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12.くノ一の簪

 私の名はエルネスタ。

 家は伯爵家で、代々騎士の家系だ。

 父も兄も弟も当然騎士で、私も騎士だ。女騎士は数は少ないが、王族や高位貴族の女性の護衛のため需要は多い。女性しか出席しないお茶会にも普通に出席できるしな。


「エルネスタ。お前は本来ならば王妃様や王女様方の護衛騎士となっても問題のない身分だ。騎士としての技量も問題ない。ならば何が問題かわかるな?」


 父上が苦虫を嚙み潰したような顔でため息を吐く。


「ええと、先日の夜会で靴に仕込んだ刃で潜り込んでいた者を仕留めたことでしょうか?あの時はヒールも鉄製にしていたので、蹴りも非常に効果的で・・・」


 太腿に小型のナイフを巻き付けたり、ドレス姿だと色々と武器を隠し持つことができて女は便利なのだが、最近は会場に入る前の武器所持チェックが厳しくなっているから、こちらも毎回大変なのだけれども。


「お前はドレスを着て美しく装ってもガサツで女らしくないから、明らかに護衛だとすぐバレるんだ!」

「父上、それはもう諦めましょうよ。武門の家に生まれて物心つく前から騎士の訓練をしてきたのですから、いっそ男装して王女様方をエスコートする方がマシだと思いませんか?」

「お前はなまじ背が高くて顔が良いから、男装なんてしたらおかしな性癖を拗らせる女性が増殖する!ただでさえ言葉遣いも気を抜くと男のようなのに!」


 騎士としての技量と女らしさを同時に求められても難しいのだが。先代王国総騎士団長のテレサ様を基準にされても困る。なんせお若い頃のテレサ様は、華奢で色白で銀色の髪と瞳で、見た目だけは妖精のように儚げな美女だったそうだし。お年を召しても小柄で品の良い老婦人だけれども。

 これでも貴族令嬢としてのマナーは完璧なはずなのだけれども、どうにも私には優雅さや色気というものが足りないらしい。守られるよりも守りたいと思うしな。結婚するなら、同じ騎士よりも文官が良いと思っている。頭の良い男を暗殺とかから守りたい。


「気分転換にダンジョンでも行くか」


 休みの日に気分転換と小遣い稼ぎを兼ねてダンジョンに潜るのは、騎士には珍しくない。体力回復ポーションや魔力回復ポーション、毒消しポーションなんかなら浅層の宝箱から出るしな。自分で使っても良いし、騎士団に備蓄として売っても良い。ちょっと珍しい武器や装備品なんかが出ても嬉しい。全く使い道のわからないアイテムが出ても、それはそれで面白いし。


「お、また宝箱だ。今日は豊作だな」


 神殿で鑑定するまでは確定ではないけれども、既に体力回復ポーションと魔力回復ポーションが3本ずつ出ている。1本ずつ自分用に確保して、あと4本は騎士団に売るつもりでいる。


「なんだ、これ?」


 宝箱を開けると、そこには美しい飾りのついた銀のピンが入っていた。




 神殿の鑑定の間はいつも通り人がたくさんいた。アイテムは神殿で鑑定されてからでないと使えないから、どんなに何度も見てきたアイテムであっても鑑定しなければならない。普通の体力回復ポーションだと思っていたものが、実は猛毒回復ポーションだったりすることもあるらしいし。アイテム鑑定のためのお布施は一律で100ギルと決められている。これは子供や貧民への救済措置らしい。アイテム鑑定のお布施は神殿が運営する孤児院や学校の運営資金に充てられると決められているから、もう少し高くても良いと思っているけどね。


 体力回復ポーションと魔力回復ポーションは実は違うポーションだったりすることなく、普通に体力回復ポーションと魔力回復ポーションだった。どちらもその時の流通量にもよるが、市場では大体3万ギルから5万ギルで取引されている。騎士団に売れば一律どちらも4万ギルだ。

 さて、問題は初めて見る銀のピンなのだけれども。

 天から光が降り注ぎ、ミスリルの板に文字が浮かび上がった。


 “クノイチノカンザシ”

 “素早さと魅力が5倍になる。使用制限:女性のみ”


 素早さと魅力が5倍!凄いじゃない!しかも女性にしか使えない!


 ・・・でもどうやって使うんだ、これ?


 銀のピンをしげしげと眺める。

 ピンの先に赤い玉と白い玉が一つずつ付いた、銀の葉を象った飾りの付いた美しいピンだけれども、襟にでも刺せば良いのだろうか?


 屋敷に帰って侍女たちに聞いてみたけれども、服に刺したり、マントの飾りとして刺してみたりしたけれども、効果は発揮しない。魅力はわからないけれども、素早さが5倍にもなるというなら、効果として実感できるだろうし。


「お前も貴族女性として着飾る気になったのか?そろそろ嫁き遅れの年だしな、女騎士として一生独身を貫く気かとも思ったが、結婚する気があるのなら、伝手を当たるが」

「結婚はしてもしなくてもどちらでも良いですが、するなら守り甲斐のありそうな文官が良いです。て、そうじゃなくてですね、このピンは先日ダンジョンで手に入れたのですが、使い方がわからないんですよ。素早さと魅力が5倍になる“クノイチノカンザシ”という女性限定アイテムなんですがね、父上、似たようなアイテムに心当たりはありませんか?」


 襟元に刺した“クノイチノカンザシ”を抜いて父上に渡す。


「・・・“オイランノカンザシ”というアイテムを見たことがある。それは10本ほどのセットで、女性限定で魅力が20倍になるという恐ろしいアイテムだった」


 魅力が20倍になどなったら、高級娼婦などが身に着けたらどんな男でも手玉に取られてしまうだろう、とぶつぶつ言いながら父上は“クノイチノカンザシ”を眺めていたが、そのまま私に返してくれた。


「残念ながら私には使い方はわからない。その“オイランノカンザシ”も使い方はわからないままに、城の宝物庫に保管されているはずだ。実際に使われて国の要人が揃って骨抜きにされたら大変だからな。これは5倍とのことだし、お前の魅力が5倍になればそれなりに女らしくなってちょうど良いのではないか?なんなら、考察屋にでも行ってみたらどうだ?素早さも5倍なら騎士としても使えるアイテムだろう」


 考察屋か。


 魅力はともかく、素早さ5倍はとても魅力的なんだよな。騎士として重い全身鎧を身に着けることもあるわけだし。


「父上、考察屋の成功報酬は高額になることが多いのですよね?素早さと魅力が5倍となれば、それなりの額になると思うのですが、伯爵家の予算から出してくださいますか?」

「・・・そうだな、女騎士のアイテムとすれば、我が家にも有用か。そうすると、お前個人のアイテムではなく、我が家で所有するアイテムとなるがそれでも良いのか?」

「構いません。今この家で女騎士は私1人ですし、代々女騎士が身に着けることができれば役に立つでしょう」




 騎士団で何人か行ったことのあるという考察屋を教えてもらい、連休を使って行ってみることにする。王都ではなく、リヴィエール公爵領にある街の考察屋が有名なようだ。黒髪の理知的な美女がやっている店らしい。


 店の扉を開けると、チリンチリンと扉の上部に取り付けられたベルが鳴る。


「いらっしゃいませ。異世界アイテム取り扱い考察店へようこそ。店主のルナ・イザヨイと申します」


 長い黒髪をきっちりと綺麗に結い上げた、眼鏡をかけた細身の女性が座っている。


「汎用アイテムの使用方法を考察していただきたくてきたのですが」

「ご存じかと思いますが、必ずしも使用方法が判明するとは限りません。判明しなかった場合も考察料の3万ギルの返金はありません。よろしいですか?」

「はい。承知しています」


 私は3万ギルを支払い、店主の前のテーブルにアイテムを載せる。


「“クノイチノカンザシ”です。効能は“素早さと魅力が5倍になる。使用制限:女性のみ”です」

「くノ一の簪、ですか。なるほど。お客様は戦いを生業になさっている方ですか?」

「王都の騎士団の騎士です。女騎士は本来ならば夜会や茶会にも潜入しやすいのですが、いかんせん、顔はともかく、女性らしさが足りないためにすぐに騎士だとバレてしまうので、素早さと魅力が上がるというのはとても助かるのですが、どうでしょう?使い方はわかりそうでしょうか?」


 くすり、と店主が笑い、ドキリとする。色気があるというのはこういう女性を言うのだろうな、切れ長の黒い眼が流し目をくれる。


「わかりますよ。女騎士だというのでしたら、この簪は手元に何も武器がない際に武器にもなります」

「武器にも?!それは素晴らしい!是非使い方を教えていただきたい!あ、考察屋の成功報酬の相場を調べてきたのだが、こういう身体能力が上がるタイプのアイテムは1000万ギルからとのことだったが、間違いないでしょうか?」

「魅力が5倍になるというのは、他者へ与える精神影響もありますからもう少し上がりますね。1200万ギルです」


 わかりやすく相場表を出して見せてくれる。怪しいところのない実に明朗な料金体系だ。私個人で1200万ギルはキツイが、父上から家の予算を使っても良いと許可をもらっておいて良かった。


「わかりました。1200万ギル後日振り込ませていただきます。使い方を教えていただけますか?」

「実際にやって見せた方が早いでしょうね。これは髪飾りなのですよ」

「髪飾り?このピンが?」


 私は服の襟やマントの飾りにしてみたが、髪飾りだというのなら効果を発揮しなかったのも当然だろう。

 店主が立ち上がって私の前にやって来て背を向ける。


「よく見ていてくださいね」


 店主が自分の髪留めを外すと、癖のない長い黒髪がさらりと流れ落ちた。その黒髪をひとつにまとめ捩じり上げ、“クノイチノカンザシ”を手に取りクルリと髪を捩じって差し込むと、店主の長い黒髪はきっちりとまとまっていた。


「え?どうやったんです?もう1度やってみせてください!」


 そんな細いピン1本でそんなに簡単に髪がまとまるものなのか?!


「いいですよ。これは慣れの問題ですから、何度かやっているうちにできるようになります。そして武器として扱いですが・・・」


 ズダン!


 気付くと私は店の天井を眺めていた。床に倒れた私の上には店主が乗り、細い手がその黒髪から“クノイチノカンザシ”を抜き取り、私の喉元にその先を突き付ける。

 店主の長い黒髪が私の顔にかかり、切れ長の黒い眼が細められる。


「こうやって武器として使います」


「なるほど・・・」


 え?いくら素早さ5倍になっているといっても、騎士としてずっと鍛錬してきた私を一瞬で投げ飛ばした?この店主、もしかして、物凄く強いのでは?


「さあ、髪を簪1本で結い上げる練習をしましょうか」


 店主に言われるままに、髪を結う練習をし、なんとか“クノイチノカンザシ”1本でまとめることができるようになったところで、私は店主に聞いてみる。


「店主、“オイランノカンザシ”というアイテムの使用方法ももしかしてわかりますか?」

「花魁の簪?もしかして10本くらいありますか?多分わかりますよ」


 父上は間違っても使われることがないように、と城の宝物庫に収められたと言っていたしな。使用方法は不明のままの方が良いのだろう。




 それから私は毎日“クノイチノカンザシ”で髪をまとめて過ごすようになった。いきなり素早さが5倍になっても、動きに慣れておかないといざという時に動きにくいからな。飾りが銀の葉と赤と白の玉がひとつずつというのも邪魔にならなくて良い。お茶会や夜会でも、雰囲気が柔らかくなったと言われ、一目で護衛とバレることがなくなったので、魅力5倍もちゃんと仕事をしているようだ。


「エルネスタ、お前に婚約の申し込みが届いている」

「婚約?どこの誰からです?」


 父上がにやりと笑った。


「カースフィールド侯爵家の次男だ。先日の夜会でお前がその“クノイチノカンザシ”を髪から引き抜いて賊の喉元に突き付けた姿に一目惚れしたそうだぞ。仕事は宰相補佐官で、お前の好きそうな線の細い頭の良い文官だ。頭は切れるが、武芸はからきしで、宰相補佐官という立場から暗殺者にも狙われやすい。お前に護衛を兼ねた妻になってほしいという打診だが、どうする?」

「受けます!もちろん!喜んで!」


 後日顔合わせをしたセシル・カースフィールド様は、まさに好みのど真ん中!細身で少し神経質そうな眼鏡をかけた水色の髪に水色の眼の美形だった。


「残念ながら私は武芸の才には全く恵まれなくて、女性の貴女に守ってほしいと望むような軟弱な男ですが構いませんか?仕事上、暗殺者にもよく狙われます」

「私は騎士ですので、守るのが仕事です。騎士ばかりの家で育ったせいか、女ですが守られるよりも守りたいという気持ちが強いので、全く問題ありません。ガサツで女らしくない私ですが構いませんか?」


 セシル様は眩しいものをみるように水色の眼を細めて私を見た。


「エルネスタ様は綺麗ですよ。先日の夜会で髪からピンを引き抜き、床に倒した賊に突きつけた姿を見た時、波打つ金髪が一気に解かれて流れ落ちる様がなんて美しいのだろうと見惚れました」

「あ、申し訳ありません、これはダンジョンから手に入れたアイテムでして、“クノイチノカンザシ”というのですが、素早さと魅力が5倍になるという代物なのです。セシル様が美しいと思ってくださったのは、魅力が5倍になっていたからだと思います」


 慌てて“クノイチノカンザシ”を髪から引き抜いてセシル様に渡す。解けた髪がばさりと落ちてくる。


「正直な方ですね。ですが、アイテムを身に着けていて発揮される効能は、そうやって外してしまっては効能も消えると思いませんか?この”クノイチノカンザシ“を身に着けていなくても、貴女はとても綺麗ですよ」


 くつくつと笑うセシル様に私は自分の顔が熱を持つのを感じた。


この世界ではポーションも全てダンジョンの宝箱から出る汎用アイテムです。人間が作製できるのは、漢方薬みたいなのくらいです。

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