい両親と2歳下の弟と貴族としてはあまり裕福ではありませんが、幸せに暮らしていました。

 でも3年前から冷害が続き、元々これといった特産品のないラヴェル子爵領の財政は一気に傾いてしまったのです。


 私自身はデビュタントのドレスなどどうでも良いのですが、どこかから融資を受けるにしてもあまりにも貧乏だと難しいでしょうし、今後の弟の縁談にも差し支えるでしょう。今の状態では私の持参金も用意できないでしょうし。我が家に援助してくれる裕福な家があるのでしたら、お父様より年上の方の後妻でも、あまり評判の良くない殿方でも喜んで嫁がせていただくのですが。見た目なんてどうでも良いです、どうせ数十年もすれば皆衰えるのですし、そんなものより我が家と領民の生活の方が大切です。


「いっそ、貴族との縁を求める平民の裕福な商人にでも嫁げれば良いのですが・・・」

「貴族との縁を求めている平民に嫁ぐのならば、なおのこと城でのデビュタントは済ませておかなければならない。貴族としてデビュタントを済ませていなければ、それは貴族として認められないのだからな」


 そうなのですよね、この国ではデビュタント時の身分がずっと続くのです。平民として育ってもデビュタントを貴族として城で行えばその後は貴族として扱われますし、逆に貴族として育っても神殿で成人を迎えれば平民となります。

 城でのデビュタントに家格に相応しい衣装を準備できなければ、それはその家が貴族として相応しくないと見做されるのです。


「お父様、お母様、私はダンジョンに宝箱を探しに行ってみようと思います。切実に何かを求めている者が宝箱を開ければ、高確率で必要な物が入っているのでしょう?ダンジョン探索者のように深部に潜らなくても、浅い階層でみつかることが多いと聞きます。私は魔法を使えますし、私のように宝箱を求めてダンジョンに潜る素人の護衛を主に請け負ってくれる冒険者もいると聞きます」


「ダンジョンか・・・うちの領にあるダンジョンはさほど階層も深くないし、現れるモンスターもさほど強くないからな。貴族は男も女も有事の際に戦えなければならないし、試してみる価値はあるか・・・」


 そうです。貴族たるもの、有事の際に民を守って戦うのが仕事です。そのために私も幼少時から適性のあった火魔法を伸ばしてきたのですから。宝箱からデビュタントで着られるようなドレスかアクセサリー、もしくは高額で売れるようなアイテムが出てくると嬉しいですね。




「浅層で宝箱探しのための護衛ですね。マリアンナ様ご自身は火魔法を中級まで使えると。なら最低限必要なのは前衛と、神殿で治癒魔法の使い手を雇えば良いですよ」


 冒険者ギルドで護衛に黒髪に浅黒い肌の背の高い剣士を紹介されます。


「アーキルだ。よろしく頼む」

「私はマリアンナ・ラヴェルと申します。道中よろしくお願いいたします」


 その足で神殿へ向かいます。城でのデビュタントにはあまり日がありませんから、急がなければなりません。


「巫女のセシリアです。よろしくお願いします。治癒魔法はヒールしか使えませんが、遠隔で戦闘の補助はできますので!」


 金髪に紫の瞳の可愛らしい感じの巫女です。もっと寄付金を積むことができれば、様々な神聖魔法を使える神官や巫女を雇うことができるのですが、浅層での宝箱探しですしなんとかなるでしょう。


「えっとですね、今はお昼なので効果は落ちるんですが、最初に私がこのフロア全体のモンスターに呪いを付与しますね!」


 セシリアさんが笑顔でとんでもないことを言い出しました。

 フロア全体のモンスターに呪いを付与する?!

 そんなとんでもない能力があるのなら、もっと雇うのに必要な寄付金は高額になるはずなのですが?!


「ちょっと準備があるので待ってくださいね!」


 そう言ってセシリアさんがゴソゴソと取り出したのは、なんだか小汚い鉄の輪でした。ええ、どう見てもただの鉄の輪です。3か所ほどに突起のあるちょっと歪な。セシリアさんは、訝し気な顔をしている私とアーキルさんを気にも留めずに、その3か所の突起にろうそくを取り付けていきます。

 そして3本のろうそくに火を灯すとその鉄の輪を頭に被ってしまいました。


「「・・・・・・」」


 何と声を掛けたらよいのかわかりません。アーキルさんと2人無言で顔を見合わせます。

 木漏れ日の差す森の中で、暗くもないのにろうそくに火を灯した鉄の輪を頭に被る巫女。

 神よ、これは一体何の試練なのでしょうか?


「いきますねー!」


 私たちの困惑を他所に、セシリアさんは笑顔で藁の束を取り出し木に押し当てると、その藁の束に大きな釘をぶっ刺しました。


 “コーンンン”


 周囲に大きな音が響き渡ります。


「終わりました!行きましょう!」


 頭から鉄の輪を外し、ろうそくの火を消して取り外すと、セシリアさんは何事もなかったかのように鉄の輪と藁の束と大きな釘を仕舞いました。


「・・・今のは何の儀式だったのですか?」


 てくてくと歩き始めたセシリアさんに尋ねます。


「この階層全てのモンスターに呪いを付与したんですよ。真夜中にやった方が効果は高いんですけど、昼間でも睡眠とか毒くらいの付与はできますので!」


 ガサリ、と音がした方向を見ると、大きなイノシシ型のモンスターが倒れてブゴーブゴーと寝息を立てています。


「・・・すごいな」


 アーキルさんがぼそりと呟きます。


「すごいのはこの“カナワ”と“ゴスンクギ”と“ワラニンギョウ”を私に与えてくださった神様ですよ!最初に言った通り、私はヒールしか使えないので、何か他に戦闘で人を守ることができるアイテムが欲しいと神様にお祈りしたんです。そうしたら宝箱からこの3つが出てきたんです。神様は常に私たちを見守ってくださっているのです!」


「神は常に私たちを見守っている、か。本当にそうだったら良いのだがな・・・」


 アーキルさんがぼそりと呟きますが、セシリアさんには聞こえなかったようです。ふんふんと鼻歌を歌いながら薬草を採取しています。

 巫女のセシリアさんほどの信仰心はありませんが、私もセシリアさんに倣って神に祈ってみます。

 冷害続きで苦しむ我が家と領民たちを救うために、快く援助をしてくれるお金持ちの殿方をデビュタントで捕まえるためのアイテムをくださいませ。

 豊作になるようにとの祈りは毎年神殿で領民総出で祭りとして行っていますので、私が祈るのは俗世の願いです。天候というのは大きすぎてそれこそ神の領域ですが、お金で解決できる程度の願いなら神ももう少し気軽に叶えてくれないでしょうか。


 セシリアさんのおかげで弱ったモンスターをアーキルさんと私で駆除しながら奥へと進むと、ありました!


「これが宝箱ですね!」


 神はその者にとって本当に必要なものを、一生に一度だけ宝箱に入れてくれると言われています。一見使用方法のわからないアイテムはどれもみつけた個人に合わせたものであり、誰でもすぐにわかる汎用性の高いアイテムはその希少性に応じて取引されます。エリクサーなどが良い例ですね。なんならエリクサーが出てきてもとてもうれしいです、とっても高額で売れますから!

 逸る心を抑えて宝箱を開けます。

 中に入っていたのは、白い紙に包まれた布でした。ダンジョンの中で広げてみるには躊躇するほどの、白地に金や銀で美しい細長い模様の施された豪華絢爛な布です。その他にも少し硬い金銀の織り込まれた長い布が入っています。

 おお神よ、この布で私にデビュタントの衣装を仕立てよと仰せなのですね!


「わあ、綺麗ですねー!神殿でなんていう名前と効能が出るのか楽しみですね!」


 セシリアさんの無邪気な声ではっと我に返ります。

 そうでした、宝箱から手に入れたアイテムはまず神殿に持ち込んで名称と効能を啓示していただかなければならないのです。神の啓示を通さなければ、どれほどありふれたアイテムであっても正しい効能は発揮されないのです。




 神殿のアイテム鑑定の間は順番待ちの人で溢れています。ここにいる人々は皆神からの贈り物を手に入れたのですね、と思うと待ち時間もさほど苦になりません。

 やっと順番がやってきて、祭壇にアイテムを載せ、神に祈りを捧げます。

 すると天から光が降り注ぎ、ミスリル板に文字が浮かび上がりました。なんて神秘的な光景なのでしょう。


 “ソウシボリタバネノシモンヨウフリソデ”

 “キッショウガラフクロオビ”

 “未婚女性第一礼装。着用制限:未婚女性のみ”


 未婚女性第一礼装!素晴らしいです!これほどデビュタントに相応しい衣装はないでしょう!


 ・・・・・・


 衣装?

 これは布ではなく、すでにドレスなのですか?

 どうやって着るのでしょう?


「あの、マリアンナ様?どうしても使用方法がわからなかったら、隣の街の考察屋さんに相談してみると良いですよ!私の”カナワ“も全く使い方がわからなくて、その考察屋さんに教えてもらったんです!”カナワ“がろうそくを刺して被るものだなんて、自分じゃ100年かかっても絶対わからなかったと思いますし!ルナ・イザヨイさんていう店主さんがやってるお店です!」


 確かに、セシリアさんのあの呪い付与アイテムは物凄く不思議なアイテムでした。

 アイテムの使用方法を探るための考察屋というのはあちこちにあると聞いていますが、これも何かの縁でしょう。一旦屋敷に帰って、自分で着られないのか試してみてどうしても無理なら訪ねてみようと思います。

 私はセシリアさんとアーキルさんにお礼を言って子爵家の屋敷に帰りました。




「まあ、なんて美しい布でしょう!このような布がダンジョンの宝箱に入っていたのですか?」


 お母様がうっとりと模様を撫でます。本当に美しいですよね、私も眺めながらため息が止まりません。


「神殿での啓示はどうだったのだ?」

「“ソウシボリタバネノシモンヨウフリソデ”と“キッショウガラフクロオビ”です。未婚女性の第一礼装で未婚女性しか着用できないようです」

「まさにデビュタントのための衣装ですわね!」

「そうなのですけど、これをどうやって着たら良いのかわからないのです。最初はこの布でドレスを仕立てれば良いのかと思いましたが、どうやらこれは既に衣装のようですし・・・」


 広げて長い袖らしきものに手を通してみましたが、裾は長く引き摺りますし、この“キッショウガラフクロオビ”という布の使い方もわかりません。ベルトのように腰に結ぶのかとも思いましたが、このように幅の広いベルトなど見たことがありませんし、何よりベルトとしては長すぎます。他にも肌着らしき白い衣装や細長い布や紐、2本の布のついた楕円形の板のようなものが2つ、親指とその他で分かれた白い靴下のようなものと使途不明なものがたくさんあるのです。 


「考察屋に行ってもわからぬことが多いからな・・・城でのデビュタントはもう2週間後に迫っておるし」

「あの、お父様、今回一緒に行ってくださった神殿の巫女が、良い考察屋を紹介してくださったのです。その巫女もとても不思議なアイテムを使っていたのですが、その使用方法を教えてくれた考察屋だそうで」

「どうせどこかの考察屋に行くのなら、そこに行ってみようかと思いますの。このアイテムは神からの贈り物ですし、紹介してくださったのが神殿の巫女だというのも何かの縁ですので」


 幸い紹介していただいた店は城に向かう途中の街にあります。もしこのアイテムの着用方法がわからなければ、貴族としてのデビュタントは潔く諦めて神殿で平民として成人の儀式を受けようと思います。ロクな支度もできずに城のデビュタントに出席するくらいなら、最初から貴族になるのを諦めた方が家にとっても私自身にとっても良いと家族で話し合って判断しました。私は貴族として教育を受けてきましたから、読み書き計算もできますし、火魔法も中級まで使えますから、平民として生きていくのはさほど難しくありません。実際に貧乏な下級貴族では、子供が多いと下の方の子供は最初から平民として成人の儀式を受けることも珍しくはないのです。




 セシリアさんに教えてもらった店の扉を開けると、チリンチリンと扉の上部に取り付けられたベルが鳴ります。


「いらっしゃいませ。異世界アイテム取り扱い考察店へようこそ。店主のルナ・イザヨイと申します」


 癖のない長い黒髪をきちんと結い上げた黒い瞳の女性が座っています。銀縁の眼鏡越しの切れ長の眼は怜悧な印象を与えます。


「巫女のセシリアさんからの紹介で来ました。アイテムの使用方法を考察していただきたいのですが」

「ご存じかと思いますが、必ずしも使用方法が判明するとは限りません。判明しなかった場合も考察料の3万ギルの返金はありません。よろしいですか?」

「はい。承知しております」


 私は3万ギルを支払い、店主の前のテーブルにアイテムを載せていきます。


「“ソウシボリタバネノシモンヨウフリソデ”と“キッショウガラフクロオビ”です。効能は未婚女性第一礼装で未婚女性のみが着用できます」


 店主がその切れ長の黒い瞳を細め、そっと“ソウシボリタバネノシモンヨウフリソデ”を撫でます。


「総絞り束ね熨斗文様振袖と吉祥柄袋帯ですね。素晴らしい品ですね」


 あら?何か発音が少し私とは違うような?もしかしてこの店主には使用方法がもうわかったのでしょうか?!


「あの、城でのデビュタントに使いたいのですが、もう十日後に迫っているのです。わかりそうでしょうか?」


 一緒に来た両親も固唾を飲んで店主を見つめます。


「わかります。ただ、この衣装を美しく着付けるにはそれなりの技術を要します。十日でそれをそちらの家の侍女なりメイドなりが習得できるかとなると難しいかもしれません」


 そ、そんな!


「あの、店主?成功報酬の他に出張料金を支払いますので、一緒に王都まで同行していただけませんか?娘が貴族としてデビュタントできるかどうかがかかっているのです。貴女ならこの衣装を美しく着せることができるということなのですよね?」


 お母様が指から大きなサファイアの指輪を抜いて店主の前に置きます。その指輪はお母様の嫁入り道具のひとつで、他のアクセサリーはこの3年の冷害で売ってしまいましたが、それだけはお母様のおばあ様から贈られた品だから、と大事にしていましたのに!

 店主とお母様が見つめ合います。

 店主が目を伏せました。


「わかりました。同行させていただきます。ただ、私も振袖の着付けはあまり経験がありませんので、帯はふくら雀か文庫くらいしか結べませんが」


 フクラスズメ?ブンコ?なんのことかわかりませんが、この店主は間違いなくこのアイテムの着方がわかるのでしょう。考察屋というのはすごいですね!




 デビュタントの日の朝、私は店主に言われるがままに白い肌着を身に着け、親指だけ分かれた白い靴下を履きます。店主によるとタビというそうですがよくわかりません。


「ふむ、補正はほとんど必要なさそうですね」

「ホセイ?」

「この衣装は、あまりメリハリのある体形だと似合わないのですよ。マリアンナ嬢はスレンダーで実に素晴らしい!」


 私はお胸があまりありません。全体的に細くて、流行のドレスはお胸を強調するようなデザインばかりで、貧相な私には似合わなくてずっと嫌でした。

 店主は慣れた手つきで何本も紐を結びながら1枚ずつ着せていってくれます。着せてもらっている私もですが、一緒に見ているお母様もさっぱりわかっていないでしょう。今日のために店主は、素晴らしい刺繍の施された細長い白い布を“ハンエリ”というものだと言って“ナガジュバン”という肌着の上に着る衣装に先に縫い付けてくれました。


「店主はこの衣装の着方をどこで知ったのですか?」


 長い長い“キッショウガラフクロオビ”を二つ折りにしてくるくると巻かれます。これはベルトで合っていたのですね、このように二つ折りにして何重にも巻くものだとは思いませんでした。


「私の故郷の衣装なんですよ。この束ね熨斗というのはとてもおめでたい模様で、今日のようなデビュタントや結婚式の衣装によく使われます。袖がこんなに長いのは未婚女性の礼装で、既婚になると短くなります。母から娘へ譲られることもある衣装ですので、大切にすると良いですよ」


 母から娘へ譲られることもある衣装。

 私もいつか娘へ譲ることができるのでしょうか。


「さあ、できました!振袖は衣装そのものが芸術品ですから、下手なアクセサリーは必要ありません。髪飾りも生花で良いでしょう。いかがです?」

「まあ、マリアンナ、とてもきれいよ・・・」

 

お母様が涙ぐみます。

 こんなに素晴らしい衣装ならデビュタントで恥をかくことはありません。我が家に援助してくれる良い縁談もくるかもしれません。




**********


 はあ、ここ数年の女性のドレスは胸を強調した下品なものばかりだ。胸の大きな女性を好む男が多いのは事実だが、私はささやかな方が良い。もっとこう、清楚でおくゆかしい感じの女性の方が好みなのだ。女性は家柄や財産目当てに男を選んでいるのだから、男だってせめて好みの外見の女性を選びたいと思ったっていいだろう。我がアドレット侯爵家は代々領地運営は堅実で、特に政治的に政略結婚をする必要もないからと婚約者を決めていなかったのが裏目に出た。女性からのぎらぎらした視線が非常に気持ち悪い。でかい胸を押し当てられても全然嬉しくない。大きな胸に包まれたいと言っていた男がいたから、そういう男にやってほしい。私は大きな胸に包まれるよりも、小さな胸を包んでやりたい。


「ミシェル、君はまたそんな眉間に皺を寄せて、綺麗な顔が台無しだぞ」

「台無しで結構だ。デビュタントだというのに、清楚さの欠片もないドレスを着た女性ばかりじゃないか。あれに餓えた肉食獣のような目で見られるんだぞ、ぞっとする」


 季節毎の城でのデビュタントに独身の貴族が出席するのは義務だから、仕方なく出席しているだけだ。


「もてるんだから、さっさと婚約者を決めればいいじゃないか」

「もてるからこそ好みの女性を選びたい」

「まあ、その理論には同意するがね」


 その時、派手に着飾った女性たちの中に一人、見慣れない衣装の女性が目に入った。

 全く露出のない白いストンとした衣装、だがその衣装の模様は素晴らしく華麗で、豪奢なパリュールを身に着けている女性も多い中、一切アクセサリーを身に着けず、黒髪に白い生花を飾っただけのすらりとした姿はまるで芸術品のようで目を奪われた。


「あの女性はどちらの令嬢だ?」

「うん?一緒にいるのがラヴェル子爵夫妻だからラヴェル子爵家の令嬢じゃないか?変わった衣装だなあ、でも綺麗だな」



***********



 私はデビュタントでアドレット侯爵家嫡男のミシェル様から求婚されました。清楚で貞淑そうな姿に目を奪われたのだ、と後日照れくさそうに言われました。アドレット侯爵家は資産家ですので、冷害という人間にはどうしようもない理由で困窮していた我が家と領地への支援を約束していただけました。

 お母様の指輪も、事情を知ったミシェル様が買い戻してくださり、今は私の指に嵌っています。お母様は元々私の嫁入り道具としてこの指輪を持たせてくださるつもりだったそうです。


 そして私は今、アドレット侯爵家へ嫁入りする前に考察店に通って“ソウシボリタバネノシモンヨウフリソデ”の着方を教わっています。将来娘が生まれたら、デビュタントにこの衣装を着せてあげたいのです。この衣装がお母様とお父様を出会わせてくださったのですよ、と言って。


 母から娘へ譲られることもあると店主が言っていましたもの。神から贈られたアイテムです。きっと娘にも良い出会いを運んでくれるに違いありません。


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― 新着の感想 ―
わーいヾ(*´∀`*)ノ 更新ありがとうございます! 着物か…そう来たか……と思った瞬間TVCMに同じ事言われた。オマオレ…??
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