11.牛鬼の褌
俺の名はクランツ、冒険者をやってる。
実家は貧乏騎士爵の3男で、食うために冒険者になった。下の下とはいえ、一応貴族の家に生まれたおかげで、読み書き計算と剣術の基礎くらいはどうにか仕込んでもらえたのは幸いだったな。
ただ、俺はどうも筋肉が付きにくい体質みたいで、いくら鍛錬しても筋肉が付かず細いままだった。素早さはあるんだが、攻撃力と防御力がないんだよな。これまでずっと素早さでどうにか危ない場面を切り抜けてきたが、これ以上の深層に挑むのは厳しいだろう。
自力で騎士爵を得るほどの才もなく、冒険者としても中堅止まりか。
わかっちゃいたが、少しばかり虚しい。
戦姫テレサ様みたいに天才的な身体強化の魔法の才能があれば、人生もっと楽しかっただろうなあ。
「お、宝箱だ」
冒険者がダンジョンの深層に挑むのは、高額で取引される汎用アイテムを手に入れるためだ。もちろん珍しい魔獣の素材なんかも取引されるが、それはまず討伐できなきゃ話にならんからな。巨大だと運ぶのも大変だし。
一攫千金を狙うなら、代表的なのはエリクサーだろう。
オークションに出せば、最低でも1億ギルからのスタートだ。一生遊んで暮らせる。まあ、ここは20階層だからな、そんなアイテムはまず出ない。
「またこれかよ・・・」
宝箱に入っていたのは、白くて細長い布だった。
手に入れるのはこれで3回目だ。
神殿での鑑定は“ギュウキノフンドシ”で効能は”防御力と攻撃力が10倍になる。使用制限:男性のみ“なんだが、使い方がさっぱりわからないんだよな。最初に見つけた時は小躍りして喜んだが、頭に巻いたり、首に巻いたり、腰に巻いたりしてみたが、全く効能を発揮しない。
アイテム買取屋に持っていくと、有名な外れアイテムだった。効能は素晴らしいのに、使い方が全くわからんクソアイテムだ。
宝箱から手に入るアイテムは神に授けられたものだから、捨てるわけにもいかない。使い方がわからずに苛立って捨てたら神罰が下ったとか、有名なおとぎ話はたくさんあるからな。
似ているが違うアイテムかもしれない、と一縷の望みをかけて神殿に行ったが、やっぱり“ギュウキノフンドシ”だった。
アイテム買取屋にも、在庫があるからと買取拒否されたのにさあ。
「巫女様、先日紹介していただいた考察屋が見事アイテムの使用方法を解明してくれたんです!ありがとうございます、これはお礼のお布施です」
「ありがとうございます、神もお喜びでしょう。あの考察屋さん、すごくよく当たるので、アイテムの使用方法に悩んでいる方にはよく紹介させていただいてるんですよ」
3枚目の“ギュウキノフンドシ”を握りしめて項垂れる俺の耳に、巫女さんと信者の会話が聞こえてきた。
考察屋か。
売却目的の汎用アイテムをわざわざ考察屋に持っていくことはない。考察料にまず3万ギル取られるし、使用方法が判明しても成功報酬は高額なことが多いから、アイテムの売却額より高額だったりしたら大損だからだ。
だが、もしもこの“ギュウキノフンドシ”の使用方法が判明したら、売却するなんてもったいないことせずに自分で使えばいいよな。攻撃力も防御力も10倍になるなんて、個人用アイテム並の破格の性能なんだし。3個あるから、残りの2個を知り合いに売りつけてもいい。
俺は巫女さんからよく当たると評判の考察屋を紹介してもらった。アイテム屋にも売れないアイテムを3個も抱えていても仕方ないし、もし使い方がわかれば俺は冒険者としてもっと上に行ける。
店の扉を開けると、チリンチリンと扉の上部に取り付けられたベルが鳴る。
「いらっしゃいませ。異世界アイテム取り扱い考察店へようこそ。店主のルナ・イザヨイと申します」
長い黒髪をきっちりまとめた、眼鏡をかけた細身の女が座っている。
「神殿からの紹介で来た。個人用のアイテムでなく、汎用アイテムなんだが、3個も手に入ったんだが使い方がさっぱりでな。アイテム屋にも在庫がダブついてるとかで売れないし、使用方法がわかるとありがたいんだが」
「ご存じかと思いますが、必ずしも使用方法が判明するとは限りません。判明しなかった場合も考察料の3万ギルの返金はありません。よろしいですか?」
「ああ、わかってる」
俺は3万ギルを支払い、店主の前のテーブルにアイテムを載せる。
「“ギュウキノフンドシ”だ。効能は“防御力と攻撃力が10倍になる。使用制限:男性のみ”だ」
「ギュウキ・・・ああ、牛鬼か、その褌・・・?」
店主がなんだか嫌そうな目で“ギュウキノフンドシ”を眺めている。
「使い方がわかるのか?」
「まあ、一応は。わかるといえばわかりますが・・・」
なんだか物凄く嫌そうな顔をしているが、わかるのか?!
「教えてくれ!あ、攻撃力と防御力が10倍になるなんてアイテムだもんな、成功報酬も結構高くなるか?」
「そうですね、男性なら誰が身に着けても攻撃力と防御力が10倍になるという性能ですからね。使い方さえわかれば売却してもかなりの高額になるでしょう。この系統のアイテムの成功報酬は1000万ギルからなのですが、私の依頼を受けてくださるのでしたら、半額の500万ギルにいたしますよ」
1000万ギルか。でも当然そのくらいかかるよな。呪いや状態異常系のアイテムならもっと高額らしいし。
「店主さんの依頼はどんな依頼なんだ?」
「簡単な依頼ですよ。深層に挑む冒険者とお見受けいたしますので、今回の“牛鬼の褌”のように一見使用方法のわからない汎用アイテムがみつかれば持ってきてほしいのです。私はアイテム収集をしておりまして、珍しいアイテムでしたら買取させていただきたいと思いまして」
なるほど。
それは俺にとっても悪くない取引だ。
普通のアイテム屋では買取してないか、買取しても全然労力に見合わない安値をつけられる、使い道のわからないアイテムを引き取ってくれるということだもんな。
「わかった。この先、珍しいアイテムがみつかったらこの店に持ってくるぜ。使い方を教えてくれ!」
「まず、この牛鬼の褌は、男性用の下着です」
「は?下着?」
「説明しますから、服の上から自分で締めてみてください」
「お、おう・・・?」
実に嫌そうに顔を顰めながら淡々と説明する店主の指示通りに俺は“ギュウキノフンドシ”を手に取る。
「ええと、六尺褌の締め方は、まず半分に折った布の真ん中を股間の付け根に合わせます。いえ、そうではなく、布の中心が股間に来るように・・・」
なるほど、これは女性が男にわざわざ説明するのは嫌だよな、最初から嫌そうな顔をしていた理由がわかったぜ、なんか非常に申し訳ない。
「3枚持っているとのことですから、洗濯替えもあって良かったですね」
「あ、ああ。そうだな・・・?」
服の上から”ギュウキノフンドシ“を巻いた?いや、店主は締めると言っていたな、俺の姿は物凄く珍妙だと思うが、とりあえず、帰ってから何度か練習してきちんと締めてみるか。
“ギュウキノフンドシ”を正しく使用できるようになってからの俺は、どんどんダンジョンの深層に挑戦していった。
もともと素早さには定評があった俺が攻撃力も防御力も10倍になったんだ、今は50階層付近まで攻略できるようになった。
アイテム屋でダブついてた“ギュウキノフンドシ”の在庫も買い占めた。
あの店主の言ってた通り、洗濯替えも重要だしな、3枚だけじゃ足りないぜ!




